どさくさに紛れて触ってくる百合

シャクガン

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10月14日(朝)

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今日も幼馴染はどさくさに紛れて朝から触ってくる。

いつも通り平日の朝。空は秋晴れでちょっとは涼しくなってきた空気が気持ち良い。

あたしと亜紀はいつも駅前で待ち合わせをしてから一緒に電車に乗って登校している。お互いの家の真ん中にある駅で待ち合わせした方が効率が良いからなんだけど、亜紀は高校の登校初日にあたしの家に迎えにきた。これから毎日となるとさすがに大変だからと言ってそのあとは断っていた。

明らかに寂しそうにしていたけど、亜紀にわざわざ駅を越えてあたしの家にまで迎えに来てもらうのは気が引けた。

駅前のオブジェクトの前に眼鏡をかけた制服姿の女の子が本を読みながら立っていた。肩口で切り揃えられた黒髪が風で靡いてどこかの絵画のような風景だ。毎日のように見ていても綺麗だなと思う。

「おはよう亜紀」
「おはよう、ちさき」

挨拶を返してくれた亜紀は嬉しそうに笑って、読んでいた文庫本を閉じて鞄にしまう。

駅前のよくわからないオブジェクトの前が待ち合わせ場所で、亜紀はいつもあたしより早くきて本を読みながら待っていてくれる。来る途中でコンビニ寄ってきているあたしが遅いわけじゃない。待ち合わせの時間には間に合っているし……

2人並んで改札の入り口の方へ向かうと、いつもより人が多いような気がする。

「電車が遅延しててさっき再開したばかりみたい」

亜紀が携帯の画面を見せて教えてくれた。

「そっか~どうりで人が多いわけだ。電車乗れるといいけど…」

ホームに着くとさらに人が増えて人を縫うようにして歩く、いつもより歩きにくいホームは迷路のようで目的の場所まで辿り着くには遠回りしなきゃいけないような状況だった。なんとか進もうと歩いていると……

ギュッ

後ろから手を握られる。振り返ると亜紀があたしの手を掴んでこっちを見ていた。

「ちさきは小さいんだから見失っちゃう」

そう言って更に強くギュッと手を握り直してあたしの先を歩き出す。引っ張られるようにして進んでいくが…

「いや、あたし小さくないし!160あるんだからね!?高2女子の平均身長よりあるからね!?!?」
「私は165あるから」
「5センチしか違わないじゃん!単2電池の高さしか違わないよ!」
「単2電池の高さとかわかんないし」
「じゃぁ、500万円の厚み!!」
「500万円持ったことあるの?」
「ないけどね!!」

「もう5センチとか誤差の範囲じゃないかな!?」と抗議すると流石に誤差ではないでしょ。とクスクス笑われて気づいたらいつもの乗車場所まで着いていた。長い列の最後尾に並ぶ。

握られた手はお互いの熱のせいか、熱くなってきていた。手汗が心配になってきて繋がっている手を見る。

小さい頃のあたしたちはよくこうして手を繋いでいた。あたしより身長が低く大人しかった亜紀をあたしが引っ張り回して色んなところに遊びに行っていた。

それが今では身長も他の所も抜かされて…学力とかね!胸とか別に悔しくないし!いや、学力は昔っから亜紀の方が良かった……うん

「昔はよくこうして手を繋いでたよね」

亜紀がこっちを向いて話しかけてきた。その瞳は昔を懐かしく思っているのかすごく優しい瞳をしていた。

「そ、そうだね。ただあたしが亜紀を連れ回して遊んでただけだよ。大人しくて引っ張り回しても文句言わないで着いてきてくれるからさ」

「引っ張り回されたのは確かにそうかもしれないけど、ちさきがすごく頼もしかったし私もすごく楽しかったから、望んで引っ張り回されてたんだよ」

駅のホームに入ってくる電車を見つめているようで、亜紀はきっと昔の事を思い出しているんだろう横顔はちょっと寂しそうに微笑んでいた。

そのしんみりとした雰囲気を消し飛ばそうと入ってくる電車のガタンガタンという音に負けないように声を張って言う。

「それが今では亜紀に引っ張り回されてるわけだね!あたしは!」

きょとんと亜紀がこっちを見て、徐々に口の端が上がった。ちょっと意地悪そうな表情になったぞ…

「そうだね。これからは私がちさきを引っ張り回していくよ」

そう言って電車の中に流れ込む人混みと一緒に手を引かれて入っていく。



なんとかギリギリ乗り込んだあたしは亜紀に守られるように扉前の場所を確保して、今日は学校の最寄り駅までこの状態かと辟易してくる。

ムギュっと亜紀の胸があたしの胸に押し付けられた。

胸!!

こんなに押し付けられるとブレザー越しでも…やわ…やわっ!!

「今日はホントに混んでるね」

あたしがブレザー越しの胸の感触にやわやわしていると亜紀がそんな事を口にした。

ん?今日「は」って言ったか?今日「は」!?いや、確かに今日はいつもより混んでるけど、この間「も」混んでたんじゃないの!?

亜紀の言葉が気になってお胸ばかり見ていた視線を上に上げる。

「ぅぉっ!?!?」

ゴン!!

「えっ!大丈夫!?!?」

すぐ近くに亜紀の顔があってビックリして距離を取ろうと頭を下げたら後頭部が扉にぶつかって鈍い音がした。大丈夫大丈夫と言ってまた視線を下げたら、ムギュッとなった胸が視界に入ってどこを見てたらいいんだ!と視線が定まらず更に下に視線を下げるといまだに亜紀に握られた手があった。

一旦気持ちを落ち着けようと深いため息を吐く…

「大丈夫?苦しくない?」と亜紀が心配そうに尋ねてきた。

大丈夫だよと口の端を上げて多分笑顔で答えられたと思うんだけど、内心は手汗をいっぱいかいてる手をずっと繋いだままいて、亜紀の胸がむぎゅむぎゅと押し付けられてこんな状態が学校の最寄り駅まで続いてしまったらあたしは単2電池くらいの厚さまで潰れてしまってるかもしれない…気持ちはもう潰れているけどね…


ギュウギュウの電車は学校の最寄り駅まで続いて、あたしは亜紀に手を引かれて教室までなんとか辿り着いた。その光景を見た凪沙が口を手で覆ってニヤニヤとしていたけど、あたしはメンタルが潰れてしまっていたので軽く挨拶を交わして机に突っ伏した。

凪沙が扉に頭をぶつけたあたしの後頭部をヨシヨシしてくれたので、ちょっとメンタルが回復した。
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