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9話 ご迷惑をおかけして、申し訳……ぇぇぇえ!!??

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  *** 


「……あれ?」

 気が付くと、見知らぬ天井があった。その天井は、たくさんの木枠で四角に区切られていて、四角の中には一つ一つ花が丁寧に描かれている。

「ここは……」

  自身の失態を思い出し、無意識に頭を抱えた。 散々泣いたあとの寝落ち。幼い子でもあるまいし、何て迷惑な。会わす顔がない。
 だけど、心配してくれているだろうから、早く起きたことを知らせないと。

 出会ったばかりだけど、白樹さんたちの優しさは本物だ。打算を感じない。
 こんなに手放しで誰かを信用できたのなんて、子どもの頃以来かもしれない。なんて優しい世界だろう。


「まずは白樹さんに会って、謝らないと」

 そう呟けば、ベッドの上に、ドカンッ! とピンクのドアが出現した。金木犀きんもくせいの香りが漂うなか、驚きで固まっていると自動で扉が開いていく。

 
「え、嘘でしょ? ちょっと待って」

 ドアは私の言うことなど、ちっとも聞いてくれない。あんたが会いたがったんでしょ? とでも言ってきそうなほどに容赦なく開かれた扉。

 白樹さんの後ろ姿が見える。

 何を言うのかも決めていないのに、早すぎる。まだ、ドアのことを呼んでなかったのに……。 

「あの──」
「……真理花?」

 扉を一歩くぐって私が声をかけたのと、白樹さんが振り向いたのは同時だった。

 顔を見た瞬間、温かかった白樹さんの体温を思い出し、ぶわりと体が熱くなる。
 人の温もりをあんなに近くで感じたのは、思い出せないほどに久しぶりだった。それに、落ち着いた、安心感のある匂い。あれは、なんの香りなのだろう。 

「ご迷惑をおかけして、申し訳……ぇぇぇえ!!??」

 頭を下げた一瞬で白樹さんは私の目の前まで移動すると、なんと私を抱き上げたのだ。 

「急に動いてはいけない」 
「えっ? えぇっ!?」  

 白樹さんにお姫様抱っこをされたまま、私は元いた部屋へと戻るとベッドにそっと降ろされた。

「あの?」 
「どこか具合が悪いところや、痛いところはあるか? そうだ、医者を呼ばなくては。それから……」
 
 何だか、白樹さんが慌てている。
 
「特に体調不良はありませんので、お医者さんを呼んでもらうほどでは……」
「何を言っている。目を覚まさなかったんだぞ」

 とは言っても、長くて半日くらいかな? ちょっと大袈裟な気はするけど、それだけ心配をかけちゃったってことだよね。

「どのくらい寝ちゃってましたか?」
二月ふたつきだ」

 え? 二月ふたつき? いくら何でもそんなことって……。
 
「嘘……ですよね?」
真実まことだ」

 白樹さんの真剣な表情に、息をのむ。

 そ、それは慌てるわ。でも、ずっと寝てたわりに体は普通に動くし、のどがカラカラで声が出ないとかいうこともない。

「あの、ずっと寝てたのにこんなに元気なのって、こっちでは普通のことなんですか?」
「体が休息を求めていたのだから、元気になるのは普通のことだろう? だが、二月ふたつきも眠り続けるなんて、いくら何でも長過ぎる。いや、元々の体の作りが違う可能性も……」

 途中から独り言のように小さな声になってしまったので、全部は聞き取れなかった。だけど、この世界では長く眠っても体に支障はないらしい。
 うーん、ファンタジー。


   ***


「大丈夫よ。特に問題はないわぁ」
「ありがとうございます、ドクター」

 私は今、お医者さんの診察を受けていた。彼女はドクターと名乗っているのだそうで、私もみんなにならってドクターと呼ばせてもらうことにしたのだ。

「花ちゃんも大変ね。こんな朴念仁ぼくねんじんの花嫁だなんて」 「いえ、良くして頂いてます」
「そうかしら。来て早々の花嫁に力を使わせるなんて、あたしからしたらクズよ、クズ!」

 編み上げのブーツのかかとでドクターは白樹さんを蹴っている。
 それを見て、ブーツあるんだ……なんて関係ないことを思う。みんな着物だからさ。私が今着ているのも浴衣みたいのだし。
 ドクターははかまだ。赤と白の椿柄に黒い袴、えんじ色のブーツ。派手だけど、すごく似合っている。迫力のある美女とは彼女のような人をいうのだろう。 

「それと、さっさと花ちゃんのために女性の医者を見つけなさいよね」
「ドクターより信頼できる医師はいない」 
「うっ……。それは嬉しいけど、だめよ。女性相手の方が花ちゃんも安心できるでしょう?」

 ん? 女性相手? ドクターも女性……だよね?

 でも、そう言われてみれば、ドクターの身長が白樹さんくらいある? 白樹さんの身長って百九十センチくらいありそうだったよね。それに、何だか肩幅もたくましいし、喉仏のどぼとけもある。
 声もハスキーで色っぽいな……って思ってたんだけど。ん? んんんんんー? 

「あの、ドクターって女性じゃないんですか?」

 そう聞いたときのドクターの嬉しそうな顔。これが答えだった。 

「そう見える? そう見えるぅ? んふふふふ、そうよね。やっぱり、あたしは美しいわよねぇ。わかるわぁ。間違えちゃうわよねぇ。この格好も言葉遣いも趣味なのよ」

 なるほど  すごく似合っていて素敵だ。

「あまりに美人さんなので、気付かなかったです」
「もう、本当にいい子ねぇ。はくなんかにはもったいないくらい」

 よしよしと頭を撫でられる。なんか、子ども扱いされてる? そんな年齢でもないんだけどなぁ。
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