3 / 11
第1話 早蕨小太郎総理秘書官補佐~①
しおりを挟む⎯⎯ 2043年3月28日土曜日深夜、総理官邸食堂
「今夜も泊りですか?早蕨さん。いつもいつも精が出ますよね」
「何の因果でしょうかね。今日で一週間っすよ、やすみも全然取れてないし風呂も入れてないし、毎日カレーばっかりだし」
「申し訳ないねぇ、メニューが少なくて。カレーとおそばぐらいだもんねうちは」
「あっ、いやいやそういう意味で言ったんじゃあ…」
ワンオペで深夜の官邸食堂を切り盛りするもう六十路をとっくに過ぎてるまかないのお佳代さん。カレーにはいつも余り物のコロッケや空揚げなどをトッピングしてくれるのが常で小太郎の官邸での単調な食生活に少なからず彩を添えてくれている。
「超美味しいっすよ、ヤバいっすよお佳代さんのカレー、毎日食べててほんと飽きないし。学生時代は暇さえあれば都内のカレー店巡りしてた人間が言ってんだから間違いないっす」
「あらあら、相変わらずの人たらしだね、嘘でも嬉しいこと言ってくれる」
「だから嘘じゃないっすって」
「ハイハイ、分かりました。じゃあ今日はコロッケと特別にデザートのヨーグルトも付けとくね」
早蕨小太郎、官邸勤めはまだ二年目の総理秘書官補佐だ。
京都大学の研究室勤めで講師をしていたが、大学の先輩である松永兵助秘書官から熱烈な誘いを受けて半ば強奪の様にしてヘッドハンティングされた。
人が良くてお人好しで頼まれたら断れない性分だから各部署からいいように仕事を回されている。
休みを取る間もなく家にも帰れないで官邸に泊まり込む日が続いている。
「お佳代さん、あんまり甘やかさないでくださいよ。こいつは尻叩くぐらいがちょうどいいんだから」
手にコンビニの袋をぶら下げて現れた長身のガタイのいい男、彼が秘書官の松永だ。
「またカレーだろうなと思ったらやっぱりな。飽きないやつだなおまえも」
「兵助さん?あれ?帰ったんじゃないんすか?」
「タクシー乗ったらよ、五分で引き返せって。コンビニで夜食まで買ったのによ。ほれ」
ノンアルビールやらおにぎりやらのパンパンのレジ袋が勢いよく宙を舞う。「うわっ」と小叫びしながら早蕨が胸で難なくキャッチ。
「あざっす。なんか悪いっすね」
「スイーツも買ったから、お佳代さんも適当に持ってって」
「ありがとね、でも何か悪いね」
厨房の奥からの声に「いやいや、何も何も」と片手をあげる松永兵助。
おそらく自宅に待ってる誰かさんに買ったんであろうスイーツ。頂くのは忍びない感がお佳代さんの表情に現れていた。
「スルーして帰るっていうてはなかったんすか?」
レジ袋の中身をガサゴソと品定めしながら小太郎は言う。
「総理本人からの直じゃなければ、それもあったかもな」
「えっ!?!谷部総理から直っすか?」
「お疲れのところ悪いねって、労っていただいた」
そう言って何かを思い出した様に松永は押し黙った。
「そろそろらしいぞ、小太郎」
腰を屈めて顔を近づけてから松永は声を潜めてぼそりと言った。
「そろそろ?」
「例のAAFの娘(こ)たち、いよいよ世界にお披露目らしい」
「そうすか…」
「何だよ、元気ないな。お前も庶務課みたいな雑用とはおさらばだぞこれで」
AAFの娘たち、仲間内ではそう呼び合っている。
Akiba Aidol Fighterを略した隠語だ。
国の超ド級の機密事項なので本来ならばこんな場所でも口にしてはいけないのだが松永兵助の場合、その豪快にして奔放な性格ゆえに
スタバの店内であろうが満員電車の中であろうが仲間内だけのそんな隠語を使ってバンバン機密事項をを喋ってくる。後輩で申し訳ないのだがそのぺっらぺらと止まらない口を掌で塞いでやろうと思ったのは一度や二度どころじゃない。
もしかしたらこの人は彼女にもこんな調子でノンアルビールのつまみ代わりに日本の国家機密を漏らしてるんじゃないだろうかと心配してしまう。
「先輩」
「うん?」
「先輩ってどこまでAAFの件に関わってるんすか?」
「どこまでとは?」
「だから、万一の場合のアレですよ」
「参戦か?」
「もう声大きいっすよ」
「やるとなったら俺は一蓮托生だ。その時は文官じゃなくて俺は制服組になる」
「やっぱり」
「やっぱりってなんだよ」
そういう事なんだって思った。この人は戦いたくてうずうずしている。今の日本が日本じゃなくなったこの現況を心から憂いているのがこの松永兵助で古き良き日本のあの頃を本気で取り戻せるって思ってる、それが松永兵助という人間の良い意味での本性だ。
小太郎はいずれはこの人は軍人になると思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
恋愛リベンジャーズ
廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる