10 / 50
9話 ご迷惑をおかけして、申し訳……ぇぇぇえ!!??
しおりを挟む
***
「……あれ?」
気が付くと、見知らぬ天井があった。その天井は、たくさんの木枠で四角に区切られていて、四角の中には一つ一つ花が丁寧に描かれている。
「ここは……」
自身の失態を思い出し、無意識に頭を抱えた。 散々泣いたあとの寝落ち。幼い子でもあるまいし、何て迷惑な。会わす顔がない。
だけど、心配してくれているだろうから、早く起きたことを知らせないと。
出会ったばかりだけど、白樹さんたちの優しさは本物だ。打算を感じない。
こんなに手放しで誰かを信用できたのなんて、子どもの頃以来かもしれない。なんて優しい世界だろう。
「まずは白樹さんに会って、謝らないと」
そう呟けば、ベッドの上に、ドカンッ! とピンクのドアが出現した。金木犀の香りが漂うなか、驚きで固まっていると自動で扉が開いていく。
「え、嘘でしょ? ちょっと待って」
ドアは私の言うことなど、ちっとも聞いてくれない。あんたが会いたがったんでしょ? とでも言ってきそうなほどに容赦なく開かれた扉。
白樹さんの後ろ姿が見える。
何を言うのかも決めていないのに、早すぎる。まだ、ドアのことを呼んでなかったのに……。
「あの──」
「……真理花?」
扉を一歩潜って私が声をかけたのと、白樹さんが振り向いたのは同時だった。
顔を見た瞬間、温かかった白樹さんの体温を思い出し、ぶわりと体が熱くなる。
人の温もりをあんなに近くで感じたのは、思い出せないほどに久しぶりだった。それに、落ち着いた、安心感のある匂い。あれは、なんの香りなのだろう。
「ご迷惑をおかけして、申し訳……ぇぇぇえ!!??」
頭を下げた一瞬で白樹さんは私の目の前まで移動すると、なんと私を抱き上げたのだ。
「急に動いてはいけない」
「えっ? えぇっ!?」
白樹さんにお姫様抱っこをされたまま、私は元いた部屋へと戻るとベッドにそっと降ろされた。
「あの?」
「どこか具合が悪いところや、痛いところはあるか? そうだ、医者を呼ばなくては。それから……」
何だか、白樹さんが慌てている。
「特に体調不良はありませんので、お医者さんを呼んでもらうほどでは……」
「何を言っている。目を覚まさなかったんだぞ」
とは言っても、長くて半日くらいかな? ちょっと大袈裟な気はするけど、それだけ心配をかけちゃったってことだよね。
「どのくらい寝ちゃってましたか?」
「二月だ」
え? 二月? いくら何でもそんなことって……。
「嘘……ですよね?」
「真実だ」
白樹さんの真剣な表情に、息をのむ。
そ、それは慌てるわ。でも、ずっと寝てたわりに体は普通に動くし、のどがカラカラで声が出ないとかいうこともない。
「あの、ずっと寝てたのにこんなに元気なのって、こっちでは普通のことなんですか?」
「体が休息を求めていたのだから、元気になるのは普通のことだろう? だが、二月も眠り続けるなんて、いくら何でも長過ぎる。いや、元々の体の作りが違う可能性も……」
途中から独り言のように小さな声になってしまったので、全部は聞き取れなかった。だけど、この世界では長く眠っても体に支障はないらしい。
うーん、ファンタジー。
***
「大丈夫よ。特に問題はないわぁ」
「ありがとうございます、ドクター」
私は今、お医者さんの診察を受けていた。彼女はドクターと名乗っているのだそうで、私もみんなに倣ってドクターと呼ばせてもらうことにしたのだ。
「花ちゃんも大変ね。こんな朴念仁の花嫁だなんて」 「いえ、良くして頂いてます」
「そうかしら。来て早々の花嫁に力を使わせるなんて、あたしからしたらクズよ、クズ!」
編み上げのブーツの踵でドクターは白樹さんを蹴っている。
それを見て、ブーツあるんだ……なんて関係ないことを思う。みんな着物だからさ。私が今着ているのも浴衣みたいのだし。
ドクターは袴だ。赤と白の椿柄に黒い袴、えんじ色のブーツ。派手だけど、すごく似合っている。迫力のある美女とは彼女のような人をいうのだろう。
「それと、さっさと花ちゃんのために女性の医者を見つけなさいよね」
「ドクターより信頼できる医師はいない」
「うっ……。それは嬉しいけど、だめよ。女性相手の方が花ちゃんも安心できるでしょう?」
ん? 女性相手? ドクターも女性……だよね?
でも、そう言われてみれば、ドクターの身長が白樹さんくらいある? 白樹さんの身長って百九十センチくらいありそうだったよね。それに、何だか肩幅も逞しいし、喉仏もある。
声もハスキーで色っぽいな……って思ってたんだけど。ん? んんんんんー?
「あの、ドクターって女性じゃないんですか?」
そう聞いたときのドクターの嬉しそうな顔。これが答えだった。
「そう見える? そう見えるぅ? んふふふふ、そうよね。やっぱり、あたしは美しいわよねぇ。わかるわぁ。間違えちゃうわよねぇ。この格好も言葉遣いも趣味なのよ」
なるほど すごく似合っていて素敵だ。
「あまりに美人さんなので、気付かなかったです」
「もう、本当にいい子ねぇ。白なんかにはもったいないくらい」
よしよしと頭を撫でられる。なんか、子ども扱いされてる? そんな年齢でもないんだけどなぁ。
「……あれ?」
気が付くと、見知らぬ天井があった。その天井は、たくさんの木枠で四角に区切られていて、四角の中には一つ一つ花が丁寧に描かれている。
「ここは……」
自身の失態を思い出し、無意識に頭を抱えた。 散々泣いたあとの寝落ち。幼い子でもあるまいし、何て迷惑な。会わす顔がない。
だけど、心配してくれているだろうから、早く起きたことを知らせないと。
出会ったばかりだけど、白樹さんたちの優しさは本物だ。打算を感じない。
こんなに手放しで誰かを信用できたのなんて、子どもの頃以来かもしれない。なんて優しい世界だろう。
「まずは白樹さんに会って、謝らないと」
そう呟けば、ベッドの上に、ドカンッ! とピンクのドアが出現した。金木犀の香りが漂うなか、驚きで固まっていると自動で扉が開いていく。
「え、嘘でしょ? ちょっと待って」
ドアは私の言うことなど、ちっとも聞いてくれない。あんたが会いたがったんでしょ? とでも言ってきそうなほどに容赦なく開かれた扉。
白樹さんの後ろ姿が見える。
何を言うのかも決めていないのに、早すぎる。まだ、ドアのことを呼んでなかったのに……。
「あの──」
「……真理花?」
扉を一歩潜って私が声をかけたのと、白樹さんが振り向いたのは同時だった。
顔を見た瞬間、温かかった白樹さんの体温を思い出し、ぶわりと体が熱くなる。
人の温もりをあんなに近くで感じたのは、思い出せないほどに久しぶりだった。それに、落ち着いた、安心感のある匂い。あれは、なんの香りなのだろう。
「ご迷惑をおかけして、申し訳……ぇぇぇえ!!??」
頭を下げた一瞬で白樹さんは私の目の前まで移動すると、なんと私を抱き上げたのだ。
「急に動いてはいけない」
「えっ? えぇっ!?」
白樹さんにお姫様抱っこをされたまま、私は元いた部屋へと戻るとベッドにそっと降ろされた。
「あの?」
「どこか具合が悪いところや、痛いところはあるか? そうだ、医者を呼ばなくては。それから……」
何だか、白樹さんが慌てている。
「特に体調不良はありませんので、お医者さんを呼んでもらうほどでは……」
「何を言っている。目を覚まさなかったんだぞ」
とは言っても、長くて半日くらいかな? ちょっと大袈裟な気はするけど、それだけ心配をかけちゃったってことだよね。
「どのくらい寝ちゃってましたか?」
「二月だ」
え? 二月? いくら何でもそんなことって……。
「嘘……ですよね?」
「真実だ」
白樹さんの真剣な表情に、息をのむ。
そ、それは慌てるわ。でも、ずっと寝てたわりに体は普通に動くし、のどがカラカラで声が出ないとかいうこともない。
「あの、ずっと寝てたのにこんなに元気なのって、こっちでは普通のことなんですか?」
「体が休息を求めていたのだから、元気になるのは普通のことだろう? だが、二月も眠り続けるなんて、いくら何でも長過ぎる。いや、元々の体の作りが違う可能性も……」
途中から独り言のように小さな声になってしまったので、全部は聞き取れなかった。だけど、この世界では長く眠っても体に支障はないらしい。
うーん、ファンタジー。
***
「大丈夫よ。特に問題はないわぁ」
「ありがとうございます、ドクター」
私は今、お医者さんの診察を受けていた。彼女はドクターと名乗っているのだそうで、私もみんなに倣ってドクターと呼ばせてもらうことにしたのだ。
「花ちゃんも大変ね。こんな朴念仁の花嫁だなんて」 「いえ、良くして頂いてます」
「そうかしら。来て早々の花嫁に力を使わせるなんて、あたしからしたらクズよ、クズ!」
編み上げのブーツの踵でドクターは白樹さんを蹴っている。
それを見て、ブーツあるんだ……なんて関係ないことを思う。みんな着物だからさ。私が今着ているのも浴衣みたいのだし。
ドクターは袴だ。赤と白の椿柄に黒い袴、えんじ色のブーツ。派手だけど、すごく似合っている。迫力のある美女とは彼女のような人をいうのだろう。
「それと、さっさと花ちゃんのために女性の医者を見つけなさいよね」
「ドクターより信頼できる医師はいない」
「うっ……。それは嬉しいけど、だめよ。女性相手の方が花ちゃんも安心できるでしょう?」
ん? 女性相手? ドクターも女性……だよね?
でも、そう言われてみれば、ドクターの身長が白樹さんくらいある? 白樹さんの身長って百九十センチくらいありそうだったよね。それに、何だか肩幅も逞しいし、喉仏もある。
声もハスキーで色っぽいな……って思ってたんだけど。ん? んんんんんー?
「あの、ドクターって女性じゃないんですか?」
そう聞いたときのドクターの嬉しそうな顔。これが答えだった。
「そう見える? そう見えるぅ? んふふふふ、そうよね。やっぱり、あたしは美しいわよねぇ。わかるわぁ。間違えちゃうわよねぇ。この格好も言葉遣いも趣味なのよ」
なるほど すごく似合っていて素敵だ。
「あまりに美人さんなので、気付かなかったです」
「もう、本当にいい子ねぇ。白なんかにはもったいないくらい」
よしよしと頭を撫でられる。なんか、子ども扱いされてる? そんな年齢でもないんだけどなぁ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
380
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる