祇音少女

リトルマナ

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オーディション

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冬の終わりも近い昼下がりの放課後、学校はもう短縮授業に入っているものの教室内にはまだ帰り支度もそこそこに駄弁りながらの数組のグループの輪が残っていた。

「ハイ、届いてたで、オーディションの通知」
まりかがパタンと大きな音を立てて封筒を机の上に置いたのものやから、ざわついていた教室の中が一瞬静かになった。
「まりか!?」
私が咎めるような声を出すとごめんごめんと胸の前で両の手のひらをひらほらと拡げてアイドルの様に可愛く謝った。

「そやけど分厚いと思わへん?これってもう合格確定やん」

「高校や大学の合格通知やあるまいし厚さだけではなんとも言われへんて」

「そやろか」

「そやろ」

そんなもんかと一瞬納得しかけたまりかだけど、5秒ほど時が止まった様にフリーズしたあと
「いやいやなんでやねん、おんなじやろ。落ちた相手にわざわざ何送ってくるん?落ちたら受験であろうとオーディションであろうと何でもペラペラの薄っぺらが定番やろ」
とまるで漫才の相方の様な絶妙な間合いで突っ込んでくる。
まりかはいつもこの調子で周りからはM1に出たらと言われるほどその帯びてる属性は面白突っ込みキャラで私はいつもその相手をさせられている相方みたいなものだ。

「なになに?また二人で漫才始めてんのん」

割り込んできたのは木ノ葉小豆あずき
彼女もいっちょ噛みの大阪のおばさんのようなゆるキャラの性格で私とまりかとの掛け合いにはいつも見逃さずにまったりと絡んでくる。

「ほらぁ、まりかがドタバタするからまた大事になるやん」

「大丈夫やってあずきはこう見えても口固いし。な、あずき」

「ふんふんそうそう」と興味津々のあずきはまるでおやつを貰うマルチーズの様に尻尾を振って喰いついてくる。

「産寧坂47のオーディション受けたんやて。それも一二三のおかあはんに黙ってな」とまりか。

「へーまたそれは豪気な事で」
あずきがまるで時代劇に出てくる越後屋の番頭さんみたいな声を上げる。

「ちょとぉ、おちょくってんのん、あずき?」
さすがにうざったるくて私のトーンも下がって眉間に皺が寄る。

「いやいやいや滅相もないことでござりまする」とまだ小芝居を続けようとするあずきを私はフンと鼻を鳴らして相手にせずオーディションの結果が入った大きな封筒をチャンピオンのリュックにしまいにかかる。

「えっ!?ちょ、ちょっと待って、それってもう見いひんの?」

「誰がこんなとこで見るかいな」

私は勢い良くお尻を上げると「ほな、さいなら」とリュックに腕を通した。
二人のお笑いネタに何かにされては堪らない。こっちはこの封筒の中に人生がかかってるんやから。

「ちょっと待ってぇ、祇音さまったらぁ。犬にでも猫にでもなるから許してくだされ、ほれこの通り、ごろにゃんワンワン」

二人にスカートの裾を引っ掴まれてゴロにゃんをハモって膝まずくほどの勢いで顔を突き出してくる二人。そんなまるでコントみたいな掛け合いが可笑しくて私の強張ってた口角が含み笑いで緩む。

「もぉー、しょうがないな。けどほんまに冷しかしはなしやで。大きな声もなし。それと絶対誰にも口外無用、解ったん!?」

「ニャン、ゴロニャンニャン」
机の上に顔をのせてグーで作った猫手ものせて、あずきとまりかは猫なで声でこちらを見上げてくる。よほど封筒の中味が気になるのか舌なめずりする様にこちらを伺う。
なんやろなこの二人は、いっつもこんな調子やけど内心は人一倍私を思って心配してくれてる二人やからその笑顔を見てるとほっこりできてちょっと胸が熱くなったりもする。
気がつけば辺りを見回すともう誰も居なくて、遠くで上履きの足音やざわめきは聞こえてくるものの教室はシンとしていて囁くような声も良く響いた。

リュックに仕舞ったA4サイズの黄色い封筒。表に記されている住所や名前は真矢野まりかの名前と住所で私のそれじゃない。祇園の置屋の自宅だとオーディションを受けた事がおかぁはんにバレバレになる可能性が高いのでまりかに彼女宅宛にしてもらった。郵便局留めを考えていた私やけど通知のはがきが来るかも知れんからとまりかのアドバイスに甘えた形になったのだ。

「でもママがさ、産寧坂47事務局ってなにこれ?って聞いて来た時は流石にちょっとヤバかった。ファンクラブ入ってんとか言うたら、あっそうって思ったよりセーフやったけど」

「ごめんなまりか、今度お給金出たら何かおごらなあかんわ」
封筒にカッターを入れながらそう言うと「ひゃー楽しみやんなぁ」のあずきの声に「あんたは関係ないやろ」とまりかが混ぜっ返す。
笑い声やら黄色い声がよく響いて誰かが入ってくるんやないかと冷や冷やしながら私は封筒の封を切った。











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