続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜デザリア・ガレー〜

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 翌日、早朝に目覚めたイオリは子供達が熟睡しているのを確認するとゼンを連れて屋敷を出た。

「いってらっしゃませ。」

 見送ってくれたウムラに笑顔で手を降り、屋敷前の橋まで歩く。
 途中、ヒューゴが素振りをしているのを見かけるが、真剣な顔をしているのを見て声を掛けるのをやめた。

『砂漠はあんなに暑かったのに、この街は過ごしやすいね。
 なんでだろうね。不思議!』

 久々にイオリと2人きりの散歩にご機嫌なゼンがリズミカルに飛び跳ねる。

「トルトルとポルポルの力もあると思うし、草木が温度も下げる役目を果たしているんだと思うよ。」

 嬉しそうなゼンに微笑むとイオリは橋を渡った。

「さて、どっちに行こうかな。
 店が多いのは東地区って言っていたけど、今は畑を見て回ろうかな。」

 店がある方とは真逆に向かい歩き出したイオリをゼンが追いかけた。

 大きな畑ではすでに、領民が働いていた。
 イオリを見ても笑顔で挨拶をしてくれる。

「気持ちの良い領地だね。」

『イオリが楽しそう。』

 2人が軽やかに歩いていると畑が途切れて、森が現れた。
 森の奥に山が見えていた事から、畑エリアはここで終わりのようだ。

「見て。
 森の入り口が綺麗に手入れされてる。
 人が出入りしている証拠だね。
 危険は無さそうだ。
 もう少し行ってみようか。」

 光が差し、手入れが行き届いた森の中をイオリとゼンは進んで行った。
 
 しばらくして、ぽっこりと開けた土地に出た。
 丸太で作られた丈夫な家があり煙突からは細い煙が上がっている。

「どうやら、人のお宅だったみたい。
 よく見れば、向こうにも家が見えるね。」

 見渡してみれば、森の中にも家がいくつか点在しているのが分かる。
 目の前の家の庭にも畑があり、真っ赤に実ったトマトやらナスが煌めいていた。

「おや?
 見ない顔だね。
 旅の人かな?」

 突然、声を掛けられ驚きながら視線を彷徨わせると、庭の軒下に座っている老人がいた。

「あっ。
 おはようございます。
 昨日ガレーに到着したんですが、早めに目覚めてしまったので散歩していたんです。
 個人のお宅とは知らなくて、失礼しました。」

 そう言い、背を向けようとしたイオリに老人が声をかけた。

「年取ると目覚めるのも早くてね。
 こうやって、茶を楽しんでいるんだよ。
 庭先で良かったら、1杯飲んでいかないかい?
 青年よ。」

 好々爺な老人の笑顔に誘われるようにイオリは頷いた。

「それでは、お邪魔します。」

 低い木戸から入ると老人が手招くままにテーブルと椅子の下に向かった。

「これは、立派な客さんだ。
 君にはこれをやろう。」

 そういうと、老人はテーブルに乗っていたリンゴをゼンに差し出した。
 ゼンはイオリが頷くのを確認すると、老人に礼を言うように擦り付きリンゴを咥えた。

「賢い子だね。
 さぁ、青年も座りなさい。
 気に入ってくれると良いんだが・・・。」

 そう言って、老人は手慣れた様に茶を注いだ。
 差し出された木のカップから湯気たつ香りがイオリの鼻をくすぐる。

「あぁ、ミントとローズマリーですね。
 良い組み合わせです。
 頂きます。」

 迷いなく言い当てたイオリに老人は目を見開き、嬉しそうに頷いた。

「初めての人間は好みが分かれるんだが、青年もハチャを飲むんだね?」

「ハチャ?
 ここでは、そう呼ばれているんですか?
 俺はハーブティーと呼んでいます。
 一般的な紅茶も好きですが、こうやって野に咲く葉を摘んで好みの香りを見つけるのも大好きです。」

 リンゴに夢中になっていたゼンが顔を見上げると、そこにはイオリの言葉に優しく微笑む老人がいた。
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