京都ファンタジー四条寺町侘助堂 四代目音羽沙羅陀のサラダな人々

リトルマナ

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土蔵の中へ

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(なぁ、 旬ちゃん)

(うん?)

(メルカリに出したら、これって売れるんやろか)

(売れんでもないだろうけど、なんで?)

(うん・・・)

(けど、どれぐらい売れてないの、これ?)

(阪神大震災のあくる年に入って来たもんやから。そうやなぁ、かれこれ・・)


喜寿に手をとどこうかというじいさんがメルカリを知ってるのにまずは驚いた
彼にとってもこういう商いをしていく上ではもう欠かせないワードなんだろう。
江戸末期から続く骨董屋の三代目として生き抜いてきたその半生を俺は知らない。
けどその物を見抜く真贋としての目利きはこの世界でも名はそこそこ通っているらしい。そんな人がネットという力を借りて、この二十数年前に手に入れた、等身大の蔵で埃を被っている人形を世に出そうとしている。

(なんで今さら?それになんでメルカリ?)

(うん、別にメルカリやなくてもええやんけど、その方が手っ取り早いんやないか思てな)

(何でそんなに急ぐわけ?何か訳あり?)

(うん、まぁな)

(なんか歯切れ悪いなぁ。じいさんらしくないよ、いつもの)




「きっとなにかがあったんだろうな、あの時、じいさんとあの人形の間に」


ボォーン、ボォーン・・・ボォーン

いつもの壁に掛けられた古時計の音が違って聞こえた。
店の土間の真ん中にずっと居座る等身大の布袋さんの銅像。
天井からつるされた竜の張りぼて。信楽焼きの大小さまざまな狸の置物達。
誇りを被って鈍い恨めしそうな輝きを放つ鎧兜の行列。
物言わぬものたちが放つ、時の重さの見えない圧が今にも押し寄せてくるようだった・・・。





☆☆





「もうこんな時間か」

旬兄さんの大きな手が私の背中をこつんとつつく。

 

「それじゃあ初のご対面といくか?沙羅陀」

「・・・・」

「見たこともないんだろ今まで」

小さく頷く。ふんともうんともつかない声が軽く開いた口のすき間から漏れた。

「ただ、果たして元のところにもどっているのかどうか」

「もーーっ、あのねーーー」





見たところ鍵はしっかりと掛かっているみたいだった。

居間からひょいと顔を覗かせれば通り庭の向こうに中庭を挟んで土蔵の大きな苔むした扉が見える。年代物の赤錆びた大きな南京錠はいかにもな顔をこちらに向けて音羽屋のお宝を守ってくれているようにも見えた。

「鍵は?」

「持ってる」

「持ってるって?ずっと?」

「うん」

家の鍵とお店の鍵と学校のロッカーの鍵、そしてひときわ大きい南京錠の黒光りする鍵。四つの鍵がぶら下がったもふもふの狐の尻尾のキーホルダーをリュックから取り出す。



「土蔵の鍵はじっちゃんと私だけなんだよね持ってるのは」

音羽屋は今までは土蔵のスペアキーは造らないのが常だった。
それを私の為だと言ってじっちゃんは作ってくれた。
自分が死んだら一つは捨てろと言って。


「認めてんだよなぁ、雅のことを・・じいさんは」

手のひら一杯に広がる古びた鉄のひやりとした感触。じっちゃんからこの鍵をもらったことが私のこれからの夢の大きな支えとなっているのは確かだ。

外はまだ薄明かりが残っていた。
縦長の畳六畳ほどの中庭は真ん中が苔で覆われ、こんもりした小さな丘に人の背丈ほどの南天が二本、頭を垂れながら赤い実をこちらに向けている。両端にはLEDの電飾が埋め込まれた灯篭が一本ずつ、妖しい光を灯している。


「開けてくれる?」

いつもとは違う私の弱っちい声に旬兄さんの端正な横顔が相好を崩す。

「なかで歩き回ってたりしてな、あいつ」

土蔵の規模はそれほど大きくはない。京の洛中に店を構える他の老舗の店に比べると小振りなほうに入るらしい。広さは十畳ほどで頭上には今で言うところのロフトがひろがっているという話だ。


子供の頃から遠目に伺うだけで決して足を踏み入れることがなかったその空間。
前へ行く旬兄さんの後を追ってそろりと片足を中へと滑らせる。


「カビ臭いなぁ」

「ううん、でも良い匂い」

しっとりと辺りを覆い被すような深くて重い空気。
この匂い・・・
ここに入るのは初めてだけど京町界隈の何処の蔵のなかも同じ匂い。
それは私が大好きな匂いだ。

不思議だった。
その匂いに反応したように萎んで萎えていた私の心が動き出す。
見てみたい、この目で確かめてみたい。その子はどんな子なのか。
怖い気持ち悪い、ずっとそう思い続けていた気持ちがこの土蔵に足を踏み入れて
その空気感に身を委ねた途端、押さえきれないほどの好奇心が私の中の弱気の虫を打ち負かしていく。

「奥だよ、きっと」

はやる心を抑えきれず、ついつい体が前のめりになる。

「おいおい、なんだよ急に勇気づいちゃって」

微かに天窓から差し込む明かりを頼りに天井からぶら下がっている紐に手を伸ばす。カチンとしたしっかりした手応えとともに辺りが柔らかな裸電球の色に染められる。






「あれか・・・」

旬兄さんが指した指のその先にその子はいた。
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