九人の天神

華林

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セイの日常

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皆様、どーもこんにちは。

私は九天神の一角であり、『魔術師』LvMAXの『セイ』です。

一応主人公というポジションに居させて貰ってますが、九天神の中では最弱であり、何だったら他魔術師よりも弱いのです。

というか

「誰か~助けて~」

その男は、セント・クリヌゥス王国の南区にある『チウの酪農広場』にある大きな木の枝にぶらさがりながら、そうダルそうに叫ぶのだった。

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『主人公は最弱』

九天神は、基本的にセント・クリヌゥス王国の中心部にあるクリヌゥス城に住み込みで働いている。

階級事に部屋の大きさは変わっていき、清掃など身の回りを世話する者たちはバス・トイレ無しの15畳。

階級の高い九天神だと、トイレバス付きキッチン付きで40畳程である。

各々が好き勝手使っている部屋だが、一部の人間は部屋を物置にしてたり、家族を住まわせていたりと、わりかし自由な空間となっている。

そして、本作の主人公であるセイは基本、その部屋で徹夜をするタイプの魔術師である。
部下の魔術師達を呼び、合成し錬成し研究し

ある時は仲間たちと一ヶ月かけて完成させたレポートを焚き火の材料にし、仲間たちと芋を焼いて九天神のリーダーである『イチ』に殴られ

ある時はついに成功した研究の成果を仲間の誰にも見せずに叩き割り『こんな世界クソ喰らえ!!』と叫び、部下の魔術師に殴られたり

またある時は、好物のペペロンチーノを大鎌の中に放り込んで部屋中に量産したペペロンチーノが飛び散り、部屋中がニンニク臭くなり、部下の女魔術師に掃除を命じられたり

またある時は、魔物と魔物を合成し魔物兵器を作ろうとしたが、やはり非人道的すぎるので泣きながら、一人で森に帰してあげる。

そんな、社会に疲れた彼の朝はいつも早い。

理由は何故か、それは九天神の一角であり『守護者』LvMAXであるトロワが必ず決まった時間に起こしに来るからだ

「起きろ!セーーーイ!!!」

「グハッ!!!!………ヴゥ」

毎朝同じ起こし方をしてくる。部屋に入り、助走をつけ、高く飛び、セイの腹目掛けて肘を入れる。

セイも抵抗していない訳では無い。魔術師LvMAXは伊達ではないので

その一撃は大岩をも砕く武闘家の一撃をも無傷で耐えることの出来る魔法薬を寝る前に飲んでおり、対策は万全だったはず。

なのに何故負けたのか。それは、セイがLv90以上の魔法薬の作成を面倒臭がり、Lv70でも出来る魔法薬をつくってたからである

LvMAXの拳は痛かったよ

「トロワ…お願いだから、もっとやさ、やさし…ぐふ」

「はぁ?起こしに来てやってんだから感謝くらいしろよ!次はエムパト起こしてくるー!」

何故被害者が加害者から文句を言われないといけないのだろう。いつか必ずぶん殴ってやる。

いや、まぁ相手守護者で私魔術師。出来るわけもないというか、返り討ちにあって死ぬ。

そんなことを思いながら、セイは寝癖をとかしにクリヌゥス城の共同スペースへと向かった。

ぎゃぁぁあぁぁぁぁー!!!!!

何処かでエムパトの悲鳴が聞こえる。アイツも何か対策してんのかな?そう思いながらスタスタと向かっていった。

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『共同スペース』

共同スペースは、九天神の他に、清掃や他雑務をこなす者たちも使うことができ

そこで朝食を摂ったり、研究成果を発表し合ったり出来る場である。

イメージ的にはtswrツイ〇テの大食堂を想像してもらえると有難い。

「…朝から暑苦しいな、チウさん」

「あら?良いじゃない、この辛さこの熱さこの苦しさこの痛さ!!!んーーーーー!!完璧パーフェクッ!!!!!」

その食堂にて、殆どの方から距離を置かれているマッチョで暑苦しいオカマの存在。九天神の一角であり『武闘家』LvMAXのチウと

その真正面で、ぐったりしているエムパトと元気そうにバクバクとご飯を食べるトロワの姿があった。

「ゥ…五月蝿いわよぉ…チウさん」

「あら、ごめんなさい、パトちゃん…。んもう、トロワちゃんったら、お口にご飯粒がついてるわよ」

「ふも、はりーな!」

机に置いてある紙ナプキンで、トロワの口を拭くチウさん。

そこにいつ持ってきたのか、セイは好物のペペロンチーノを持って座った。

「あ、またセイ様がペペロンチーノ食べてる」

「皆行けGOGO!!」

「セイ様!私達が食べさせますのでなにもしないでください」

素早い動きで、フードを被った部下の魔術師達が僕の周りに座ってくる。

そして、先程のペペロンチーノ大生産の時に話にでてきた女魔術師であり、

真紅の燃えるような髪と赤と黄色で全く違う目の色をしているオッドアイが特徴的な、密かに「私の母になってくれるかもしれない女性お願いだから、貴女に甘えさせて」と言われるこの女性。

『魔術師Lv76』の『コレール』が、その深々と被ったフードを脱ぎ、怒ってきた。

「…いいよ、子供じゃないんだから」

「子供です!!食事中はいつもいつもやれ魔法薬だやれ魔術式だ!!セイ様が一人で食べると必ずボトボト落として、私達の上司がそんなんじゃ、部下としてかなり恥ずかしいんです!!!」

「そ…そんなに言わなくてもいいだろ」

「そんなに言われるほど!!貴方様は身の回りに無頓着すぎるのです!!ほら、もうまたこぼして!!」

近くにいるチウは呆れ、エムパトはぐったりしながら笑い、トロワは笑っている。

他の魔術師達も、水を持ってきたり、コップと歯ブラシ持ってきたり、台拭きでテーブル拭いたり、モップを持ってきていたりと、割と失礼な対応をしてくる。

いや、うん。自分が悪いのは自覚しているんだけど…。何だかなぁ…

「ほら、セイ様!あーん」

「…あーん…うん、今日も美味し」

「そうですか、それは良かったです」

ニッコリ笑顔に、思わずセイ自身も笑ってしまう。
だが、文章では伝わらないと思ったので、客観的に状況を見てみよう。

一人の男が、ペペロンチーノを食べるだけで部下にここまでの苦労をかける絵。

所謂『ダメ人間』である。

そんな光景を先程は笑っていたが、今ではぶすくれて眺めているトロワは、咥えたフォークをガジガジと噛み、机に突っ伏しながら、不機嫌そうに見てるのだった。

「あら?お気に入りを取られて不機嫌かしら?」

「…そんなんじゃねーよ…。ご馳走様でした」

不機嫌そうに、つまらなそうに、トボトボとトロワは食器を下げに行くのだった。

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『セイの部屋』

「だから!この術式構築だと時間が三分以上かかるから!!だから高レベル魔術師は使わないんだろ!」

「その三分をいかに取り除けばいいのかを話し合ってるのに使う使わないは関係ねーだろ!!」

「そもそもその三分があるからこそ強大な魔法を生み出せるからして!!」

「畜生!!相手がロ〇スカ・〇ロ・ウ〇・ラピ〇タならどれ程良かったか!!!」

「何故わざわざフルネームで言ったのそれ!?」

現在、セイの部屋では『相手に必中する即死魔法』の術式構築に対する研究が行われた。

三分で必中の即死魔法なら、リスクがあるものの、構築した方がいいのでは?と思うが、それはこの世界では違う。

この技は、ポケ〇ンでいうレベルで覚えられる技で、しかもそのレベルが95以上という現状、この世界では、セイを含めた三名しかできない魔法なのだが

戦闘において、後方のレベルが高いことはかなりの致命的である。

理由は簡単、レベルが高い人程、魔物に狙われやすくなる。しかも、その魔物は『魔術師』や『狙撃手』『聖職者』を先に狙う傾向があるので、そんな三分の時間など無いに等しいものなのだ。

狙撃手は、その素早い身のこなしや後方系でありながら高い筋力を持っているので、近接戦闘も出来るし

聖職者は、高い体力と自身への耐久力アップも出来るので、同レベルの魔物やレベルの低い相手だと、やろうと思えば無限耐久も、理論上では可能である。
(耐久力アップ→耐える→回復→耐久力アップ→さらに耐える時間が長くなる→回復→耐久力アップ→さらにさらに耐える時間が長くなる→回復)

だが、魔術師の攻撃魔法は全てそれ相応の時間がかかり、最低でも二十秒の時間がいる。それを相手の攻撃無視でゴリ押そうとすると、魔術師特有の紙耐久で先にコチラが死ぬのだ。

なので、基本パーティーに入る時、魔術師は他の仲間よりレベルが低くないといけないが、セイは『魔術師LvMAX』で産まれてきてしまった為誰からも必要とされず、小さい頃いじめをうけて

「なんでいつの間にか俺の昔話になってるわけ?」

「え?セイ様がさっきからボーっとしてるからでしょ忙しい時に」

そんな部下達が、必死に研究しているなか一人でハンバーガーを既に三個たいらげ、四個目に手を伸ばそうとしているセイの姿があった。

「いいふぁん、どうへおれはせんほうへないひ……ゴクン…コレールも食べる?」

「いらないから、もう一回魔法見せてください」

「…はぁ、知ってるでしょ?俺あの魔法嫌いだって、必ず噛むんだもん…というか何であんな文字列で即死魔法出せるわけ?規則性法則性ブレっブレのブレじゃん。この小説みたい」

「メタいネタ言ってないでさっさと見せてください!」

バコン!と、コレールの持っていた本に殴られる。

ここギャグの世界じゃ無いからね?そんなぶ厚いやつで殴られたら普通死ぬよ?僕耐久力無いこと、魔術師仲間なんだから知ってるでしょ?泣くよ?

「…はぁー。空ッ!」

そう言うと、セイは目を開け、手を斜め上に上げ、術式を構築していく

「汝天を仰ぎし時と法則を持ちし神へ捧げ神に誓い神へ祈り神を殺す者よ」

~一分後~

「回れ回れ回れ回らんとする我の言葉を聞き」

~また一分後~

「現出せよ!!!トリック!!!!」

「…ん?あー、やっと終わっ………」

呪文が終わった時、コレールの前にいたの筈のセイの姿は無く、変わりに黒猫の姿があった。

周りを見てみると、薄く煙のような者が部屋の中に立ち込めており、床を見ると、一つの瓶が転がっていた。

「……え???…あ、これ気化型眠り薬…はっ!!」

コレール以外の全員はまだ眠っており、セイの姿は何処にもない…。

「……あっの馬鹿上司がぁぁぁぁ!!!!!!!」

城中にコレールの怒鳴り声が聞こえる、ある者は驚き、ある者は呆れ、ある者は笑い、ある者は報告をしに行く。

そう、これこそが本作の主人公『セイ』であり、クリヌゥスでは、脱走のセイと言われていた。

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『チウの蓄膿広場にある木の上』

ここで、私セイから解説入れたいと思いまーす。

先程私が必死こいてカットカットしながら言った呪文は、Lv98で覚えられる強制入れ替え魔法の『トリック』。

一度印を付けた生き物や道具、様々なモノの場所を把握し、その場所と入れ替えることの出来る魔法。

後方支援として、仲間達を戦場から帰還or進軍させることの出来る魔法なのだが、いかんせん地図やなどの上でやらないと場所の把握も出来ない為、緊急脱出用としては割と使えない魔法である。

そして、床に散らばしたのは、脱走する為に一ヶ月置きに使っている気化型眠り薬。

空気に触れると直ぐに気化し、無臭なので気付かれずに使える事の出来る万能アイテムだが、効果時間も人によっては二分~五分と曖昧であり、作成するのも根気と体力とLvが80以上必要となるかなり面倒臭い代物だ。

いや、本当に面倒臭いのよ?あれ

空気に触れちゃダメだから比較的透明な水を膜として貼らないといけないし、その水のせいでゆらゆらと中の素材が動くから手元も狂うし。

二度と作らないあんな薬。

「…ん?あぁ?セイ、お前、何してんだ?」

と、下から聞きなれた声が聞こえる。

疲れきった鎧の兵士達を引き連れているトロワの姿があったのだ。

「降りれなくて困ってるー。助けてー」

「…いや、跳べばすぐだろ」

「いや、その跳ぶのが恐くて跳べないでいる」

「ぶっはっはっは!!ダッセーなセイ!!分かった待って…ろっ!!!」

そう言いながら、トロワは腰の短剣に手をつけ、半径三十はある木を切り倒した。

そして、倒れると同時に落ちたセイを楽々と片手で捕まえ、地面に降ろしたのだった。

「…確かその短剣。十五cmだったよな?」

「あぁ、だから無理矢理こう…スパッといった!」

「………たまにお前のその脳筋を見習いたくなる」

「そうか?なら見習っとけ!」

皮肉を言ったつもりだったが、皮肉になってなかったらしい。悪口って難しいね。

「それで、その後ろの兵士達はどうしたの?」

「ん?昼前のランニング中だ!!」

そう、満面の笑みで言ってのけた。

セイは、一人の長身の兵士の元に行きコソッとその兵士が聞こえるくらいの大きさで喋った。

「…実はそっちの部隊ってかなりブラック?」

「……い、いえ。そんなことはありません」

ブラックだこれ、かなーりのブラックだ。後で説教しとこというか流石に言わないといつかトロワが後ろから刺される。

いや、まぁ部下達の平均レベルから見てトロワがやられるわけないんだけど。

「今からコイツらと昼飯なんだけど、お前もどうだ?」

「…あー、うん。俺も食べるわ」

「そうか!あっはは!なら私がおんぶしてやる!」

なんて、言われながら担がれたセイ。

いや、強引過ぎてもう本当に女の子?ってなるんだけど、君歳幾つだっけ?確か俺と同い歳だよね?めっちゃ子供っぽいんだけど?25ってもう落ち着く歳頃なんだけど?

そんな事を思いながら、セイはトロワにおぶられ、城に帰って行くのでした。



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