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十六夜の月明かりの下で

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入り口から見てそのまま正面の奥、ロフトへと上る急な階段の横に小さなソファの上で足をこちらに投げ出すような格好で座っていた。

背丈は1m20~30㎝程、ちょうど小学生の五六年くらいのサイズ感だ。
性別はぱっと見はわからない。耳を隠すほどの栗毛色の髪の毛がその小さな顔半分を覆って、間から覗く左目が淡いグリーンの光を湛えている。
その顔はリアリティーを追った蝋人形のようなものではなく時代を感じさせない
アニメチックな風貌といった方がいいのかもしれない。

尖った顎のラインがその表情に可愛さの中に精悍さを与えていた。ツンとした小ぶりの形の良い鼻に目尻の少しつり上がった大きな目。白い肌は少し青みを含んでいて瑞々しい程の透明感を感じさせる。

体にはどこにでもあるような紺地の紡ぎ織りの着物が着付けられている。
少し違和感を感じるのはじっちゃんが後から設えたものだろう。

ただ全体から来る印象は見た目は今にも動きそうなほどリアル。
それに旬兄さんの後から語った説明によると各部に使われている材質は水晶かそれに準じた透明感の強い鉱石ででできているとのこと。うっすらと見通せる内部の部品もそれなりに人体の理屈にかなったものが埋め込まれているようだ。

人間で言えば神経伝達装置のようなそれらしい複雑な回路もあちこちに散見されるみたいだ。そう考えていくとこれは単なる無駄に大きなフィギュアとはどうしても思えない。



「でもなんでこれをじっちゃんは売ろうとしたんやろ、それもメルカリで」

「要するにじいさんは売りたかった訳じゃなく人探しをしたかったんだと思うよ。
これを不特定多数の目にさらしてこれが何なのか解る人を見つけたかったんだと思う」

「でも色んな人が興味を持って見に来てたんやから、そんな人間に託せばいい話なんやないの?」

「違うんだよな、やっぱりおまえは分かってない。
よくそんなのでここ継げるって言えるよな」

「・・・・」

「それに、おそらくお義母さんにメールしたのはこいつだ」

「ちょ、ちょっと待って。なに言い出すのん、急に・・」

急に土蔵の中の温度が五度は下がった気がした。
人形のその口許に思わず目が行く。ほんのり薄紅色に染まったその唇が今にも何かを語りかけてくるようだった。
ただ、もう怖さや不快感を感じることのない自分に気づく。
「土蔵の中のお守りさん」
確かに今の音羽屋の蔵を守ってくれているのはこの子なのかもしれない。
そう思える自分がいた
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