地球一家がおじゃまします

トナミゲン

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第24話『読書と人生経験』

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■ 読書と人生経験

 父と母は、今回の旅行中に飛行機の中で日記を書いている。父が書いているのは、普通の日記、つまり、出来事をそのまま書いただけのものである。一方、母がノートに書いているのは、日記というよりも小説である。起きた出来事をもとに、空想を盛り込んで面白くしてあるのだ。母は、地球に戻ってからこれを小説として発表するつもりだという。母は本が大好きで、本を何冊も読んで人生が豊かになったと日頃から感じている。そこで今度は自分が本を書いて、世の中に恩返ししたいと考えているのだ。

 母は日頃より、子供たちにもっと読書するようにアドバイスしている。外に出て多様な活動をすることが一番の人生経験になるが、それだけでは足りない。読書によって、他人の人生経験を知識として吸収することが大切なのだ。
 父も、母の影響を受けて、今後いっそう読書に励みたいと考え始めていた。父の年齢にもなると、新鮮な人生経験は徐々に減っていき、一年前の自分と比較してさほど進歩していない気がするのだ。それでなおさら、月日がたつのが早いと身にしみて感じるのだった。

 地球一家6人がホストハウスに着くと、この家の娘がまず出迎えた。
「ウリマです。よろしくお願いします。私は社会人で、今新しい仕事を探しているところです」

 リビングに入ると、6人はHF(ホストファーザー)、HM(ホストマザー)とそれぞれ挨拶を交わした。
「それから、息子のスグロが小部屋にほぼ一日中籠もっています」
 HFはそう言うと、小部屋の前に行ってノックをした。
「スグロ、出ておいで。地球の皆さんにご挨拶しよう」
 すると、色白で若そうな男性が部屋から出てきて、小さな声で挨拶した。ミサが小部屋の中をのぞき見ると、それは真白い壁の部屋で、窓もなく、中には何も置かれていなかった。スグロはすぐに部屋に戻り、ドアを閉めた。不愛想な態度に、ホスト夫妻は申し訳なさそうな顔をした。

「皆さんは、これまでどんな旅行をしてこられたんですか?」
 ウリマが地球一家に話をふり、ジュンが答えた。
「それはもう、いろいろな星のいろいろな国で、いろいろなことがありましたよ」
「へえ、例えば?」
「お母さん、あれがあるじゃない、貸して差し上げたら」とミサ。
「そうね、ちょっと恥ずかしいんですけど」
 母は、バッグからノートを取り出してウリマに差し出した。
「今までの旅行記を、小説風に書いてみたんです。よろしければ読んでみてください」
「ぜひ読ませていただきます」

「ところでウリマ、明日の就職面接の準備は大丈夫?」とHM。
「大丈夫よ。でも、もう一回練習しておこう」
 ウリマは、背筋を伸ばして腰掛けた。
「私、ウリマ・ウリカと申します。現在25です。大学では文学を学び、卒業後3年ほど出版社で働いていました。さらに新しい人生経験をしたいと思い、新しい仕事に就くことを決意しました。趣味はアウトドア全般ですが、最近は、人生経験を豊かにするために、読書の習慣をつけています」
 へえ、ウリマさんも読書が趣味か。

 この後、地球一家6人は客間に案内された。しばしくつろいでいると、ウリマが例のノートを持って入室し、母に見せた。
「これ、すごく面白いですね。どんどん読み進めて、もうすぐ読み終わりますよ」
「気に入っていただけてよかったわ」
「読み終わったら、感想をお話ししますね」
 ウリマが部屋を出ていく時、彼女の背中がまぶしい光を発するのを、ミサとタクは見逃さなかった。
「気のせいかしら。今、ウリマさんが光った気がする」
「確かに、光って見えたよ」
 二人はジュンに話したが、ジュンは信じようとしない。
「まさか。さすがに、気のせいだろ」

 ミサが、壁に飾られた二枚の写真に気付く。
「ねえ、みんな。見て、この写真。びっくりよ」
 6人は、二枚の写真に見入った。一枚は、『25』と書かれたケーキの前でウリマがピースサインをし、後ろに両親とスグロ。もう一枚は、『35』と書かれたケーキの前でスグロがピースサインをし、後ろに両親とウリマ。
「子供たちは大人になっても、誕生日をケーキでお祝いするんだね」
 タクが言うと、ミサは人差し指を左右に振った。
「私が驚いたのは、スグロさんの年齢よ。35歳。とても若く見えるから、ウリマさんのほうがお姉さんだとばかり思ってた。スグロさんのほうが10個もお兄さんだったなんて」
 ミサの感想にジュンとタクも同意した。父が説明口調で話す。
「見た目の年齢というのは個人差があるからね。ミサが15歳くらいに見られたり、リコが今でも5歳と間違われたり。そして、見た目の年齢は、生活習慣にも影響される。スグロさんは、一日中あの部屋に籠もりっきりだ。あんなふうに部屋に籠もっている人は、肌が日の光を浴びないから、実際の歳よりもずっと若く見えることがあるんだよ。もしもこのままだと……」
「お父さん、やめて、その話。なんか怖い」
 ミサが父の話を遮った時、家の外でバイクの音がした。窓の外を見ると、玄関に何か配達物が届いたようだ。ケーキの絵が描かれている。HFが部屋に入ってきた。
「皆さん。今から、娘が26になったお祝いをします。ケーキを一緒に食べませんか」
 それは、めでたい話だ。地球一家はすぐにダイニングに向かった。

 大きく『26』と書かれたケーキに、HFがろうそくを立てた。祝福されたウリマは、ろうそくの火を一気に吹き消した。全員の拍手の後、HMがウリマの背中を押した。
「じゃあ、26になった感想と、これからの抱負を語ってくれる?」
「抱負? やっぱり今は職探しね」
 ウリマは、姿勢を正して座り直した。
「もう一度、面接の練習! 私、ウリマ・ウリカと申します。現在26です。大学では文学を専攻し……」
「あれ?」
 ジュンが思わず声をあげた。
「ウリマさん、さっきの面接の練習では『現在25です』って言ってましたよね」
「あ、私、たった今26になったばかりですから」
 地球一家は一瞬考え込んだが、ジュンがすぐに気付いた。
「なるほど、そういうことか。26というのは、26歳という意味ではないんですね。単位は何ですか?」
「レベル26です。EXPとか経験値と呼んでいます。いろいろな人生経験を積むたびに、経験値が上がっていくんです」
 ウリマは、母のノートをテーブルの上に置いた。
「でも、今私が26になれたのは、これのおかげです。経験値は、自分で体を動かして経験するばかりでなく、読書によって上げることもできます。この小説はとても斬新で、人生経験が一気に増えた気がしました」
「褒めていただいて光栄です。そして、お役に立てて何よりです」
 母はうれしそうに言った。ジュンがウリマに質問する。
「でも、25から26に上がったというのは、どこかに数字が表示されるんですか? それとも、自分でそんな気がすればそれでいいんですか?」
「それを言葉で説明するのはとても難しいんですけど、誰にでもわかるんです。何というか、天から光のような物が自分に舞い降りてきた気がするんです。そして、周りの人たちも必ずそれを認めてくれます」
 ミサとタクが顔を見合わせた。さっきの光がそうだったんだね、と目で合図し合った。

 ウリマがノートを持って母に言った。
「これ、もう少しお借りしていいですか? 家族にも読んでもらいたくて」
「はい、もちろん。私たちが出発するまでどうぞ」
「しかし、息子のほうはもう3年間もレベル35のまま足踏み状態だな」
 HFが心配そうに言うと、ウリマは能天気に言い放った。
「私、もしかすると追い付いちゃうかもね」

 HMが小部屋の前に行って声をかけた。
「スグロ。ウリマのお祝いの写真を撮るから、ちょっと出てきて」
 スグロが部屋から出てきた。ジュンがカメラを借りて、ホストファミリー4人とケーキを入れた写真を撮った。スグロはウリマに言う。
「26に上がったのか。おめでとう」
「地球の皆さんのおかげなの。ねえ、この小説、面白いから読んでごらんよ」
 ウリマは、母のノートをスグロに手渡した。
「あー、僕はもう何年も文字を読んでないから、かったるいな」
 スグロはノートを持ったまま開こうともせず、部屋に戻ってドアを閉めた。
「あ、それ、お借りしている大事なノートなんだから、読まないなら返して」
 ウリマが怒鳴ったが、返事はなかった。

 翌朝、客間で地球一家が身支度している時、母が出し抜けに言った。
「ねえ、提案なんだけど、私たちの観光にスグロさんを誘ってみない?」
 5人は驚いて母を見た。それを聞きつけたHFが入ってきて母に尋ねた。
「息子が、どうかしましたか?」
「私たちがお誘いしたら、外に出たいと思ってくれるかなと思いまして。スグロさん、ずっと何もしないで部屋に籠もりきりですよね。少しでも外に出たら、何か刺激になることがあるのではないでしょうか」
「誘っていただけるのはとても有り難いですが、勘違いをされているようですので、ひととおりお話ししておきましょう。息子は、年齢はまだ21歳です。18歳の時にレベル35に到達して、天才と騒がれました。大学もわずか一年で卒業し、就職しました。それまでに世界中を訪れて、世界中で出版されている本も全て読み尽くしたのです」
「そうだったんですか。その反動で、今はぼーっと真白い部屋に籠もっているんですか」
 ジュンが尋ねると、HFは首を横に振った。
「ぼーっとしているのではなく、真白い部屋の中でいろいろなことを考えて、アイデアを生み出そうとしているんです。それが今の彼の仕事で、それで給料をもらっているんです」
「じゃあ、ちゃんと働いていらっしゃるんですね」
「そのとおりです。全ての国を知り尽くし、全ての本を読んでしまったとなると、もう新しい見識はほとんど得られません。これ以上レベルアップするには、自分の頭の中で何かを生み出すしかないと彼は考えたのです。しかし、そっち方面の才能はあまりないのか、なかなかうまくいきません。それで3年間もレベル35のままです。まあ、人生山あり谷あり。調子よくレベルが上がり続ける人などいません。彼もスランプが続いていますが、毎日努力していますので、いつかきっと……」
 その時、スグロが微笑しながら入ってきた。
「お父さん! 来ました! 今、36になりました!」
「おー、そうか、来たか。3年ぶりのレベルアップだ。おめでとう」
 スグロは、母にノートを手渡した。
「これ、お返しします。全部読みました。とても面白かったです。こんなに刺激的な読み物は初めてです!」

 しばらくして、ケーキ屋の男性が玄関のドアを開け、ケーキを中に運んだ。
「お母さんのノートのおかげね。今日もケーキが食べられるわ」
 ミサは母に感謝した。HFはケーキを3箱受け取る。え? なぜ3個も?
 すると、HMが奥から出てきて、HFの隣に立って母に言った。
「実は私たち夫婦も、先ほど小説を読ませていただいて、レベルが上がったんです。私たちくらいの年齢になると、新しい人生経験を積むことが少なくなるので、なかなかレベルが上がらなくなります。私なんて、5年ぶりですよ」
「僕は実に6年ぶりです」とHF。

 ホストハウスを出発して、次の星に向かうために飛行機に乗った地球一家6人。まさか、こうなるとは……。まさかこの飛行機の旅が7人になるとは……。父の隣の席には、スグロが座っている。
「地球の皆さん、突然ご一緒しちゃってすみません。僕は自分の住む星のことは知り尽くしているんですけど、星の外のことは何も知りません。別の星に行ってみたいんです。いいですよね。この先ずっとついて行こうとは思っていません。次の星に着いたらお別れしましょう。いろいろお世話になりました」
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