続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん

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旅路〜ルーシュピケ〜

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 イグナート・カレリンについては出自から話す必要がある。

 母はカレリン公爵の1人娘であり、とある夜会で時の国王に見染められ、拐われる様に後宮に閉じ込められた。

 高潔な母は身を穢されても、決して国王に心を支配されなかった。
 イグナートという子を授かり、守るものもが出来ると、知恵を使って魑魅魍魎が蔓延る後宮を生き抜いた。

 庇護者であった、国王が崩御すると父である公爵に助力を求め、王位に興味がないと息子をカレリン公爵の跡取りとして王宮から離れる決断をした。
 
 愛もない、未練もない、潔く後宮を去ったナターリャ・カレリンは表舞台から姿を消した。

 出自こそ、悩ましいイグナートであったが、母の愛、祖父の愛、自然豊な領地に囲まれて立派な青年に育った。
 母に似た美貌は社交界でも人気を博した。

 そんなイグナートと結婚したのはポリーナ・アパルキン。
 カレリン領にやって来たイグナートと幼少期を共に過ごした侯爵令嬢だった。
 
「仲睦まじかったそうですよ。」

 又聞きだと、イオリは微笑んだ。

「そうかい。
 ミズガルドの人間がね。」

 ミズガルドの人間は愛など知らないと思っていた節のあるフェンバインは考え込んむように腕を組んだ。

「そのポリーナさんが“悪魔の魔術師”ドミトリー・ドナードの手に掛かって非業な死を迎えました。」

「人族は同胞も大切にしない時がある。
 我らには考えられない事だ。」

 ハニエル老の溜息の裏にイオリは別の事を思っていた。
 人もエルフも獣人も区別なく自分の研究に利用する。
 もしかして、ドミトリー・ドナードが一番物事を見ていたのかもしれない。
 自分以外は、ただの道具として・・・。
 決して、人前で口にする事は出来ない事はイオリも分かっていた。

 ポリーナを亡くしたイグナートは、いやカレリン公爵家は全ての扉を閉めた。
 
 お悔やみを言いながらも、ゴシップを楽しむ社交界。
 イグナートの新たな妻の座を狙う貴族令嬢とその家族。

 何からも目を逸らした彼は、イオリ達との出会いで己の欺瞞に気づく事になった。

「事件は解決しました。
 報告はリルラさん達からされているでしょう?
 新たな国王トーレチカさんもイグナートさんも国を担う上で決意された事があります。
 人族であろうがエルフだろうが、獣人であろうが、差別をなくし奴隷制度を廃止する。」

 2人はイオリの話を真剣に聞いていた。

「言葉で言うよりも実行に移す事は、もっと難しい。
 イグナートさんは自分の不幸にかまけて、国の異常性から目を背けていた事を悔いていました。
 ご存じの通り、今までミズガルドに根付いた思想は生半可では変える事は出来ないでしょう。
 でも、トーレチカ国王は成し遂げると言いました。
 すぐに信じられないのは当然の話です。
 2人は・・・エルフや獣人の皆さんは見定めればいい。
 ミズガルドという国が、どの様に変わっていくのか。
 あの子達は、それを楽しみにしています。」

 イオリはホワンやコナー達と戯れる双子に目をやった。

「あの子達の故郷はミズガルドです。
 親は人族に殺されました。
 イグナートさんは、国の変革をあの子達に誓っていましたよ。」

 狼の獣人であるスコルとパティ。
 ミズガルドで産まれ、人族に親を殺された2人は、今イオリの元で楽しそうに笑っている。

「あの国が変わるかなんて、我らは期待しないよ。
 それでも、あの人がこの国に来た覚悟は分かった。
 見定めるか・・・。」

「少しはマトモな奴が王冠を被ってるのは分かったよ。
 まぁ、あの国を信用するには時間もかかるさぁ。
 でも、王弟が次来た時は酒の1杯でも出すとしよう。」

 ハニエル老とフェンバインは互いに笑いながら頷いた。

 トーレチカとイグナートの努力が報われるのを祈るイオリだった。
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