【メモリーバンク】記憶ゼロの俺が、量子の魔法で世界を変える ~封じられた過去が今、再構築をはじめる~

カイワレ大根

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第4章

第57話 ヒールフラワーの輝きと生還

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 森の奥は、さっきまでとは打って変わって静寂に包まれていた。
 風が葉を揺らし、小川のせせらぎが微かに聞こえる。

 リュークは慎重に歩を進め、目を凝らして薬草を探す。

「……あれは?」

 木の根元に、薄紅色の花が揺れていた。

「また、ヒールフラワーだ!」

 リュークはしゃがみ込み、花を丁寧に摘み取った。
 根を傷つけないように慎重に扱いながら、鑑定スキルを使う。

【ヒールフラワー】
 特徴:淡い紅色の花弁を持つ薬草。
 効能:体力回復、止血効果、炎症抑制。
 ポーションの主成分に適している。

「これで回復ポーションがもっと作れる……!」

 安堵の息を漏らしたその時、シャドウファングが低く唸った。
 リュークは即座に身を低くし、周囲を警戒する。

「何か来るのか?」

 黒狼の視線の先、茂みが揺れる。
 次の瞬間、飛び出してきたのは一匹のスティングウルフだった。

「またか……!」

 リュークは短剣を構え、即座に指示を出す。

「シャドウファング、左から回り込め!」

 シャドウファングが森の影を滑るように走る。

 その動きに気を取られたスティングウルフに、リュークはポーチから煙玉を取り出し、地面に叩きつけた。

 パシュッ!

 白煙が広がり、視界が遮られる。
 その間にリュークは素早く木の陰に隠れた。
 煙の中でウルフの影が揺らめく。

「今だ!」

 煙が晴れた瞬間、リュークは短剣を振りかざし、ウルフの横腹に突き立てた。
 ウルフは苦痛の遠吠えを上げるが、まだ倒れない。

 リュークは左手に魔力を込め、詠唱を始めた。

「ファイアボルト!」

 赤い光が指先に灯り、炎の矢がウルフの胴体を貫く。
 ウルフは断末魔の叫びを上げ、その場に倒れ込んだ。

「はぁ……なんとか倒せたな」

 息を整えながら立ち上がり、ウルフの亡骸に手をかざして再び鑑定を使う。

【スティングウルフ】
 素材:獣の毛皮、狼の牙

「よし、これも使えるな」

 素材を回収したリュークは、ポーチの中の薬草を確認する。
 レッドグラス、ヒールフラワー、そしてムーングラス。

 これだけあれば、回復ポーションが作れる。

「街に戻ったら、調合に取り掛かろう」

 リュークはシャドウファングに微笑みかけた。
 黒狼は満足そうに鼻を鳴らし、リュークの隣を歩き始める。

(俺には、まだやるべきことがある)

 リュークは森を後にした。
 手には新たな素材と、少しだけ自信を握りしめて——。

 リュークとシャドウファングは森を抜け、街へと戻ってきた。

 夕暮れのベルハイムは活気に満ち、市場からは行商人の掛け声が響いている。
 リュークはポーチの中の薬草や魔物素材を確認しながら、ギルドへと足を運んだ。

 ◆ギルドでの報告
 ギルドの扉を開けると、賑やかな喧騒が迎えてくれた。

 リュークは真っ直ぐカウンターへ向かい、エリナに声をかける。

「エリナ、戻ったよ」

 エリナは顔を上げ、リュークを見るなり微笑んだ。

「お帰りなさい、リューク。今日は何か用?」

 リュークは腰のポーチを開き、採取した魔物の素材をカウンターに並べる。
 スティングウルフの毛皮と牙が光に照らされ、エリナの目がわずかに見開かれた。

「これは…スティングウルフの素材ね。質も悪くないわ。
 ちょっと待って、確認するから」

 エリナは手際よく鑑定道具を使い、素材を調べていく。

「うん、どちらも良質ね。毛皮は防具素材に適しているし、牙は武器強化にも使える。
 これならギルドで買い取れるわよ」

「助かる。頼むよ」

 エリナは素材の買い取り額を計算し、銀貨小10枚をリュークに手渡した。

「それと…前にお願いしたポーションの販売、どうなった?」

 リュークが尋ねると、エリナは棚から帳簿を取り出して確認する。

「ああ、魔力回復ポーションね。あれ、驚くほど評判が良かったのよ。市販品よりも効果が高いって噂になって、すぐに売り切れたわ」

「本当か?」

「ええ。これが売上よ」

 エリナは銀貨大8枚と銀貨小数枚をリュークの手に渡した。

「すごいな…まさかこんなに売れるとは」

「それだけ質が良かったってことよ。次の入荷はまだかって聞かれてるから、また作ったら教えてね」

 少しだけ間を置いて、エリナは帳簿を見つめながら、ぽつりと漏らした。

「……昔、兄が薬師をしててね。子どもの頃は、よく材料を一緒に運んでたの。売上の記録を見ると、あの頃を少し思い出すのよ」

 リュークは驚いたように視線を向けたが、エリナは照れたように笑った。

「受付って、地味に思われがちだけど……ちゃんと繋がってるって、最近やっと思えるようになったの」

 リュークは頷き、ポーション作りの手応えを感じた。

「ありがとう、エリナ。また持ってくるよ」

 シャドウファングが鼻を鳴らし、リュークの足元に寄り添う。

「それじゃ、またな」

 リュークはギルドを後にした。

 新たな素材を手に入れ、ポーション作りの次の段階に進むことを心に決めながら、夜の街を静かに歩き始めた。

 リュークはギルドを後にし、シャドウファングと共に宿へ戻った。

 ポーチには採取したレッドグラス、ヒールフラワー、そしてムーングラスが収められている。

 部屋に戻ると、彼は机の上に採取した薬草を丁寧に並べた。

 すでに市場で購入していたフラスコや濾過器、鉄鍋を用意し、作業の準備に取り掛かる。

「よし、始めるか」

 まずはレッドグラスから手をつける。
 赤い葉脈が走る細長い葉を一枚ずつ摘み取り、専用の小刀で細かく刻む。

 手元に漂う微かな薬草の香りが、彼の集中を高めていった。

「次はヒールフラワーだな」

 青白い花弁を慎重に取り外し、すり鉢に入れてすり潰す。
 すると、花弁から染み出した液体が淡い光を放ち始めた。

「なるほど…これが回復効果の源か」

 今度は鍋に水を張り、火にかける。
 沸騰する直前に刻んだレッドグラスを投入すると、鍋の中がじんわりと赤く染まっていく。

 リュークは火加減に注意しながら、木の匙で優しくかき混ぜた。

「煮詰めすぎるとダメだったな…」

 頃合いを見計らって、すり潰したヒールフラワーを加える。

 ふわりと甘い香りが漂い、湯気が部屋を満たしていった。
 液体が淡い紅色に染まると、リュークはムーングラスをひとつまみ加える。

「これで仕上げだ」

 煮詰まった液体を濾過器に通し、フラスコへ注ぎ込む。
 透明な瓶の中で、赤みがかった液体が淡く光っていた。

「これで…完成か?」

 リュークは手のひらにフラスコを乗せ、鑑定スキルを発動する。

【回復ポーション(初級)】
 効果:体力を回復し、軽度の傷を癒す。
 純度:78%。

「やった…成功だ!」

 安堵の息を漏らし、机の上に並べられたポーションを見渡す。
 試行錯誤の末に作り上げた一本一本が、彼に確かな手応えを感じさせた。

 魔力回復ポーションも作って、明日、ギルドに持っていこう
「やったな、シャドウファング!」

 黒狼は鼻を鳴らし、リュークの隣に座り込む。
 机の上には十数本のポーションが並び、そのすべてに彼の努力が詰まっていた。

 シャドウファングが満足そうに鼻を鳴らす。
 リュークは彼の頭を撫で、満ち足りた気持ちで静かに夜を迎えた。

 夜が更けるころ、リュークは満足感に包まれながら眠りについた。
 翌朝、彼は完成したポーションを革袋に詰め、ギルドへと向かった。

 ギルドに着くと、エリナがカウンターの奥で作業をしていた。
 リュークは真っ直ぐ彼女の元へ向かう。

「おはよう、リューク。今日は何の用?」

 リュークは革袋をカウンターに置き、ポーションを取り出して並べた。
 エリナの目が驚きに見開かれる。

「これ、全部リュークが作ったの?」

「ああ。市場で材料を手に入れて試してみたんだ。魔力回復に加えて、体力回復ポーションも作ってみた。効果も確認済みだよ」

 エリナは試しに一本を手に取り、鑑定道具で確認する。

「すごい…これ、市販品よりずっと質がいいわ!これもギルドで預かって販売するから、売り上げの二割を手数料として引かせてもらうけど、それでいい?」

「もちろん。よろしく頼むよ」

 リュークが頷くと、エリナはポーションを丁寧に棚へと運んだ。
 その表情には感心の色が浮かんでいる。

「助かるよ、エリナ」
「また作ったら持ってきてね。リュークのポーション、人気が出そうだもの」

「もちろん。またよろしく頼む」

 リュークはギルドを後にした。

 彼は次の行動を考える。

(ポーション作りで安定した収入が得られそうだ。
 これで装備を整えたり、情報を集める余裕ができる…それに、あの影のことも調べなきゃな)

 シャドウファングが鼻を鳴らし、リュークを見上げる。

 なんだか、ポーション作りが楽しくなって来た。

「行くぞ、シャドウファング。次はもっといいポーションを作ってやる」


 次回:修練の日々と強敵ナイトベア
 予告:毎日が挑戦。強さは継続の先にある。
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