続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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書籍化記念SS

ラーラの溜息

 アースガイル国ポーレット領の街にある冒険者ギルドの受付係であるラーラはカウンターに肘を付き頬に手を当てていた。

 近年景気良いポーレットの街の影響は冒険者ギルドにもあり、毎日の様に仕事を求める多くの冒険者が詰めかけてくる。

 ポーレットの冒険者ギルドにおいてラーラは受付係でありながらサブマスに次ぐ影響力を持ち、仕事をサボりがちなギルマスを叱咤するのも彼女の仕事の1つだった。

 しかし、昨今のギルマスは不気味にも己の仕事に満身していて小言を言う暇もない。
 
 冒険者の受付ラッシュの時間も過ぎて珍しく何をするでもない時間が過ぎていく。

「ハァー。」

 いつもしっかり者のはずのラーラのやる気のない様子に後輩受付係達も気を遣うように声すら掛けない。

「おや?どうしました?」

 そこにサブマスであるエルノールが顔を覗かせ、気怠げなラーラの様子に眉間に皺を寄せた。

「だってサブマス・・・双子ちゃんはアンティティラ。ナギちゃんとニナちゃんは王都。
 ヒューゴさんに至っては隣国デザリアですよ。
 みんなバラバラで何だか寂しくって。」

 ラーラが一際お気に入りの冒険者パーティーは、それぞれ個別の仕事を請負がちで現在は活動休止状態である。
 

 荒っぽい者が多くやって来るポーレットの冒険者ギルドにおいて彼等の存在は一服の清涼剤として効果抜群で、いるといないのとではギルドの雰囲気が全く違うのだ。

 その中心人物である青年が眠りについて長い月日が経った。

 以前は行方すら分からなかった時期があるのだから、眠りについている事くらい良い方か・・・。

 そう自分達を無理やり納得させようとしても、時間が経てば経つほどに見守る方は焦ったく思うものだ。

「そうは言っても、彼等だって冒険者として仕事をしなければいけませんからね。
 高ランク冒険者としての責任も果たしてくれている訳ですから文句を言うものではありませんよ。」

「そんな事は分かってますよぉ。
 寂しいって言ってるだけですぅ。」

 口を尖らせるラーラにエルノールは首を竦めた。

「それに彼等は冒険者仲間と同時に家族ですからね。
 別々の仕事をしていても帰ってくる所は同じです。」

「はい。
 そうですね。」

 エルノールに嗜められたラーラは顔をパンパンと叩いて気合いを入れた。

バンッ!!

 次の瞬間、突如荒々しく冒険者ギルドの扉が開かれた。

 ラーラが期待した目で其方を見ると、ギルドマスターのコジモが慌てた様子で駆け込んできた。

「おい!大変だ!」

「どうしました?」

 ギルマスのあまりの慌てように冒険者ギルド全体に緊張が走った。
 
「カッチェの店のクリームシチューが期間限定で半額になるらしい。
 皆んなで行こうぜ!!」

 顔を輝かして叫んだギルマスに皆の冷めた視線が突き刺さる。

「チッ!」

 後輩の受付係達はラーラの舌打ちを聞き怯えた様に震えた。

「驚かせないで下さいよ。
 スタンビードでも起こったのかと思いましたよ。
 まったく・・・最近真面目に仕事してるかと思いきや・・・。」

 エルノールも呆れた顔で溜息を吐いている。

「何だよ。ノリ悪いなぁ。
 半額だぜ?半額。
 十分に大事件だろうが。」

 しかし、その日カッチェの店のクリームシチューは突如ポーレットの街に降った光りの玉によって半額どころか無料で配られる大騒動とになった。

 英雄イオリが目覚めた。

 冒険者ギルドに齎された嬉しい報告にギルマス、サブマス、ラーラが抱き合って喜ぶ姿が見られるのは、もうすぐの事だ。

※※※※※ ※※※※※ 

 いつも『続・拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』をご覧頂いて有難うございます。

 書籍化第5弾につきましてご報告をさせて頂きます。
 
 《2026年2月9日(月)》に各書店に発送されます。
 書店や地域によって数日後ろに倒れる事があります。
 
 それに伴い、『拾ったものは大切にしましょう~子狼に気に入られた男の転移物語~』 は2月9日(月)よりアルファポリス様に投稿している[302話]までを引き下げ、レンタル版との差し替えをさせて頂きます。
 ご了承下さい。

 この様な機会に恵まれますのも応援して下さる皆様のおかげです。
 本当に感謝しております。
 是非とも書籍版も楽しんで頂けますと幸いです。

 今回も表紙・挿絵はTAPI岡先生が担当して下さいました。
 港街を楽しむ元気な子供達を是非御堪能下さいませ。

 引き続き宜しくお願い致します。

 ぽん



 

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