【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第3章

第43話 封印術の真意と必要条件

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 訓練を終えたリュークは、**スッ……**と息を整えながら短剣を鞘に納めた。

 胸の奥にまで響いていた鼓動が、ようやく落ち着きを取り戻しつつある。

 額の汗をサッと拭い、隣を見ると、ガルドが木剣を肩に担ぎ、ふっと満足げに頷いた。

「随分動けるようになったじゃねぇか。今の動きなら、そこらの新人よりずっとマシだな」

「ありがとうございます。でも……まだ足りないです」

 リュークは拳を握りしめ、その指先がわずかに震えているのを自覚した。

(地下水道でのあの影……あいつを倒すには、今のままじゃ到底届かない)

 歯を噛み締めながら、焦りと悔しさを押し殺すように拳を見つめた。

「……にしても、頑張ったな」

 ガルドがゴンッと軽くリュークの肩を叩く。その手には、訓練の疲労を労う優しさが滲んでいた。

 リーナは小さく鼻を鳴らし、手持ちの布で自分の汗を拭きつつ、

「ほら、顔に砂埃がついてるわよ」

 そう言って、ヒュッとタオルをリュークへ投げてよこす。

 リュークはわずかに照れながらも受け取り、顔を拭った。
 その布に染みる汗と土の匂いが、今の自分を確かに刻んでいる気がした。

 傍らでは、シャドウファングが隅で丸くなり、目を細めて尻尾をゆるやかに振っている。

 その静かな仕草に、リュークも自然と表情を和らげた。
 訓練場にふわりと小さな笑いが広がる――ほんの一瞬だけ、戦いを忘れた、穏やかな時間だった。

「ガルドさん、少し相談したいことがあるんですけど、いいですか?」

 リュークの声は真剣で、芯のある響きを持っていた。

「ん? どうした?」

 ガルドが目を細め、リーナとザックも思わず手を止めてリュークに目を向けた。

「地下水道の件です。影の正体を突き止めるために、もう一度調査に行こうかと……でも、今のままじゃ歯が立たない。そこで、もう少し準備をしたいんです」

 言葉を噛みしめるように語るリュークの瞳は、深い覚悟の色を宿していた。

 ガルドは腕を組み、**フウ……**と息をつきながら頷いた。

「ああ、俺も聞いている。確かにな。あの影の存在は放っておけねぇ。だが、無策で突っ込むのは愚策だ」

「それで、これを見てほしいんです」

 リュークは荷物からスッと一冊の古びた巻物を取り出した。

 それは、地下水道で拾った封印術の古文書だった。

「これは、地下水道で見つけた封印に似た文字が書かれている古文書です。影の侵食を防ぐ封印術が記されているみたいなんですが、俺には完全には解読できなくて……」

「封印術だと?」

 リーナの声がわずかに震え、驚愕の表情のまま、古文書に目を凝らした。

「確かに、この文字……古代魔法陣の一種ね。完全に読むには時間がかかりそうだけど、封印の解き方や、影に対抗する術が載っているかもしれないわ」

 リーナは指先でページをなぞりながら、眉をひそめる。

「そうか……これがあれば、少しは対抗手段が見つかるかもな」

 ガルドは腕を組み、視線を落としながら静かに唸った。

 一瞬の沈黙のあと、彼は深く頷いた。

「リューク、お前の意見に賛成だ。だが、俺たちも手伝う。お前一人で行かせるわけにはいかねぇからな」

「ガルドさん……ありがとうございます!」

 リュークは反射的に頭を下げ、こみ上げる感謝の気持ちを噛みしめた。

 ザックは無言のまま短剣をくるりと指で回し、口元にわずかな笑みを浮かべる。

「ま、どうせ暇だったしな」

「よし、明日は一度ギルドに行って、地下水道の追加依頼を受けよう。それと、封印術の解読も続けるぞ」

 ガルドの声に、場の空気が少し引き締まる。

「了解!」

 リュークは力強く応じた。
 仲間たちもそれぞれに頷く。

 その表情には、言葉にしなくとも伝わる確かな連帯感が宿っていた。
 夜の静寂の中、彼らの旅は再び動き始めようとしていた。

 ──
 宿に戻ったリュークたちは、薄暗い部屋の片隅に身を寄せるように集まっていた。

 机の上には、広げられた古文書。ランプの淡い灯りが揺れながら文字を照らし、まるで眠っていた言葉たちがゆっくりと目を覚ますかのようだった。

 リーナは慎重にページをめくりながら、小さく息を吐く。

「……やっぱり。これ、かなり古いわね」

 その声は、普段よりも低く張り詰めていた。

 文書に刻まれた線や符号は、明らかに古代魔法陣の系統を示していたが、中には見慣れない記号や、崩れかけた象形文字のような印も混じっている。

「読めそうか?」

 ガルドの声は低く、重かった。腕を組んだまま、じっとリーナを見つめている。
 リーナはすぐには返さず、ページに指を置いたまま、しばし黙考した。

 やがて、小さく頷いて言った。

「全部は無理。でも……解読できそうなところはあるわ。少し時間をちょうだい」

 その声に、仲間たちは静かに頷く。
 リーナは指先にほのかな魔力の光を宿らせ、文字を一つずつ丹念になぞり始めた。

 リュークは彼女の隣に座り、言葉を挟まず、その様子を見守る。
 彼の目は真剣で、呼吸もわずかに抑えられていた。

 そして――

「見て。ここ……『影の侵食を防ぐ結界』って書かれてる」

 リーナの声が、静かな部屋に確かな響きを刻んだ。

 リーナは声を落とし、指差した箇所をそっと示した。

 だが、次の文に目を走らせた瞬間、彼女の表情がわずかに曇る。

「ただ、その先が……読めない部分が多いのよ」

 リュークはページに視線を落とし、文の隙間に描かれた奇妙な模様に目をとめた。
 その形は、地下水道の壁面に刻まれていたものと、酷似していた。

「……この紋様。地下水道で見た記憶がある」

 リュークの言葉に、ガルドが反応する。

「本当か?」

 声には驚きと共に、抑えきれない希望の色が滲んでいた。
 リュークは確信を込めて頷いた。

「ええ。おそらく、この封印術なら……影を抑え込める可能性がある」

 リーナは慎重にページをめくる。
 そこには、さらに複雑な魔法陣と、びっしり詰まった解読困難な呪文が描かれていた。

 彼女の目が細くなり、張り詰めた空気が部屋を包み込む。
 仲間たちは静まり返り、ただその解読の続きを見守るしかなかった。

 この記号、見たことがあるわ……」

 リーナが古文書の一角を指でなぞりながら呟いた。

「封印術の一種みたいだけど、完全には読めない。でも……たぶん、ある程度魔力の強い“中~上位クラスの魔物核”を媒介にして発動する術式ね。普通の魔物核だと、安定しないかもしれないわ」

 ガルドが腕を組んだまま、リュークへと目を向ける。

「その術で、あの影を封じられるってことか?」
「……やってみる価値はある」

 リュークは即答し、古文書をしっかりと握りしめた。

「でも、完全な封印を行うには、“魔力の器”としてある程度の容量が必要らしい。ここに記されてる『魔力結晶』ってのが、それに当たると思う」

「魔物核の中でも、少し大きめのやつだな。中級クラスの魔獣から採れる核なら……運が良ければ、ギルドでも何とかなるかもしれねぇ」

 リーナも真剣な表情で頷いた。

「ただ、封印術は一度使えばそれで終わり、ってものじゃないわ。術式を安定させて維持するには、使い手の魔力量も一定以上必要になる。結構、体への負担も大きいと思う」

「……俺がやる」

 リュークは迷いのない声でそう言った。
 ガルドがじっと彼を見つめる。

「無理すんな。まだ回復しきってねぇだろ」
「大丈夫です。……俺が動かなきゃ、あの影は止まらない」

 ガルドは数秒の沈黙の後、肩をすくめて苦笑した。

「まったく……お前ってやつは、見てらんねぇな」

「でも、封印の呪文には詠唱が必要よ。ちゃんと覚えておかないと、失敗したら……影が暴走する可能性があるわ」

 リーナが真剣な眼差しで釘を刺した。その声には、わずかに焦燥すら混じっている。

「……わかった。覚えるよ、何度でも繰り返す」

 リュークは頷き、リーナの口から紡がれる呪文を一語一句、何度も反芻するように繰り返した。口元が乾き、舌が引きつるほどに。

 その横で、ザックが窓際の椅子に腰を下ろし、**シャリッ……シュッ……**と短剣を静かに研ぎながら目線だけを向けてきた。

「……お前、命を捨てるような真似だけはするなよ」

 声音は淡々としていたが、鋭さの奥ににじむものがある。

「……約束する」

 リュークはその視線を正面から受け止め、小さく、しかし確かに頷いた。

 夜は更け、窓の外の闇が静かに深さを増していく。
 それでも彼らは立ち止まらなかった。

 封印の呪文、魔力の制御、緊急時の動作、詠唱の語順、結界の展開範囲――
 一つ一つを手探りで、だが確実に、頭と体に叩き込んでいく。

 リュークは息を吐き、立ち上がった。
 掌にこもる汗を静かに握り込む。

「……これで、準備は整ったな」

 ガルドが立ち上がり、剣を背に担ぎ直す。
 その背中に、静かな闘志が宿っていた。

「うん、行こう。あの影を、必ず封じる」

 リュークの声には、迷いがなかった。
 ランプの光が揺れる中、彼らは静かに部屋を後にした。

 そして再び、あの地下の闇へと向かう――
 今度こそ、終わらせるために。

 次回:再調査へ――決意と魔物核
 予告:願いと覚悟が重なる時、ギルドの扉が再び開かれる
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