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カツカツカツカツ
夜の閑静な住宅街に足音が響き渡る。
午前0時きっかり。
仕事で残業になってしまい、周りは誰も歩く人がいない。
自分一人だけになった気分にされる。
遠野悟は、社会人に成り立てだ。
住まいは、会社から駅で五駅の距離。
昔からオタク気質で根暗で、人と関わる事を苦手としている。
そんな遠野は、事務業を選んだ。
だが入社してみれば、営業の補佐もしなくてはならなかった。
コンビを組まされている営業の同僚、坂本雅敏が、ミスをした事により、残業になってしまった。
遠野は、疲れた体に重い溜息を吐き出した。
さらに重さが増した気がする。
家まではあと15分位。誰もいないからか、遠野は小言を声に出して言い出した。
「ちっ、坂本の野郎。いつもチャラチャラしやがって、何が僕に任せてくださいだ。こんな時間になったのも全部あいつのせいだ。」
愚痴を声に出して、坂本の事を思い出して怒りが強くなるが、それと同時にさらに疲れてくる。
「はあ、早く帰って寝よ‥。」
重い足を、引き摺りながら夜道を歩く。
家まで後5分の所で、遠野は異変に気付いた。
何時もの暗い道の先に、居酒屋がいつの間にか出来ていた。
遠野が知る限りでは、居酒屋所かお店などの個人店は無かった筈だ。
それは見るからにずっとそこにあるかの様な佇まいだった。
怪しい。見るからに怪しさがある居酒屋は、賑わってる様な音が聞こえる。
遠野の足は、自然にその居酒屋に近寄っていく。
(いや、見るからに怪しいし行きたく無いんだが‥。)
何故か足は吸い寄せられていく。
お店の扉の前まで来た所で、人の話し声やら歌が流れ、美味しそうな匂いまでする。
ぐぅ。遠野の腹が鳴り出した。
(夕飯まだだったな‥。)
先程までの疲れと睡魔よりも、食べ物の匂いにつられ食欲が勝っていく。
(うう、お腹すいた‥。)
だが、どんなに腹を空かせていても怪しい店には入りたくない。
そんな遠野の事などお構い無く、扉が開いた。
「あれ、お客様だにゃ!」
扉を開けたのは、割烹着が可愛らしい猫耳をした10代位の少女だった。
「いらっしゃい!カウンターの席があいてるにゃ!」
語尾に猫を思わせる「にゃ」と付けて喋る少女は、遠野の腕を引っ張って店の中に入れる。
「いや、俺はっ!‥。」
客じゃない、店に入らない。を言おうとして、言葉が出てこなくなる。
「にゃっにゃっ!一名様ご案内にゃ!」
遠野の頭がぼうっとしていく中、カウンターの席に座らされる。
「らっしゃい!何にしますか?」
厨房から出て来て話しかけて来たのは、狸の耳をしている中年の男性だ。
「じゃあ‥。日本酒を‥」
遠野の意思とは関係なく、口が勝手に喋り出す。因みに遠野は下戸で、お酒など飲めやしない。それなのに、度数の高い日本酒を頼んでいる。
店の隅では、カラオケをやっている烏やら狐がいる。
人型をしているものも何体かいるが、もう遠野の意識は無くなっていった。
ピピピピピピ
電子音の音で、目を覚ました。
時計を見れば午前6時。
遠野は、何時の間にか自宅のベッドの中にいた。
(昨日のあれは何だったんだ‥。)
まるで狐に化かされたかの様な、歩きながら夢を見ていたのではないのかと、悩んでしまう。
(そうだ、きっと夢だ。疲れてたんだな。)
そう思う事で、不思議な現象の事を考えない様にした。
その日も、会社で別の者がミスをした事により、残業になってしまった。
「はあ、疲れた‥。」
流石に昨日の様な、大きなミスにはならなかったものの、帰りが遅くなってしまった。
昨日よりも早い時間帯ではあるものの、昨夜と同じ場所まできて、家々を見つめる。
(うーん、ここら辺だった様に感じるんだが‥。)
昨日は有った居酒屋が無い。
そんな事があるのか、いや元々無かったではないか。遠野の頭の中で考えが巡る。それは本当に不思議な感覚だ。
(まあ、疲れてたんだろう。やはり夢だ夢‥。)
そう思う事にした。
夜の閑静な住宅街に足音が響き渡る。
午前0時きっかり。
仕事で残業になってしまい、周りは誰も歩く人がいない。
自分一人だけになった気分にされる。
遠野悟は、社会人に成り立てだ。
住まいは、会社から駅で五駅の距離。
昔からオタク気質で根暗で、人と関わる事を苦手としている。
そんな遠野は、事務業を選んだ。
だが入社してみれば、営業の補佐もしなくてはならなかった。
コンビを組まされている営業の同僚、坂本雅敏が、ミスをした事により、残業になってしまった。
遠野は、疲れた体に重い溜息を吐き出した。
さらに重さが増した気がする。
家まではあと15分位。誰もいないからか、遠野は小言を声に出して言い出した。
「ちっ、坂本の野郎。いつもチャラチャラしやがって、何が僕に任せてくださいだ。こんな時間になったのも全部あいつのせいだ。」
愚痴を声に出して、坂本の事を思い出して怒りが強くなるが、それと同時にさらに疲れてくる。
「はあ、早く帰って寝よ‥。」
重い足を、引き摺りながら夜道を歩く。
家まで後5分の所で、遠野は異変に気付いた。
何時もの暗い道の先に、居酒屋がいつの間にか出来ていた。
遠野が知る限りでは、居酒屋所かお店などの個人店は無かった筈だ。
それは見るからにずっとそこにあるかの様な佇まいだった。
怪しい。見るからに怪しさがある居酒屋は、賑わってる様な音が聞こえる。
遠野の足は、自然にその居酒屋に近寄っていく。
(いや、見るからに怪しいし行きたく無いんだが‥。)
何故か足は吸い寄せられていく。
お店の扉の前まで来た所で、人の話し声やら歌が流れ、美味しそうな匂いまでする。
ぐぅ。遠野の腹が鳴り出した。
(夕飯まだだったな‥。)
先程までの疲れと睡魔よりも、食べ物の匂いにつられ食欲が勝っていく。
(うう、お腹すいた‥。)
だが、どんなに腹を空かせていても怪しい店には入りたくない。
そんな遠野の事などお構い無く、扉が開いた。
「あれ、お客様だにゃ!」
扉を開けたのは、割烹着が可愛らしい猫耳をした10代位の少女だった。
「いらっしゃい!カウンターの席があいてるにゃ!」
語尾に猫を思わせる「にゃ」と付けて喋る少女は、遠野の腕を引っ張って店の中に入れる。
「いや、俺はっ!‥。」
客じゃない、店に入らない。を言おうとして、言葉が出てこなくなる。
「にゃっにゃっ!一名様ご案内にゃ!」
遠野の頭がぼうっとしていく中、カウンターの席に座らされる。
「らっしゃい!何にしますか?」
厨房から出て来て話しかけて来たのは、狸の耳をしている中年の男性だ。
「じゃあ‥。日本酒を‥」
遠野の意思とは関係なく、口が勝手に喋り出す。因みに遠野は下戸で、お酒など飲めやしない。それなのに、度数の高い日本酒を頼んでいる。
店の隅では、カラオケをやっている烏やら狐がいる。
人型をしているものも何体かいるが、もう遠野の意識は無くなっていった。
ピピピピピピ
電子音の音で、目を覚ました。
時計を見れば午前6時。
遠野は、何時の間にか自宅のベッドの中にいた。
(昨日のあれは何だったんだ‥。)
まるで狐に化かされたかの様な、歩きながら夢を見ていたのではないのかと、悩んでしまう。
(そうだ、きっと夢だ。疲れてたんだな。)
そう思う事で、不思議な現象の事を考えない様にした。
その日も、会社で別の者がミスをした事により、残業になってしまった。
「はあ、疲れた‥。」
流石に昨日の様な、大きなミスにはならなかったものの、帰りが遅くなってしまった。
昨日よりも早い時間帯ではあるものの、昨夜と同じ場所まできて、家々を見つめる。
(うーん、ここら辺だった様に感じるんだが‥。)
昨日は有った居酒屋が無い。
そんな事があるのか、いや元々無かったではないか。遠野の頭の中で考えが巡る。それは本当に不思議な感覚だ。
(まあ、疲れてたんだろう。やはり夢だ夢‥。)
そう思う事にした。
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