雨の中の不在票には。

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雨の中の不在票には。

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 しとしとと雨粒が地面に落ち、サビたブリキ屋根からしずくがポタポタ一定のリズムを刻んでいる。昼間だというのに、日差しはどこにも見当たらない。

「帰ってくるの遅れたー」

 開いては空気抵抗でタイムロスになると折りたたまれている傘を右手に持ち、マンションの玄関口へと飛び込んできたのは、貴寿(たかひさ)である。本来はあと三十分ほど早く到着できるつもりだったのが、部活の説教が長引きこの時刻になってしまったのだ。

 それだけならば昼食の時間がやや遅めになるだけだが、あろうことか貴寿は会う約束を入れてしまっていたのである。とんだ大失態だ。

「もう帰っちゃったかな、莉宇(りう)は……」

 貴寿には、つい最近彼女が出来た。名前は、莉宇という。貴寿の猛アタックで落とした彼女は、何とも人を惹き込むのが上手であり、たった一分でも触れ合うだけでもその心の広さを実感できる。

 今日は、何回目かのデート……のはずだった。予定通りに事が運ぶものだと楽観視していた貴寿が、正午付近に待ち合わせをマンションの玄関口で取り付けていた。

「……莉宇に電話するか……」

 きびすを返して自室へと直行しようとした貴寿。ふと、ポスト受けに薄っぺらい紙が入っていることに気が付いた。

 ポスト受けを開けて中身を確認すると、それは不在票だった。

 ……不在票? 何か、頼んだかな?

 宅配を頼んでいたわけではない。配達間違いかと、差出人の名前を見て、

『差出人:山坂 莉宇』

 莉宇であった。

 続きの文章が、つらつらと書かれていた。



『今日玄関まで来てみたけど、貴寿どこにもいなかった。
 せっかく楽しみにしてたのに、貴寿が来なかったら意味無いじゃん! 貴寿の方から誘って来たんだから!
 次会った時は、覚悟しといてよね!
 ……それでも、ガッツがあってかっこいいところが好きなんだから』



 貴寿が全力を集中させて書いたラブレター以来の、文書でのやりとりだった。すっぽかしていることへの怒りはもちろんだが、その中にも愛が含まれている。

 ……莉宇、雨も降っててさぞかし寒かっただろうに。

 貴寿が莉宇と初めて出会ったのは、春のこと。遅刻ギリギリで急いでいた貴寿が、前方不注意で莉宇に激突してしまったところから始まる。

 第一印象の貴寿は、最悪だっただろう。大柄な男子が小柄な女子にぶつかったとなれば、下手すると大けがになる。

 幸いにも、莉宇が回避行動を取ったため、ケガを負わせずに済んだ。それどころか、ぶつかった側の貴寿に気遣いの声をかけてくれたのだ。

 その翌日、また莉宇と話す機会が生まれた。貴寿としては改めて謝って場を収めようとしたのだったが、脱線した趣味の話で意気投合し、そして今に至るのだ。

 ……奥手なところも、莉宇だよな。

 胸が、じんわりと暖かくなった。ただの紙切れが、ラブレターのように見えた。
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