【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第3章

第39話 報告と再調査の兆し

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 ギルドに戻ると、薄暗い酒場のような空間には、まばらに冒険者たちが座っていた。

 カウンターには、依頼を受けた時と同じ受付嬢――エリナが立っている。
 リュークは疲労困憊のまま、まっすぐ受付に駆け込んだ。

「……エリナ!」

 息を荒くしながら、声を張る。
 エリナは目を見開き、手にしていた帳簿を落としかけた。

「リュークさん……?」
「地下水道に……得体の知れない“何か”がいた!」

 リュークは息を整えながら、必死に言葉を繋ぐ。

「影のような魔物に襲われた。普通の攻撃が通らない上に、影に触れた途端、体が重くなって動きが鈍っていく……。ただの魔物じゃない」

 その言葉に、エリナの表情がさっと青ざめた。
 手元の帳簿を抱え直すも、指先がかすかに震えている。

「っ……ギルドマスター!」

 反射的に振り返り、かすれ気味の声で叫ぶと、エリナは通路の奥へ駆け出していった。

 重い足音と共に、ほどなくして白髪の壮年の男が姿を現す。
 着崩れのない長衣と、鋭い眼光が威圧感を放っていた。

「ふむ……それはもしや、“深淵の眷属”かもしれんな」

 低く唸るように言いながら、白い髭を撫でる。

「……深淵の、眷属……?」

 リュークは眉をひそめ、反応する。

「かつて、ベルハイムの地下には“何か”が封じられていたという話がある。」

「公式の記録は残っておらんが、同じような異変で行方不明になった冒険者も、何人かいた」

 男の声は抑えられていたが、その目は真っすぐリュークを射抜いていた。

「お前が――生きて戻ってきた、初めての例かもしれん」
「影に攻撃を通して、退けたんだな?」

「……ああ、なんとか……だが」

 リュークはわずかに息を詰めながら答えた。

「……やはりな」

 ギルドマスターは小さく頷き、目を細める。

「今後の対応を考えると、調査隊を再編せねばなるまい。上層部にも報告する。……だが、
 その前に“再調査”が必要になるだろう」

 その言葉を聞いた瞬間――
 リュークは、胸の奥に鈍い違和感を覚えた。

(再調査……? まさか……)

 言葉の続きを待つまでもなく、ギルドマスターの視線は、まっすぐに自分へと向けられていた。

 それは明らかだった。これは、ただの報告で終わる話ではない。
(……つまり、俺に行けと?)

 リュークは、わずかに息を呑み、静かに問い返す。

「……俺に、その準備を?」

 ギルドマスターは間髪入れずに頷いた。

「そうだ。今、お前しか“影に干渉できる可能性”を見せた者がいない。お前が特別だとは言わん。だが――“その力”に反応して、あの存在が動いた可能性もある」

 リュークは一瞬、目を見開いた。

 その言葉の重さが、思考の深層にゆっくりと染み込んでいく。

「報酬は追加で出す。だが、強制はしない。今日の調査は、正式に完了として記録に残す」

「返答は……明日で構わん」
「……分かった」

 リュークは短く、しかししっかりと頷いた。
 ギルドマスターが手を振ると、エリナがそっと調査報酬を差し出す。

 リュークはそれを受け取り、静かに扉の方を向いた。

「……じゃあ、明日また来る」

 ギルドを後にするその背に、ギルドマスターの低く、独り言のような声が落ちた。

「本当に……ただの偶然なのか……?」

 リュークは、ベルハイムの街の薄暗い路地を、静かに歩いていた。

 喧騒は遠く、夜の冷気が、戦場を駆け抜けた身体に心地よく染み込んでいく。

 手のひらには、先ほど受け取った金貨が一枚。
 その冷たさが、ようやく現実に戻ってきたことを告げていた。

 シャドウファングは、無言でその背を追っている。

(金貨……これで、スキルの開放ができる……はず)

 だが、ふと足を止め、掌の上に乗せた金貨をじっと見下ろす。
 ――思ったよりも、軽い。

 あの死線を越え、命を削って得た代価が、これほど小さく、無音で、何も語らないものだとは――。

 胸の奥に、苦い感情が一瞬だけ広がった。

(……だが、それでも)
(これは、確かに“俺が生き延びた証”だ)

 金貨の表面が、雲間から覗いた月光を受け、かすかに揺らめいた。
 その光は、闇に呑まれかけた命の輪郭を、再び浮かび上がらせるように――静かに、優しく灯っていた。

 やがて、路地の奥。
 ひっそりと佇む宿の入り口へと、リュークは歩を進める。

 その足取りは、少しだけ重かったが――確かに、前へと向かっていた。


 次回:記憶の鍵――メモリーバンク LV.1
 予告:金貨と共に目覚める断片。記憶は、世界を裏返す。
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