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夢の思い出
しおりを挟む「さーてと、わしプレゼンツ『異世界トリップのすゝめ』はじまりまじまり~」
神様に促され渋々気の抜けた拍手で迎える。
ボードを書き終えたようだが、『異世界トリップのすゝめ』以外には文字も絵も書き込まれていない。
「さっき何か書いてたんじゃないの?」
「書いてたとも! まあまあ見てて。神様パワーフルスロットルで説明するから!」
手に持っていたペンらしきものを一振り。
デフォルメされた神様がホワイトボードの中に浮かび上がり、パソコンに向かい頭を抱えている。
「わし、人間の生活とか好きでよく遊びに行くんだけど、その中でなんとなく面白い子達を見つけては記録として残してたわけ。でも自分だけで楽しむのももったいないなーって思って、試しに賞に応募したら……なんか、受賞しちゃって!」
「……続けてどうぞ」
リアルな『テヘペロ☆』に若干青筋が立ったが深呼吸で吐き出す。
「わし文学の才能あるんじゃない⁉︎ って最初は意気揚々と書き続けていたんだけど、最近、何が面白いのかわかんなくなっちゃって……」
「悩みが人間味あふれ過ぎてるだろ」
百伽も突っ込まざるを得なかったらしい。
「初心に返ってみようって思った時に、いろんな作品を見て、今はどんな作品か人気でみんな見たいのかなって調べてみたよ。そしたら今は『異世界もの』が流行ってるっていうじゃない⁉︎」
「え、ええ……そうですね、悪役令嬢とか転生とか」
「そう! でもわしからすると異世界も何もリアルで好きに世界を創造して破壊して遊びに行けちゃうからあんまり話が思い浮かばなくって途中で書けなくなっちゃったんだよね……」
「途中サラッと恐ろしいこと言ったな」
ホワイトボード上でアニメーションのように動いている絵を見ながら説明を聞いているとちゃっかり生まれた星が一瞬で大破した。
神様にとっては本当にご飯粒を潰すように簡単なのだろう。
「そこでわし、すごく良いこと思いついちゃって!」
にやっと笑いペンらしきものをもう一振りする。
「創作できないならリアルに物語にトリップさせちゃえばいいんだって!」
「なんでやねん」
驚き過ぎて思わず真顔でベタなツッコミをしてしまい、誤魔化すように咳払いをする。
慰めるように背中を撫でる百伽はとっくに諦めたらしい。
神様に常識は通用しない!
これを忘れてはいけないのだ。
「とまあ、ここまでが大前提。次からキミたちのお話」
ホワイトボードに新しいデフォルメされたキャラが現れる。
「あ。あれ」
「私達、だね」
わちゃわちゃと遊んでいるのはわかるが、百伽の手には剣が、私の手には杖が握られているようだ。
「わし実は二人が小さい頃にあったことがあるんだよね」
「…………え?」
そんなことがあるのだろうか。
いくら小さい頃の記憶とはいえこんな派手目な人物に会ったら忘れそうにないのに。
「ああ。一応目立たないようにおじさんに返送はしてたよ。二人が、帰り道で『まほう・けんしごっこ』してる時にすれ違ったんだ」
『まほう・けんしごっこ』
懐かしい響きにハッとして百伽と顔を見合わせる。
それは私と百伽が小学校の帰り道、毎日毎日飽きもせずに繰り返していた世界を救う遊び。
この世界は魔界の悪魔たちに緩やかに占拠されていた。
人や動物に化けた悪魔が人々を襲い、魔界へ連れて行ってしまう。
少しの草むらでもジャングルになり、下水道の人タイルは罠発動のスイッチ。
ノムラさん家のゴールデンレトリバーは名前をケルベロスにした。
折りたたみ傘や木の棒を剣や杖に見立て一般人に気付かれないように世界を救う感動の超大作。
あの頃は毎日が楽しくて、いつか本当に異世界で伝説になるのだと信じていた。
中学校が離れてからは、冒険が止まってしまったけれど。
「『チヨ……今すれ違ったおじさん怪しいオーラが出てた……耳に何かつけてたよ!』『さすがだねモモカ……あれば魔具で魔王からの指示を受けてたのよ』『やっぱり、どこもかしこも悪魔だらけね!』『私達が救わなきゃ!』」
右左と体を入れ替えながら何かを演じ始める神様。
しばらく、キョトンとして見ていたが次第になんのことかがわかり途端に顔が熱くなる。
それは百伽も同じだったようで両手で顔を覆っている。
「いやー、本当に可愛かったなー二人とも! 可愛すぎてずっと天からストーキングしてたんだよねー!」
「最悪だよこの神様!」
「犯罪です。通報します」
過剰なほどの反応が嬉しかったのか神様は頬を押さえてくねくねしている。
私達にとっては大事な思い出でも、誰かに見られていたとなれば恥もある。
「ま、そんな姿を見ていたからこそ、今回わしはキミたちに声をかけたんだけどね」
「え?」
「だって、きっかけはどうであれキミたちは夢見ていた異世界に行けるんだ! あんなに純粋に世界を救いたいと願っていた子供たちに可能性を与えられるなんて神様冥利に尽きるよ」
「神様……」
先程までのからかうような視線ではなく純粋に慈しむような、愛おしむような柔らかな視線。
気を抜くと全て従ってしまいそうになる。
「どうだい? わしのため、そしてキミたちの夢のために手を取り合おうじゃないか」
神様はスッと私達に手を差し出した。
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