陰陽師〜安倍童子編〜

桜 晴樹

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第一話 安倍童子、賀茂忠行に師事する。

白狐6

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今までの取り憑かれた者達は、白狐が言う様に、数日後には生気を取り戻した。
と、同時にその時の記憶が不鮮明で、中には時が経っているのに驚いた者もいた。
それは、後日の話であるから今は、白い狐の白狐に話を戻そう。


「白狐殿は、伏見稲荷大社からおいでなさったのか?」
伏見稲荷大社とは、稲荷の総本山である。そこの稲荷神の御使いなのか。はたまた別の系統か、全国にある伏見稲荷神の分霊の所か。
「いいや、泉の国(大阪区和泉市)からだ。」
白狐と忠行と保憲が酒を酌み交わしながら幾つか話をする。
ぽつぽつと世間話のような事を言い合った後だった。
「陰陽師達よ。悪いが、そこの童子を借りても良いか?話はすぐに済む。」
白狐は、童子を指名した。それに対して忠行と保憲は、どうしたものかと思った。
「我等の前では話し辛い事なのか?この者は、まだ幼さがある。我等は、この者の保護者でもあるぞ。」
白狐は、善良な神の御使いだが、此度が初めて会った者に、子供を託すべきか難色を示した。
「童子は、どうするか?」
保憲が聞いてきた。
「私は‥、そうですね、白狐殿の話を聞いてみようと思いまする。」
そうして、別の部屋へと白狐に連れられて来た。




「童子は、葛の葉は知っておるか?」
早速だが白狐は、童子に聞いた。
「母の名です。」
「そうだ。だが、人間のでは無い。御主の母の名を騙った白狐がいた。まだ、御主が生まれる前だ。」
おかしいとは思った事がある。物心つく前は、悪食だったらしい。虫とかを素手で捕まえて食べていたとか。
本当に幼い頃と今の母が違く感じることもあった。
「そなたは、その白狐が産んだ子だ。」
所謂、異類婚姻譚という事か。いや、童子の母が一時、身体の調子が悪いとかで、実家に帰っていた事がある。
その時に成り代わっていたという事か。
どちらにせよ、童子の出生の事と、目の前の白狐に結びつくものなど、その産みの親に関する事以外無いのであろう。
「そう申されても、私は人の子です。」
その産みの親の白狐の記憶など無い。


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