11 / 24
第11話 森を包む月の影
しおりを挟む
オリヴィア高原へ向かう道の途中……エイラは、思わぬ“沈黙の森”へと足を踏み入れていた。
その森は、アヴィア南東の裂谷から北西へ向かう航路上、避けては通れぬ存在だった。
空からは見えない霧が覆い、羽ばたこうとする翼を鈍らせる重たい空気――それはまるで、空を拒むかのような場所だった。
「この風……空の流れが死んでる……?」
エイラは着地すると、慎重に翼を畳んだ。大地を歩むには慣れていないが、それでも行くしかなかった。
ペンダントは、確かにこの森を通り抜ける先を示している。
獣人の森
森の中は静かだった。木々は空を塞ぎ、鳥の囀りさえ聞こえない。風がない。音がない。命の気配が希薄だ。
それでも、エイラは何かを感じ取っていた。視線、鼓動、気配――この森には、「人ならざるものたち」がいる。
「……誰か、いるの?」
声をかけた瞬間、地面がざわめいた。
次の瞬間、木陰から音もなく現れたのは――獣の耳としなやかな尾を持つ、二足歩行の若い少女だった。
「空の子……この森に、何の用?」
少女は弓を構えながら問いかけた。その耳はピクリと動き、目は警戒に満ちている。
「私は、エイラ。アヴィアンです。この森を通り抜けたいだけなの。戦いに来たんじゃない」
一瞬の沈黙の後、少女の弓が下ろされた。
「……私はミリカ。この森の守り人。リュナ族の者よ」
月と霧の部族
リュナ族――それはかつて空の民と同盟を結び、地上の風を守ってきた獣人の一族だった。
だが、数百年前の“空の盟約の破綻”を機に、彼らは空の民を「裏切り者」として忌避し、森の奥に閉じこもったという。
ミリカは森の集落へエイラを案内する。苔むす木々の間に隠されるように、蔦で覆われた木造の家々が並び、地面の温もりと月の光だけを頼りに暮らす、静かな民の姿があった。
「なぜこの森には、風が流れていないの?」
エイラの問いに、リュナ族の長老は静かに答えた。
「この森は“忘却の地”と呼ばれておる。かつて、星の力を空の者が独り占めせし時、風は我らから離れていったのじゃ」
「風は、信頼と調和の象徴だった……お前たちアヴィアンがそれを壊した」
その言葉に、エイラは返す言葉を失う。
断絶と対話
その夜、森に月が昇る。静かな水辺で、エイラとミリカは並んで座っていた。
「…私はまだ何も知らない。けど、私の中には何か…“違う声”がある」
エイラは胸元のペンダントを見つめる。そこから聞こえる“星の声”は、誰にも聞こえないものだった。
ミリカはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「私も…本当は空を見上げるのが、好きだった」
それは小さな告白だった。幼い頃、空に向かって吠えることを禁じられた少女の、ひとつの願い。
「なら、見てみようよ。今度は一緒に」
エイラが手を差し出すと、ミリカは戸惑いながらも、その手を握った。
それは、断絶の森に差し込む小さな光だった。
森を出る朝
翌朝、霧は薄れ、風がわずかに流れ始めていた。
「不思議ね……昨日までは風が死んでたのに」
ミリカの言葉に、エイラは微笑んだ。
「風はね、呼ぶものなんだと思う。信じる心が、風を動かす」
別れ際、ミリカはエイラに小さな布包みを手渡す。それは、リュナ族に代々伝わる“月紋の羽飾り”。
「これは“見えぬ風を聞く者”の証。あなたなら、風を繋げるかもしれない」
そしてエイラは、森の上空へと羽ばたいた。
オリヴィア高原は、もうすぐそこだった。
その森は、アヴィア南東の裂谷から北西へ向かう航路上、避けては通れぬ存在だった。
空からは見えない霧が覆い、羽ばたこうとする翼を鈍らせる重たい空気――それはまるで、空を拒むかのような場所だった。
「この風……空の流れが死んでる……?」
エイラは着地すると、慎重に翼を畳んだ。大地を歩むには慣れていないが、それでも行くしかなかった。
ペンダントは、確かにこの森を通り抜ける先を示している。
獣人の森
森の中は静かだった。木々は空を塞ぎ、鳥の囀りさえ聞こえない。風がない。音がない。命の気配が希薄だ。
それでも、エイラは何かを感じ取っていた。視線、鼓動、気配――この森には、「人ならざるものたち」がいる。
「……誰か、いるの?」
声をかけた瞬間、地面がざわめいた。
次の瞬間、木陰から音もなく現れたのは――獣の耳としなやかな尾を持つ、二足歩行の若い少女だった。
「空の子……この森に、何の用?」
少女は弓を構えながら問いかけた。その耳はピクリと動き、目は警戒に満ちている。
「私は、エイラ。アヴィアンです。この森を通り抜けたいだけなの。戦いに来たんじゃない」
一瞬の沈黙の後、少女の弓が下ろされた。
「……私はミリカ。この森の守り人。リュナ族の者よ」
月と霧の部族
リュナ族――それはかつて空の民と同盟を結び、地上の風を守ってきた獣人の一族だった。
だが、数百年前の“空の盟約の破綻”を機に、彼らは空の民を「裏切り者」として忌避し、森の奥に閉じこもったという。
ミリカは森の集落へエイラを案内する。苔むす木々の間に隠されるように、蔦で覆われた木造の家々が並び、地面の温もりと月の光だけを頼りに暮らす、静かな民の姿があった。
「なぜこの森には、風が流れていないの?」
エイラの問いに、リュナ族の長老は静かに答えた。
「この森は“忘却の地”と呼ばれておる。かつて、星の力を空の者が独り占めせし時、風は我らから離れていったのじゃ」
「風は、信頼と調和の象徴だった……お前たちアヴィアンがそれを壊した」
その言葉に、エイラは返す言葉を失う。
断絶と対話
その夜、森に月が昇る。静かな水辺で、エイラとミリカは並んで座っていた。
「…私はまだ何も知らない。けど、私の中には何か…“違う声”がある」
エイラは胸元のペンダントを見つめる。そこから聞こえる“星の声”は、誰にも聞こえないものだった。
ミリカはしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「私も…本当は空を見上げるのが、好きだった」
それは小さな告白だった。幼い頃、空に向かって吠えることを禁じられた少女の、ひとつの願い。
「なら、見てみようよ。今度は一緒に」
エイラが手を差し出すと、ミリカは戸惑いながらも、その手を握った。
それは、断絶の森に差し込む小さな光だった。
森を出る朝
翌朝、霧は薄れ、風がわずかに流れ始めていた。
「不思議ね……昨日までは風が死んでたのに」
ミリカの言葉に、エイラは微笑んだ。
「風はね、呼ぶものなんだと思う。信じる心が、風を動かす」
別れ際、ミリカはエイラに小さな布包みを手渡す。それは、リュナ族に代々伝わる“月紋の羽飾り”。
「これは“見えぬ風を聞く者”の証。あなたなら、風を繋げるかもしれない」
そしてエイラは、森の上空へと羽ばたいた。
オリヴィア高原は、もうすぐそこだった。
0
あなたにおすすめの小説
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる