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しおりを挟む大好きな小説。大好きな悪役令嬢のエリザベート様。
そんな大好きな世界で、よりにもよって、悪役令嬢にざまぁされるヒロインに転生した。
そのことに気付いた時は、目の前が真っ暗になった。
実際、本当に真っ暗になって、倒れたんだけど、そんなことは今はどうでもいい。
処刑エンドも問題だけど、それよりも絶対に許せないことがある。
それは、私が悪役令嬢の婚約者を奪うってこと。
こちとら、前世で婚約破棄された側だっつーの!
んなこと、死んでもやるか!!
そもそも、前世の私は悪役令嬢であるエリザベート様の生き方に救われたのだ。恩を仇で返すなんて、あり得ない!
ざまぁ云々の前に、絶対に他の人の婚約者と仲良くなったりしない! そう思って、学園に入学したんだけど……。
「やぁ、フィニル嬢。今日もあなたの笑顔を見たくて、会いに来てしまったよ」
「はぁ?」
にこやかに近づいてくるオルテン王子に、思わず低い声が出た。
残念……じゃなかった、幸いにも聞こえなかった見たいだけど。
「ごきげんよう、オルテン王子」
とりあえず、挨拶さえしときゃ不敬じゃないっしょ。
そう思って、無表情で挨拶だけして立ち去ろうとした。それなのに、当たり前のように王子は私の隣を歩いている。
「せっかく会えたのだから、話をしようよ」
「残念ながら、私からはお話することはございません。では──」
「待ってよ。僕は、話したいんだ。フィニル嬢と仲良くなりたいなって」
え、普通に嫌なんだけど。
婚約者持ちと親しくするなんて、断固拒否に決まってんじゃん。
「ご冗談を。では、失礼いたしますね」
さっさとこの場から逃げよう……。
そう思って早足で歩き始めたけれど、王子は変わらず私の隣を歩いてくる。
「フィニル嬢は、可愛いだけじゃなくて学問も優秀なんだってね。ますます魅力的だね」
「へー、そうですかー」
「透き通るような白い肌も、出会いを連想させる桜色の瞳も、なんて美しいんだ」
「そりゃ、どーもー」
褒め言葉を羅列され、適当に返事をする。
そんな生産性のないことを続けるのは疲れるし、何よりエリザベート様という美しい婚約者がいるのに、私に甘い言葉を投げるなんて許せない。
「ついてこないでくれませんか」
「どうして? 僕と話せるの、嬉しいでしょ?」
は? そんなわけないでしょ。
何で、こんなに自信満々なわけ……。
というか、いつまでついてくるつもりなの?
どうにか撒ける方法は……。あ! エリザベート様に追い払ってもらおう。
さすがの王子も、婚約者の前で他の女の人を追いかけまわしたりしないっしょ。
だけど、エリザベート様を探すけれど、なかなか見つからない。
「ねぇ、歩きながらの会話もいいけど、ゆっくりお茶でもしようよ」
「けっこうです。時間ないんで」
「僕より優先するものなんか──」
「普通にありますね。他の方とどうぞ」
うっとおしくて、心の中で王子に向かって殺虫剤を何度も噴射する。
本当に、殺虫剤をかけてやろうか……。そう思い始めた頃、やっとエリザベート様をみつけた。
やった! これで、王子を振り切れる!
勝利を確信し、エリザベート様のもとへと駆けていく。
「エリザベート様! ごきげんよう」
私の声にエリザベート様は振り向くと、一瞬、ものすごーく嫌そうな目をした。
王子からは「げっ! エリザベート‼」という言葉が聞こえてくる。
「ごきげんよう、フィニル・デムニス男爵令嬢。それから、オルテン様も」
無表情のまま冷めた視線を向け、エリザベート様は言った。
その美しさと言ったら……。『氷の女王』という学園での二つ名はだてじゃない。
「やぁ、エリザベート。今日もきれいだね」
「さようでございますか」
そう答えたエリザベートは、醜悪なものをみるかのような視線を王子に向けている。
そして、そのままの視線を私へと向けた。
え、何でそんな目で見てるの?
あっ!! もしかして、今まさに浮気現場みたいになってる⁉
ざっと血の気が引いた気がした。
どうにかして、誤解をとかないと! 慌てて口を開きかけた時、私よりも先にエリザベートのひやりと冷たい声が言葉を紡いだ。
「フィニルさん、廊下を走ってはいけませんわよ。淑女あるもの、常に美しさを意識して行動なさい」
「あ、はい!」
「最初の「あ」は、いりませんわ。話し方もですね──」
エリザベート様のお説教を聞きつつ、思わずホッとする。
良かった。私の行儀の悪さへの嫌悪感だったみたいだ。
「ねぇ、エリザベート。これから、フィニル嬢とお茶をする予定なんだ。お小言はそれくらいにしてくれない? それに、無邪気なところは、フィニル嬢の魅力だろう?」
「……はい?」
エリザベート様ではなく、私から発生られた低い声。
そのことに、少し驚いたようにエリザベート様は私を見た。
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