拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~

ぽん

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初めての旅 〜ダグスク〜

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「イオリ様、お客様のお越しですよ。」

 早くに来て手伝いをしてくれたダグスク侯爵家・執事カールがエナばあちゃんとその家族を連れて来た。

「ありがとうございます。カールさん。
 エナばあちゃん!来てくれて嬉しいです。
 どうぞ座ってゆっくりして下さい。」

 恐縮しているエナばあちゃんと家族にイオリは笑顔を向けた。

「食べに行くとは言ったけど、こんな先先代様の別邸だとは思わなかったよ・・・。」

 エナばあちゃんは震える手をイオリに伸ばした。

「俺もお借りしている身なので気持ちはわかります。
 でも、今日の1番のお客様はエナばあちゃんと皆さんなので気楽にしてくれると嬉しいです。」

 恐らくこうなるだろうと予想していたイオリ達は出来る限りの安心をと思って、慣れさせるために早めに来て貰ったのだ。

「テンさんもようこそ。奥様と息子さんですね。
 俺の我が儘を聞いてくれて有難うございます。」

 テンは首を横にブンブンと振ると慌てたように言った。

「とんでもねー。俺が侯爵家の別邸の中に入れるなんて・・・。
 こんな名誉な事はないよ。」

「そうですよ。私なんか聞いた時、腰抜かしちゃって・・・。
 えっと、お招き有難うございます。
 妻のグレータです。こちらは息子のディスです。
 無作法者ですけど・・・。」

 奥さんのグレータさんは顔を真っ赤にして挨拶をしてくれた。
 息子さんのディスはヒューゴと同い年くらいだろうか、所在なげに別宅を見渡している。

「俺達は冒険者です。
 一般人どころか、皆さんの依頼によってご飯を食べてる身ですよ。
 そう固くならないでください。
 初めまして、イオリです。
 みんなー!自分達でご挨拶しよー。」

「「「はーい!」」」

 子供達を始めヒューゴやゼン達の自己紹介が終わると一息ついたエナばあちゃんがイオリに笑いかけた。

「この間は見せなかったけどね。
 こんなのもあるんだ。分かるかい?」

 エナばあちゃんの合図を受けてディスが持っていた包み紙を広げた。

「これは・・・?」

「おや?お前さんでも知らないかい。
 これは天草っていう海藻を・・・。」

「寒天だ!!そうでしょ!?」

 「ふふふ」と笑うエナばあちゃんは頷くと息子夫婦の顔を見た。
 2人は驚くと同時に眉を下げて微笑み頷いた。

「この状態の寒天って初めて見たんで驚きました。
 そうか・・・これが寒天か・・・。
 使っても良いですか?」

 エナは頷くと笑った。

「アンタにあげようと思って持って来たんだ。
 私らはこれを溶かして、とろみをつけて飲む事しか分からないけど、アンタならどう使う?」

 イオリは早速、オレンジを10個取り出し半分に切った。

「ヒューゴさん。これ絞って下さい。」

「全部か?分かった。」

 その間、イオリはエナばあちゃん家族に寒天の説明を始めた。

「皆さんは溶かして飲むって言ってけど、飲み終わりの容器や調理の後の鍋ってどうなってます?」

「どうって・・・。
 プニプニした残りカスがへばりついてるわね。」

 家事を担当しているグレータが真っ先に行った。

「そうです!それです。
 そっちをメインに食べるんですよ。」

「あれを?」

 テンは「まさか」と言うように顔を歪めた。

 笑ったイオリはヒューゴが絞りきったオレンジジュースを見た。

「うん。素晴らしい!
 種とか皮とか入っているんで一度濾しますね。
 これを火にかけます。スコル。」

「はーい!」

 コンロに鍋を置くとスコルに任せた。

「焦げ付かないようにゆっくりとかき混ぜながら沸騰させて。」

「了解!」

 その間にイオリは貰った寒天を適度な大きさに刻んでいき、カールと共にカップを用意した。

「イオリー。いいよー。」

 スコルの呼び声に戻りエナばあちゃんに見せるように、刻んだ寒天と少しの砂糖を鍋に入れた。

「まぁ、ここまでは一緒ですよね?」

「オレンジの汁で溶かそうとは思わなかったけどね。
 まぁ、そうだね。」

「溶かし切ったら、好きな容器に入れます。」

 カップに寒天を入れたオレンジジュースを注いでいく。

「これでやる事は終わりです。
 後は冷やし固めればいいんです。
 ゼン!お願い。」

 イオリに言われた通りにゼンがカップを冷やしていった。

「本来は徐々に冷やすのが良いんでしょうけど、今回は試しにと言う事で・・・。
 うん。しっかり冷えてる。
 どうぞ、試して下さい。」

 スプーンを渡してエナばあちゃんに勧めた。

「・・・。頂こうかね。」

 プルプルとしたオレンジジュースを掬い口にするとエナばあちゃんは目を見開いた。

「ツルッとしてて美味しいねー。
 暑い日なんかはこれを沢山食べたいよ。」

「パティにもちょーだい!」

 当然、食べたがるであろうパティを始めとして皆んなに配るとすぐになくなった。

「「美味しい!」」

「プリンとは違うけどナギはコレも好きだよ。」

 ウンウン

「確かにイケる。」

 子供達の反応は上々でテン達の反応はと言うと

「・・・これが寒天なのか・・・」

「こんな使い方があるなんて・・・。」

「・・・・・・・。」

 自分達が作っていた物の新しい使い方を知って驚いているようだった。

「寒天は天草を煮出して固めた物を天日で乾燥させたものでしょう?
 これも日持ちがして保存食として素晴らしい物ですよ。
 偏食?違います!立派な人の知恵ですよ。」

 イオリの言葉にテン夫婦は呆然としエナばあちゃんは嬉しそうだった。

「俺・・・。いつも何やらされてるんだって思ってた。
 漁師の方が金になるし、みんなに笑われる事もない。
 でも、使い方を知らないだけだった・・・。
 作り方を知っていても使い方を知らないなんて・・・。」

 この日はじめて声を発した息子のディスは目をキラキラさせて寒天ゼリーを見つめていた。

「だったら知れば良いだけの話です。
 俺だって全てを知ってるわけじゃない。
 
 でも、一つ言えるのは皆さんがやって来た事は意味のない事ではないです。
 先人が保存食を伝えようと・・・。
 ジュウゾウさんの思いを繋いでくれていた証ですよ。

 有難うございます。
 俺は、この街に来て良かったと心から思います。」

 イオリの言葉にエナばあちゃんを始めとしてテン・グレータ夫婦、そしてディスは目を潤ませた。
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