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第3章 贈ったオカメのその先に

第37話 イザベルは布教したい

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 最初はオカメの美しさを理解してもらえなくとも、自身が分かっていれば良い……と考えていたイザベルだが、学園生活が落ち着いてくるにつれて、誰かと共有したい、この美しさをわかって欲しいという欲が出てきた。

 そこで、職人へと依頼をしてクラスメイト全員のイメージに合うオカメを作ってもらった。
 ほんのささいな違いで個性を出したオカメにイザベルはオカメ布教は成功すると確信した。

 既にルイス、シュナイ、ミーアにはオカメを贈った。また、何を血迷ったのかあまり関係が良好とは言えない兄のユナイにも手紙と共に送ったばかりだ。


 (学園で女性おなごに初めて、オカメを渡せた。手にすれば、この魅力も伝わろう。
 明日……いや、今からリリアンヌもオカメの仲間入りやもしれぬな)


 受け取ってくれた誰も自らオカメを着けてくれることはなかった。
 それを、オカメは女性の顔だから男性陣が着けないのは仕方がなく、ミーアも仕事中だからオカメを着けると視界が狭まるために無理なのだろう……とイザベルは結論付けていた。

 だから、イザベルは待った。リリアンヌがオカメを着けてくれることを。
 だが、リリアンヌが着ける様子はない。


「リリアンヌさん、着けてはくれませんの?」
「……へっ!?」
「一緒にオカメを着けませんか?」

 (はぁ!? ないないないない!! あり得ない!!
 何なの? 何なわけ? 宗教勧誘? 新手の宗教勧誘なわけ!? オカメ教でも布教すんのっ!!??)

「ごめんなさい。それはちょっと……」
「この表情は、お気に召しませんでしたか?」

 オカメを見ながら言うイザベルにリリアンヌは必死に顔が引きつらないようにした。

 (表情以前の問題なんですけど。
 ってか、表情? オカメに表情とかあるの? そういえば、私のイメージのオカメとか言ってたっけ……。
 微妙に気になるなぁ。……表情も気になるんだけど、着けないからって後ろから威圧してくんの本当にやめて欲しい。
 普通に考えて着けないでしょ。圧かけるくらいなら、あんたがつけなさいよね)


 さっさとオカメを着けろと言わんばかりの圧をかけているルイスが、イザベルに頼まれてオカメを着けたなど誰が想像できるだろうか。
 ミーアにも着けてもらったので、オカメ3人なんてカオスでしかない。


 リリアンヌは何と答えるか迷ったが、好奇心には勝てず、思わずイザベルに聞いてしまった。

「あの、表情に違いがあるんですか?」

 その瞬間、オカメ越しだというのにイザベルの周りに花が飛んでるのでは……というほどの喜びがリリアンヌに伝わってくる。

 (まずい! これは、聞いちゃいけないやつ)

 後悔先に立たず。満足げに頷いているルイスに頭を抱えたくなった。

 そして、リリアンヌの予想は悲しいほどにあたり、イザベルのオカメ語りが始まった。


「リリアンヌさんのオカメはですね、何と睫毛まつげがあるのですわ。あと、目尻を少し下げて頬の色も淡い桜色で優しげにして、髪も漆黒ではなく少し明るめになっていますの。何といっても一番の違いは、眉の形ですわね。普通のオカメは丸っぽいのに対してこちらのオカメは少しスマートになっているのですよ!! 全体的に優しくて明るいリリアンヌさんの雰囲気を取り入れつつ──」


 息継ぎをいつしているのか……と思うほど饒舌じょうぜつにイザベルは語った。
 初めはきちんと相槌あいづちを打っていたリリアンヌだが、途中から「さすがー」「知らなかったー」「すごーい」「センスいいー」「そうなんだー」とかなり適当に『褒め言葉のさしすせそ』を活用していた。

 (まさか、こんなところで前世の知識が役に立つとは……)

 だが、その知識があだとなり、イザベルは止まらない。普段のイザベルであれば、リリアンヌや周囲の雰囲気で気が付いたであろう。
 しかし、今のイザベルはオカメ無双モード。誰にも止められはしないのだ。
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