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第一部 第二章 ドラゴン娘と冒険

Episode008 リルフィのこれから

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「ここがその街なのか?」

リルフィはあれからというもの、全く動けなくなってしまったので今は俺に背負われている。
どうやら、精霊の力を使うには生命力を使うらしく、何か食べればどうにかなるとのこと。
俺としては、昔のシノアとのことも聞きたいし。

「そういえば、リルフィは最初から服を作れたんだな」
「まあ、作れたといえば作れたぞ。精霊王さんに教えてもらったのだ!」

いや、結局は人任せみたいなモンじゃん。
俺の感心を返せと言いたくはなったが、それにあまり意味を感じなかったので言わないでおいた。

「ねえ、リルフィ。今まで300年間で、何か変わったことはありましたか?」
「特に何もなかったのだ。いて言えば、精霊王さんに気に入られたことくらいなのだ」
「それ普通に重大なイベントじゃないのか?」

精霊王に気に入られるっていうのがどんなものか想像がつかないが、つまりは何かしら優れた能力でもあるんだろうか。
その辺は後で聞くか……。
とりあえず、適当に冒険者登録を終わらせ、俺たちは風呂に……。

「もう勘弁してくれ……」
「でも、私はキリヤくんと入りたいのです!」

もうあの日の未遂は繰り返さない……!
男として生まれた以上、避けることのできないあの悲劇を……!
少なくとも、またラードンがいれば問題なかったりするんだろうけど、それでは意味がないのだ。

「シノア、何を話しているのだ?」
「リルフィ、私はキリヤくんと一緒にお風呂に入りたいのに、恥ずかしがって拒否してくるんです!」
「し、しょうがないんだよ、男として……。」

すると、リルフィが何かを考えている様子。
何かは知れないが、ロクでもないものという確信だけはあった。

「シノア、いい言葉を教えるのだ!この世には、『嫌よ嫌よも好きのうち』という言葉があるのだ!つまり、まだキリヤと入れるチャンスはあるのだ!」
「なるほど!ありがとうございます、リルフィ。絶対に諦めません!」
「私もキリヤには興味があるのだ。だから今日は一緒に入っていっぱい話すのだ!」

あ、ヤバい。
あの二人、謎の盛り上がりを見せている。
思えば、リルフィもそこそこ胸があるな……。
このままでは、俺は2股クソ野郎と言われ続けることになるだろう……。
すでにラードンは男湯に入ってしまってここにはいない。
絶体絶命である。

その後、その窮地きゅうちのお陰か、【認識阻害にんしきそがい】を取得していたのだった。
何があったか詳しくは言わない。
ただ、俺は今回も間違いを犯さずに済んだとだけ言っておこう。

「や、やあキリヤ。今日も何もなかったでらか?」
「うん、間違いは犯さなかった。でも、【認識阻害】を取得してしまったよ」
「そんなことになったでらか……」

その後、4人で酒場に行くと、またあの3人がいた。

「……おい、キリヤ。これはどういうことだ?」
「恋の魔法は解けてしまったんですか?」
「……あきれたよ、残念だ」

え?俺は何の風評被害を受けてるんだ?
……もしかして、リルフィを二人目だと見てる?

「キリヤ、コイツらは何の話をしているのだ?」
「ま、まあ口を挟まないでくれ。今、壮絶な誤解が起きている」
「あの、皆さん!そもそも、私とキリヤくんはそういう関係に近いってだけで……」

ああ……どうする?
こうなったら、【認識阻害】で逃げるか?
いや、しっかりしろ!男はそんなんで務まらんぞ!

「……なんちゃって!」
「少しビビりましたか?」
「まさか、逃げようとは思っていなかったね?」

コイツら、分かっててやってやがったのか……。
ていうか、やっぱりライハは少し感が鋭い。

「うーん、でも、私もキリヤのことは好きだぞ!」

……せっかく収まりかけていた空気を、リルフィは思いっきり凍らせる。
コレ、マズいヤツなんじゃね?

「キリヤは私を簡単に信じてくれたのだ!だから好きなのだ!」
「それを言ったら私も同じです!」

二人の言い争いが始まる。
ここで魔法を使わないのはいいことなんだが、正直な話をすると三角関係は困る。
まあ、何人かから同時に好かれるってのをうらやむ人だって世の中にはいるだろう。
ただ、俺は三角関係は避けたい側の人間なのである。

「決めたのだ!私もキリヤたちと同じパーティーで冒険するのだ!」
「いいんですか?あんたは私の後輩・・ってことになりますよ?」
「それでもいい!キリヤといられるならどこにだって行ってみせるくらいなのだ!」

あ、リルフィも俺のところくるの?
まあ、正直な話、精霊と契約してる点から考えた優良物件としか思えないしなあ……。

「そっか、分かった。じゃあ、これからよろしくな。リルフィ」
「よろしくなのだ!キリヤ!」

そう言いながら、リルフィは勢いよく俺に抱き着いてきたのだ!
あ、マジでヤメテ。
俺のチキンハートにそれは重過ぎる。

こんな感じで、色んな意味でシノアのライバルのリルフィが、俺のパーティーに入った。
もしかして、これ以上増えるの?と未来を心配する俺なのだった。

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