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プロローグ
警戒
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ずっと、このまま出会わなければいいと思っていた。
運命は、そんな俺を嘲笑う。
あの転校生が来てからというもの、俺は学校へは通わなくなった。
オンライン授業に、してもらっている。
初めの数日は、今まで通り保健室通いだったのだが、必ず来るんだ。奴が。
朝、休憩時間、お昼休憩、下校時にまで。何が楽しいのか、俺の前に現れる。
一人になりたくて、他の所に行っても、いつの間にか奴がいる。
何処に行っても来る。何故なのか。問いただしたら、匂いと直感で追って来ているらしい。何それ怖い。
そんな攻防を、繰り広げて1週間後。
俺は、側から見ても憔悴しきっていた。
教師は見かねて、自宅授業に切り替えてくれた。それまでの俺は、自宅でオンラインで授業が出来る事を、すっかり忘れていた。
これ程までに、俺は奴との攻防で、すっかり弱り過ぎていたんだ。と、自分に呆れと共に苦笑してしまう。
そうして、俺は無事に自宅での授業に切り替える事ができた。この2週間の間は、何事も無く平凡だ。そう平凡過ぎる程の2週間が過ぎて行った。
だが、その平凡に満ちた生活も長くは続かなかった。そうなのだ。それは奴が、予告も無く、自宅に前触れも無く現れたのだった。
「会いに来たよ。あおい。」
奴は、両手を広げて俺を抱き締めようと迫って来た。
どうしてこうなったのか‥。母さんが、俺に断りもなく、家に上げてしまったのだ。よりにもよって、俺の部屋に通した‥。
そして、こともあろうか、許可もしてないのに名前呼びをされる。
「っ!?っ‥?え、?な、、な‥まぇ、、、。?!」
「ああ。クラスの名前なんて直ぐに覚えるさ。特に君は、魂で結ばれた俺の運命の番なんだし。」
いや、そうじゃない。俺が教えてないのに、誰かが教えたんかい。まあ、それはいい。良くないけど。
「‥勝手に‥呼ぶな‥。」
「ふふっ。俺達は会ってまだ間もない。それは分かるさ。けれど、君は何時迄、俺から逃げ続けるの?」
俺の方に、指を突き付けて、わざとらしい大きなジェスチャー混じりで、ため息を吐いた。
分かってる。逃げてるのは、俺だって分かっているさ。だからってわざわざ来る事も無いだろう。そんな事は面と向かって言えないけれど‥。
「こうでもしないと君には、一生会えない気がしてさ。会いたかった‥。」
殊勝そうに、瞳を潤ませ、顔を近付け、そっと抱き締めながら耳元で囁く。
まるで、会いたくてしょうがなかったかと言う様に。甘く蕩ける様な声音で。
「ぅっ!!?!!??」
顔が熱くなっていく。いや、身体全体が熱い。なんだこれ、俺おかしくなってしまったの?
顔全体茹蛸の様に赤くなっていく俺に、ふっ。と、笑いかける奴の顔が凄く優しくて。
「‥あおい‥。」
「ぅっ‥。」
「名前、呼んで?拓人って呼んで?」
耳がおかしくなるんじゃないかと思う程、甘い声で耳元に囁かれる。
「ぁ‥た、たくと‥。」
まるで催眠にかけられたように名前を呼んでしまう。
そっと、拓人の顔を見ると、頬を嬉しそうに染め、優しい表情をしていた。
とくん。鼓動が高鳴る。
「うん。あおい‥。嬉しい。君に呼んでもらえるなんて、なんて幸せな事なんだろう。」
とくん。とくん。とくん。
「好きだよ。あおい。」
心臓もたない。下を向く俺にそれでも優しく語りかける。
「っ!」
これはα特有の何かなんだ!思い出せ!まだこいつとあって、そんな経ってないじゃないか!
危なく罠に掛かるとこだった。
「ふーっ。」
肩をまだ抱かれたまま深呼吸する。
甘い匂いと澄んだ空気の匂いがする。
思わず、このままでいたくなる。そんな気持ちにさせられるのを堪えて、ぐっ!と、拓人の肩を押した。
「あおい‥。」
「俺は‥あんたが嫌いだ。あんたを信じたりしない。」
拓人の目を真っ直ぐ見つめる。拓人も俺の目を見つめる。
お互い、時が止まったかの様に動かなくなった。
「‥だから‥もう来ないでくれ。何度来たって俺はあんたのものにはならない。」
そう、拓人の目を見て、キッパリと断った。そうした方がお互いの為にも良い。
だが、俺は拓人を甘く見ていたのだ。と。後から後悔する事になる。
その時の俺はまだ気付けなくて、断った後も拓人を見詰めていれば良かったのに、目を逸らしてしまった。
「 」
拓人は、俺に何かを言おうとしていた。口を開いては閉じるを繰り返し、また開きかけた唇を閉じた。
その顔からは、徐々に何の感情も表さない様な、能面の様になっていき、その瞳からは獰猛な色に変わっていった。
ただ、俺はそんな拓人の様子を見逃していた。
断って安堵していたのと、内弁慶な為に人の顔をずっと見ていられなかったんだ。
そうして、拓人は言葉にしなかった言葉を静かに飲み込んだ。
何も言わなくなった拓人に、俺は不審に思い、拓人を見て後悔した。
「」
奴の顔は、こう言っていた。
許さない。逃がさない。
あんたは俺のものだ。
そんな傲慢なαらしい考え方。
だから、嫌いなんだ。こんな性なんて無ければいいのにーーー
___
2021年4月7日更新
2022年1月18日文章編集完了
運命は、そんな俺を嘲笑う。
あの転校生が来てからというもの、俺は学校へは通わなくなった。
オンライン授業に、してもらっている。
初めの数日は、今まで通り保健室通いだったのだが、必ず来るんだ。奴が。
朝、休憩時間、お昼休憩、下校時にまで。何が楽しいのか、俺の前に現れる。
一人になりたくて、他の所に行っても、いつの間にか奴がいる。
何処に行っても来る。何故なのか。問いただしたら、匂いと直感で追って来ているらしい。何それ怖い。
そんな攻防を、繰り広げて1週間後。
俺は、側から見ても憔悴しきっていた。
教師は見かねて、自宅授業に切り替えてくれた。それまでの俺は、自宅でオンラインで授業が出来る事を、すっかり忘れていた。
これ程までに、俺は奴との攻防で、すっかり弱り過ぎていたんだ。と、自分に呆れと共に苦笑してしまう。
そうして、俺は無事に自宅での授業に切り替える事ができた。この2週間の間は、何事も無く平凡だ。そう平凡過ぎる程の2週間が過ぎて行った。
だが、その平凡に満ちた生活も長くは続かなかった。そうなのだ。それは奴が、予告も無く、自宅に前触れも無く現れたのだった。
「会いに来たよ。あおい。」
奴は、両手を広げて俺を抱き締めようと迫って来た。
どうしてこうなったのか‥。母さんが、俺に断りもなく、家に上げてしまったのだ。よりにもよって、俺の部屋に通した‥。
そして、こともあろうか、許可もしてないのに名前呼びをされる。
「っ!?っ‥?え、?な、、な‥まぇ、、、。?!」
「ああ。クラスの名前なんて直ぐに覚えるさ。特に君は、魂で結ばれた俺の運命の番なんだし。」
いや、そうじゃない。俺が教えてないのに、誰かが教えたんかい。まあ、それはいい。良くないけど。
「‥勝手に‥呼ぶな‥。」
「ふふっ。俺達は会ってまだ間もない。それは分かるさ。けれど、君は何時迄、俺から逃げ続けるの?」
俺の方に、指を突き付けて、わざとらしい大きなジェスチャー混じりで、ため息を吐いた。
分かってる。逃げてるのは、俺だって分かっているさ。だからってわざわざ来る事も無いだろう。そんな事は面と向かって言えないけれど‥。
「こうでもしないと君には、一生会えない気がしてさ。会いたかった‥。」
殊勝そうに、瞳を潤ませ、顔を近付け、そっと抱き締めながら耳元で囁く。
まるで、会いたくてしょうがなかったかと言う様に。甘く蕩ける様な声音で。
「ぅっ!!?!!??」
顔が熱くなっていく。いや、身体全体が熱い。なんだこれ、俺おかしくなってしまったの?
顔全体茹蛸の様に赤くなっていく俺に、ふっ。と、笑いかける奴の顔が凄く優しくて。
「‥あおい‥。」
「ぅっ‥。」
「名前、呼んで?拓人って呼んで?」
耳がおかしくなるんじゃないかと思う程、甘い声で耳元に囁かれる。
「ぁ‥た、たくと‥。」
まるで催眠にかけられたように名前を呼んでしまう。
そっと、拓人の顔を見ると、頬を嬉しそうに染め、優しい表情をしていた。
とくん。鼓動が高鳴る。
「うん。あおい‥。嬉しい。君に呼んでもらえるなんて、なんて幸せな事なんだろう。」
とくん。とくん。とくん。
「好きだよ。あおい。」
心臓もたない。下を向く俺にそれでも優しく語りかける。
「っ!」
これはα特有の何かなんだ!思い出せ!まだこいつとあって、そんな経ってないじゃないか!
危なく罠に掛かるとこだった。
「ふーっ。」
肩をまだ抱かれたまま深呼吸する。
甘い匂いと澄んだ空気の匂いがする。
思わず、このままでいたくなる。そんな気持ちにさせられるのを堪えて、ぐっ!と、拓人の肩を押した。
「あおい‥。」
「俺は‥あんたが嫌いだ。あんたを信じたりしない。」
拓人の目を真っ直ぐ見つめる。拓人も俺の目を見つめる。
お互い、時が止まったかの様に動かなくなった。
「‥だから‥もう来ないでくれ。何度来たって俺はあんたのものにはならない。」
そう、拓人の目を見て、キッパリと断った。そうした方がお互いの為にも良い。
だが、俺は拓人を甘く見ていたのだ。と。後から後悔する事になる。
その時の俺はまだ気付けなくて、断った後も拓人を見詰めていれば良かったのに、目を逸らしてしまった。
「 」
拓人は、俺に何かを言おうとしていた。口を開いては閉じるを繰り返し、また開きかけた唇を閉じた。
その顔からは、徐々に何の感情も表さない様な、能面の様になっていき、その瞳からは獰猛な色に変わっていった。
ただ、俺はそんな拓人の様子を見逃していた。
断って安堵していたのと、内弁慶な為に人の顔をずっと見ていられなかったんだ。
そうして、拓人は言葉にしなかった言葉を静かに飲み込んだ。
何も言わなくなった拓人に、俺は不審に思い、拓人を見て後悔した。
「」
奴の顔は、こう言っていた。
許さない。逃がさない。
あんたは俺のものだ。
そんな傲慢なαらしい考え方。
だから、嫌いなんだ。こんな性なんて無ければいいのにーーー
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2021年4月7日更新
2022年1月18日文章編集完了
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