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一二三琴音~それからの事
しおりを挟む「もひとつ聞いていいかな、せっかくの機会だし」
あの日から15年後の今も38歳のRyuheiはまだまだ側によるとやけどをしそうな危なっかしい男の匂いを放っている。あの頃の話になると直ぐにこうやって焼けぼっくいを穿るような突っ込みが入る。
「聞いても言わないんだから勝手にどうぞ」
「抱かれるつもりで来たの?その覚悟はあった?」
「ふっ、聞いてどうすんのよそんなこと」
「答え次第では素敵な思い出がひとつ増えるかなって」
「素敵な思い出?はぁ?ほんと変わんないよねあんた」
「そっかなぁ」
「変わんない、ずっと超自分ファースト」
15年前のあの日のあの朝、Ryuheiの傍らで目覚めた私はもう今までの自分じゃなかった。
この傍らに寝ている頭髪だけじゃなく陰毛まで全身金髪で香水の匂いが身体に染みついていて精液にまでシャネルの臭いが漂っているようなこのチャラい男が私の初めての男になった。
ただ私は行為中にも驚きどころか恥じらいもなくずっと冷めた目で彼を見れてた気がする。
私は彼に抱かれながら舞妓になる日、いわゆる店出しの日に一二三のおかぁはんに言われたことを思い出していた。
⎯⎯ 綺麗ごと言うても所詮は舞妓も芸妓も男はんのおもちゃや。
花街の歴史と切っても切り離されへんのが男と女の色事。
いずれは大事なお客はんとええ仲になる事もあるやろ。
それはかまへん。隠しとおすねんやったらそれも宜し。
ただ男には呑まれたらあかん。
こっちは呑んでかかる気概がないねんやったらそっちには近づかんこっちゃ。
わずか二年で染みついた祇園で生きる覚悟みたいなものを噛み締めながら私はオンナになったということ。
数日後、Ryuheiの家を出た私は彼の紹介で六本木の高級キャパクラで働き始めた。とは言ってもキャパ嬢じゃなくてカウンター内での接客仕事。いわゆるバーテンダー補助みたいなやつ。
簡単に言えばバーテンダーやマスターの傍らでさり気なく周りの様子を伺いながら客の要望を探る。もちろん私の場合はカウンター内を飾る花の様に可愛く艶やかに佇んでいるのも仕事の一つだった。
Ryuheiが紹介してくれたのがキャパ嬢じゃなくてバーテンダー補助だったのはその事が私の運命を変えたと言って良い。
何でRyuheiはキャパ嬢じゃなくて私をカウンター内に押し込めたのか、それは未だに謎。
ただおそらくキャパ嬢なんぞになっていたらどっぷりそのお水な世界に浸かった女になっていただろうことは確か。それは押しても引いても譲らない程の自信がある。場所を祇園と六本木に移しただけでおんなとしてのベクトルはしっかりと同じ道を辿ってはずだ。
そんな仕事を始めてから数ヶ月後、私は自分の妊娠を知る訳だけど
お腹の膨らみが目立つ体型ではなかったので産月までカウンターに立って働けた。
お腹の子は授かったと分かった時点でこの子は私の子であって私の子でもないと思うしか無かった。
一二三の家を捨てたという自身の贖罪がそうさせたのか京都で産んで祇園の地に返す。結果的には自らの犯した罪の代償として我が子を一二三に差し出す形になってしまった。
それからへと続く私のアイドルへの道は至ってなだらかで穏やかでこれと言って苦労した記憶はひとつもない。
強いて言えばRyuheiとの縁を切るのに時間と労力を費やしたことぐらいか。
六本木という土地柄のせいかお客さんには業界関係者が多く、当然のように国民的アイドル47グループのスタッフも常連客として通ってきていた。
そこでオーディションを受けてみないかという話になり私のアイドルへの道は開けた。
すんなり受かったのも、もしかしたらその時点でRyuheiや周りの人間によって私のアイドルとしてのシナリオは既に出来上がっていたのかもしれなかった。
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