暁のマリーと三銃士

Ilysiasnorm

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第2幕

第28話 忍び寄る影

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ヴェルサイユ宮殿・王妃私室…

窓の外では夜風が庭園の樹々を揺らしていた。

部屋の中央、円卓を囲んで集うのは、マリー・アントワネット、サンジェルマン伯爵、そして三銃士。

机上には、三人がそれぞれ持ち帰った文書や証言の記録が整然と並んでいる。

「これらの証拠から見て、もはや確実でしょう」

シャレットが低く告げた。

「宮廷内の複数の勢力が、王妃殿下の失脚を企んでいます。内部協力者が存在し、枢機卿側も加担している」

「密告網は厨房、侍女、兵士にまで及んでいる」

ピシグリューが唸るように続ける。

ド・モードもまた、冷静に言葉を重ねた。

「宗教界すら操られています。このままでは、王妃陛下が“魔女”として告発される日も遠くありません」

マリーは三人を静かに見渡し、そして口を開いた。

「……ならば、こちらから動きましょう」

その声には、決意の色が宿っていた。

「今までは守りを固めていただけ。でも、これからは違います」

三銃士の目が、わずかに輝いた。

「シャレット、文官たちの内通者リストを洗い出してください。誰が味方で、誰が敵かを確実に」

「御意」

「ピシグリュー、厨房や使用人たちの間で流れている噂を逆手に取りなさい。“王妃は清廉である”という声を、巧みに広めて」

「任せてください」

「ド・モード、宗教勢力に揺さぶりを。枢機卿側に疑念を植え、連携を崩すよう仕向けてください」

「策はすでにいくつかございます」

マリーは深く頷くと、サンジェルマンに目を向けた。

伯爵はゆるやかに微笑みながら、言った。

「急ぎすぎてはいけません。敵もまた、我々の動きを探っています。だが、悠長に構えている時間もないでしょう」

「ええ……急ぎ、しかし慎重に」

そう告げるマリーの声に、迷いはなかった。

そのとき… 宮殿の一角、別の場所では。

ヴェルサイユ・政務棟地下室…

ディオニュス侯爵は、蝋燭の火に照らされた一室で、数人の密偵たちと低い声で話していた。

「書簡の偽造は完了したな?」

「はい。あとは、しかるべき証人を用意するだけです」

「よし。王妃が国外逃亡を図った、あるいは革命派と手を結んだという“告発”を、確実なものにする」

侯爵の目は冷たい光を帯びていた。

「準備が整い次第、あの女を引きずり下ろす」

ロベスピエールの影が、その背後に蠢いていた。

夜…

ヴェルサイユ宮殿のバルコニーに、ひとり立つマリー……

銀色の月明かりが彼女の輪郭を淡く照らす。
冷たい風が金の髪を揺らし、遠くで噴水の音だけが静かに響いていた。

(私は、まだ……自分が誰なのか、本当にわかっていない)

胸に手を当てる。
そこにあるのは、鼓動と、名も知らぬ焦がれるような思いだけ。

(けれど、今、この国に生きる者たちのために……)

彼女はそっと目を閉じた。

そして、静かに心に誓った。

「私はこの運命を、最後まで見届ける」

ヴェルサイユの夜は、なお深く、静かだった。

だが、誰も知らぬところで、運命の歯車は音もなく回り始めていた……。
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