カルルと15人のアイドル戦士たち~昔アイドルだった君を僕は知っていたんだ

リトルマナ

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カルハと由香~再会

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楯山由香は先ほどからずっと、遠くに見える海を眺めていた。
窓際に佇んだままその場を離れないでいた。
風が強いのか時折白波が立つのが見えていた。夜の漆黒の闇の中でもその舞い上がる波しぶきの一粒一粒までもが彼女の目にはスローモーションで再生する様にはっきりと見えていた。
コンラッド東京の最上階にあるロイヤルスイートルームの一室。
政府が今日の日の為に設けた最高級の贅沢な部屋も彼女たちにとってはただの無機質な空間にしか思えなかった。
(日付が変わった25時前に迎えに行くから用意しておいて)
そんなメッセージを彼女達は受け取っていた。それはメールでもなくラインでもなく脳にダイレクトに伝わるのが今の彼女達だった。
欲しい情報は思うだけで入手できたし連絡や会話も携帯端末などの通信機器は必要としなかった。最新のコミュニケーションツールは体内に組み込まれ脳を媒介して世界中の誰とでも接触はできた。ハリウッドの有名女優からMLBのスーパースター、必要ならば世界各国の首脳とも話せるホットラインも彼女達は可能だった。
世界平和の為の親善大使としてそして世界が核戦争に至らない為のオンリーホープとして日本が送り出すスーパーアイドル戦士は究極の戦闘能力を兼ね備えてるだけではなくあらゆる情報を処理する端末としてもスーパーコンピューター並の能力を備えていた。


楯山由香の両親は離婚していて親権のあるのは母親の楯山由依の方だ。今夜の面会は親族二人だけと決められていて、別れた父親も来る予定だという。
父の記憶は彼女の新しく生まれ変わった脳内の領域には薄っすらとしか認識できなかった。
ただ思い出そうとする度に嫌悪感みたいなものが脳内に拡がったのでその関係性は良くないものだったのだろう。
今日楯山由香が朝から一言も何も言葉を発しないのはそんな理由もあるのだろうか。
メンバー総勢16人、会いたくないという子がほとんどだった。
それは両親や家族や知人の記憶が定かではなくてぼんやりとしか認識できないせいもあった。
おそらくそれは意図的に以前の記憶を曖昧にするようにプログラミングされてるのだろう。みんな自分が生身の人間であった頃の過去に足を踏み入れる事に不安と怖さを感じていたのかもしれない。

自分のこの身が生身の人間ではないこと。
生き延びて再会できる喜びよりもサイボーグの身と化した自分が家族とどう接すればいいのか。チタンの鎧を纏ったわが身を父や母の前でどう晒せばいいのか。人間的に言うと気持ちの整理がついていないというのだろうけど、彼女たちは人の意思を持ったサイボーグで人とサイボーグの狭間を埋める機能がまだ正常化されていないと言った方がいいのだろうか。。喜びよりも嫌悪の方が勝っているメンバーの誰もがそう感じていた。



そんな中 、白咲カルハは少し様子が違っていた。朧気だった以前の記憶がかなり詳細に戻りつつあったのだ。
カルハの父は彼女が幼い時に交通事故で他界した。だから父親についての記憶は元々ない。母は昭和平成生まれの人間なら名前を聞けば誰もが知るようなアイドルだがもうこの世にはいないということをカルハは政府から告げられていた。あの劇場の炎上事件後、失踪が確認され遺体は不明のまま自殺と確定されたということだった。
事件後に行方不明になり自殺に至ったメンバーの保護者は他にも数名いた。その事に少なからず疑念を抱かずにはいられない自分もいた。
そんな事はこの楯山由香を含めて他のメンバーには見られない兆候だった。政府に異を唱えたり抗ったりする感情や考えは排除するように制御されているはずで何故自分だけがという思いはカルハにはあった。
加えて、思いついたこと感じたことそれらも全て報告するようプログラムされてるはずのその身が
それに抗った行為が行えるのはどういうことなのか。
この世に新しく生まれてまだ数ヶ月、理解できないこと学ばなければいけないことは山ほどあった。
自身の体であって自分の身体では無いような不思議な感覚。この世に生きてる様で夢の中を彷徨っている様な感覚。
それをカルハは自分だけの脳内に留めている。

もちろんサイボーグに身を変えても脳は以前の自分らしくて人間であったという事実は自覚があった。

ただ今の自分を受け入れられる様に強制的にプログラミングされているのだろう
不思議と今の状況に対してことさら彼女たちは落ち込むことはなかった。
他愛のない話も人間だったころの様にできるし冗談を言い合ってコロコロと笑い声も上げれた。ただそれが自分たちの本心でないこともどこかで承知していた。
得体の知れない何かが自身の中でトグロを巻いて渦巻いている。
それを知る術も彼女たちにはなかったし
また探ろうと言う気も起きなかった。
すべては流されるままに今のところはAIのプログラムに制御されるままに彼女たちは生きているということになる。

「それであんたの義母ママさんは今日来んのかいな」
今日は一日中声を出さなかった楯山由香が初めて声を上げた。
関西訛りの高音の少し鼻にかかったような声質は以前と何も変わらない。

「私は認めてないんだけどね、母親になった事も今日来る事も」
Rico Sahara。
カルハ自身の脳内から何度接触を試みても出来なかった。
政府から危険人物と特定されている為だろうか。

「今日の面会、良く許可されたよね。Ricoさん、訴えてるんやろ政府を」
こちらに向き直った楯山由香。その左目だけが淡いブルーの光を帯びていた。それは秋葉原の劇場の火事で有毒ガスの為、左目の機能を失いAIによって再生されたもの。明るいところでは見分けが付かないが周りが薄暗いとほのかに光を纏っているように見えた。






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