9 / 11
第5話 紗倉結音
しおりを挟む
「ねぇ早蕨さんってAkibaオタクだったの?」
小さく低く漏れた声に彼女からこ(こだけの話感)が伝わってきて一瞬言葉が出ずに小太郎は固まった。
「2ヶ月前大変だったんでしょ、Akibaの子達の前で泣いちゃって」
「お、おまえどうしてそれを?」
小太郎より先に慌てて大きな肩を揺すって声がうわずる松永を見て紗倉結音は歯を見せてニッと笑った。
「ほんと松永さんって昭和のアニメのおじキャラですよね、まるで動きが亀有の両さん」
「うわ、上手いっすね、紗倉さん、確かに両さんっすよ」
思わず釣られて笑ってしまった小太郎は緊張が緩んで小さくほっと胸を撫で下ろした。
「亀有の両吉か、まぁ言われなくもねぇか」
「やっぱり」と小太郎。「なにがやっぱりだよ、おまえにいわれたかねえわ」とすかさず被せてくる松永。
そんな二人を見てクスクス笑いが止まらない紗倉だったが
松永が真顔になって彼女に向き直ると唇を小さく噛んで笑いをとめた。
「何で知ってんだよ、おまえが。いや君がか」
言葉を改めたのは仮にもここが総理の執務室で目の前に澄んだ瞳を輝かせてるこの娘は秘書官補佐だと言うのを思い出した為だろう。
「言わなくちゃダメですか?出処は別に大した意味はないと思うんだけど」
紗倉結音。普段は挨拶程度で面と向かって彼女とこうやって話をするのは初見の松永と小太郎だった。
財務省から若くして抜擢された彼女は勿論東大卒で将来の政務次官レースのスタートラインに立った財務省期待の才女だった。
ただ物怖じしない一言多い性格が災いしてか上から何かと厄介者扱いされているという噂もあった。
「大したことじゃないかは俺が決めるんだけど、それではダメか?いやダメですか秘書官補佐?」
「兵助さん、言い方?」
「いいのよ小太郎くん」
「えっ、いきなり名前呼び?」
小太郎の頭の上にビックリマークが付いたような声に反応することも無く今度は紗倉が姿勢を正して松永に向き直った。
「じゃあ言いますけど、こんな重要な案件をなぜ黙ってたんですか?返答によっては問題にしますので心して答えてください松永秘書官」
「うわっ怖っ」
「答えても良いけどもう時間の様だお嬢さん。ほれ、江坂政務官が睨んでらっしゃる」
「マズイですよガン睨みされてますよ紗倉さん」
「そういえば江坂政務官も財務省だったよな。ふっ、出処はこれで確定か」
ニヤリと口角が上がる松永。苦虫を噛み潰したよう顔をぷいと天井に向け腰を上げた。
「もういいです!話はまた今度ちゃんと聞きますからね!」
一段トーンを上げた彼女のその声はおそらく江坂に聞かせるためだったのだろうと松永は思った。
「何の目的があって声をかけてきたんすかね」
前方の席へと戻ってゆく白くて長い綺麗な足に目を奪われながら小太郎がポツリとこぼす。
「単なる好奇心だあいつは俺たちの敵じゃない」
「だって兵助さんとはバチバチの財務省の江坂さん派なんすよね彼女」
「財務省では浮いてるんだろう。秘書官補佐も自から手を挙げて、その押しの強さを総理が気に入ったそうだしな。ただ…」
そこで言葉が止まって松永はもっていた資料の小冊子に再び目を落とす。
「おまえが泣くほどのヲタクだったってその事実を彼女の胸だけにしまっておいてくれるかどうかだ」
「ちょっと待ってくださいよ兵助さん、紗倉さんは敵じゃないって…」
「今はな。けどその先はどうも俺には読めんのだ」
秘書官補佐の人数は限られてる。財務省を始め各省はその限られた席をめぐって内なる争いは激しさを増している。だからちょっとした事でもその足はすくわれかねない。だから…。
「どうでもいい些細なことのように思うだろうけど今このタイミングではちょっとしたスキャンダルなんだよお前のやった事は」
それを聞いて小太郎は唇を噛むしか無かった。
「とりあえず今夜はおまえは参加できる。ちゃんと務めて結果を残せ」
松永の言葉は小太郎には慰めのことにしか聞こえていなかった。
小さく低く漏れた声に彼女からこ(こだけの話感)が伝わってきて一瞬言葉が出ずに小太郎は固まった。
「2ヶ月前大変だったんでしょ、Akibaの子達の前で泣いちゃって」
「お、おまえどうしてそれを?」
小太郎より先に慌てて大きな肩を揺すって声がうわずる松永を見て紗倉結音は歯を見せてニッと笑った。
「ほんと松永さんって昭和のアニメのおじキャラですよね、まるで動きが亀有の両さん」
「うわ、上手いっすね、紗倉さん、確かに両さんっすよ」
思わず釣られて笑ってしまった小太郎は緊張が緩んで小さくほっと胸を撫で下ろした。
「亀有の両吉か、まぁ言われなくもねぇか」
「やっぱり」と小太郎。「なにがやっぱりだよ、おまえにいわれたかねえわ」とすかさず被せてくる松永。
そんな二人を見てクスクス笑いが止まらない紗倉だったが
松永が真顔になって彼女に向き直ると唇を小さく噛んで笑いをとめた。
「何で知ってんだよ、おまえが。いや君がか」
言葉を改めたのは仮にもここが総理の執務室で目の前に澄んだ瞳を輝かせてるこの娘は秘書官補佐だと言うのを思い出した為だろう。
「言わなくちゃダメですか?出処は別に大した意味はないと思うんだけど」
紗倉結音。普段は挨拶程度で面と向かって彼女とこうやって話をするのは初見の松永と小太郎だった。
財務省から若くして抜擢された彼女は勿論東大卒で将来の政務次官レースのスタートラインに立った財務省期待の才女だった。
ただ物怖じしない一言多い性格が災いしてか上から何かと厄介者扱いされているという噂もあった。
「大したことじゃないかは俺が決めるんだけど、それではダメか?いやダメですか秘書官補佐?」
「兵助さん、言い方?」
「いいのよ小太郎くん」
「えっ、いきなり名前呼び?」
小太郎の頭の上にビックリマークが付いたような声に反応することも無く今度は紗倉が姿勢を正して松永に向き直った。
「じゃあ言いますけど、こんな重要な案件をなぜ黙ってたんですか?返答によっては問題にしますので心して答えてください松永秘書官」
「うわっ怖っ」
「答えても良いけどもう時間の様だお嬢さん。ほれ、江坂政務官が睨んでらっしゃる」
「マズイですよガン睨みされてますよ紗倉さん」
「そういえば江坂政務官も財務省だったよな。ふっ、出処はこれで確定か」
ニヤリと口角が上がる松永。苦虫を噛み潰したよう顔をぷいと天井に向け腰を上げた。
「もういいです!話はまた今度ちゃんと聞きますからね!」
一段トーンを上げた彼女のその声はおそらく江坂に聞かせるためだったのだろうと松永は思った。
「何の目的があって声をかけてきたんすかね」
前方の席へと戻ってゆく白くて長い綺麗な足に目を奪われながら小太郎がポツリとこぼす。
「単なる好奇心だあいつは俺たちの敵じゃない」
「だって兵助さんとはバチバチの財務省の江坂さん派なんすよね彼女」
「財務省では浮いてるんだろう。秘書官補佐も自から手を挙げて、その押しの強さを総理が気に入ったそうだしな。ただ…」
そこで言葉が止まって松永はもっていた資料の小冊子に再び目を落とす。
「おまえが泣くほどのヲタクだったってその事実を彼女の胸だけにしまっておいてくれるかどうかだ」
「ちょっと待ってくださいよ兵助さん、紗倉さんは敵じゃないって…」
「今はな。けどその先はどうも俺には読めんのだ」
秘書官補佐の人数は限られてる。財務省を始め各省はその限られた席をめぐって内なる争いは激しさを増している。だからちょっとした事でもその足はすくわれかねない。だから…。
「どうでもいい些細なことのように思うだろうけど今このタイミングではちょっとしたスキャンダルなんだよお前のやった事は」
それを聞いて小太郎は唇を噛むしか無かった。
「とりあえず今夜はおまえは参加できる。ちゃんと務めて結果を残せ」
松永の言葉は小太郎には慰めのことにしか聞こえていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
恋愛リベンジャーズ
廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる