如月真理はまだ知らない

プロローグ

「好きだ、俺と付き合ってほしい」
　そういわれたのが1月17日のことである。真理の誕生日の1か月前である。大学の帰り道での出来事であった。真理は大学で知り合った九条翔という男に惹かれていた。だからこの突然の告白に対して真理は喜んで受け入れた。
　翔との出会いは大学の講義で、たまたま席が隣であったという些細なものであった。彼は真理を見るなり、「似合っているね、その眼鏡」と言ってきた。真理は普段は眼鏡をしておらず、勉強や読書をするときに眼鏡をかける。それなので真理は反応に困った。普段から眼鏡をかけているのであれば、何も迷わずに返答できたであろう。考えた結果、「ありがとう」と答えた。この言葉を伝えるのに妙な間があったため、彼らの周りの空気が少し変に感じられた。真理はしまったと思い、彼のほうに顔を向けると彼はなぜか笑っていた。真理が不思議に思っていると、彼は
「なんでもないよ、君の名前を教えてくれる?」
と微笑みながらそう言ってきた。
「私は如月真理。あと、眼鏡は普段かけてないから。あなたは？」
「俺は九条翔。眼鏡かけてないんだね。あまりにも似合っていたから声をかけたんだ」
これが真理と翔の出会いである。