どさくさに紛れて触ってくる百合

シャクガン

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亜紀視点 10月8日

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私より身長が少し高い少女が振り返ってこちらを向いた。
向日葵のように咲いた笑顔はキラキラと眩しくて強く引いてくる手は頼もしかった。
引かれる手に逆らわず少女に色んなところに連れて行かれる。家から少し遠い公園、小さくて白い花が一面に咲いている広場、両親から危ないから行ったらダメと止められていた河原。後からバレて怒られたけどそれも良い思い出だった。
見るもの全部新鮮で輝いて見えて、でも1番輝いて見えたのは少女だった。

――ちさき

少女の名前はひらがなだったけど、私は漢字にするなら『千咲』だと思っている。
千本の向日葵が咲くような眩しい彼女にはピッタリだ。

引かれていた手が不意に離れてしまって転んで膝を擦りむいた時、痛くて泣きそうな私の事をギュッと抱きしめて――大丈夫だよ大丈夫あたしが痛いのお空に飛ばしてあげるから
そう言って痛いの痛いの飛んでいけとおまじないをかけて抱きしめられた時は本当に痛みが消えて安心する彼女の温もりが心地よかった。

中学に入って彼女は髪を明るく染めた。向日葵のような色は彼女に似合っていた。その頃になると昔みたいに手を繋いだりすることも自然となくなっていて、一緒に歩いていると偶然触れる彼女の手の温もりが心地よく安心するようになった反面少し物足りなかった。

――もう少し触れたい

そんな思いから偶然を装って彼女に触れるようになった。

最初は手だった。
彼女の爪はネイルが施されており「見せて」と言って彼女の指先に触れた。

次は頭。
たまに家に泊まりにくる彼女のお風呂上がりにドライヤーをかけてあげた。
流石にお布団で一緒に寝る勇気は出せなかった。

そして自然に彼女に触れるようにした。彼女の温もりは安心する。でも、ドキドキもした。



いつからだろう知らず知らずのうちに私は彼女に恋をしていた。


――――――――――――――――――――――――


「ちさき、そこ間違えてる」
「えっ!?どこどこ??」

学校帰り私の家で宿題をしていると、ちさきが書いているノートに間違いを見つけた。
ちさきとはよく私の家で勉強をする事が多い。高校受験では毎日のように私の家で一緒になって勉強をしていた。
中学でサボりがちだったちさきに必死になって教え込んだ。私と同じ学校に進学してほしくて…

両親から将来のために夕ヶ丘高校に行きなさい。と進学校を勧められて私は少し勉強をすれば学力的には問題はなかったが、ちさきと別々の高校になるのは嫌でちさきに合わせた高校にするとお願いをしたが、だったらちさきちゃんに勉強を教えたらいいじゃないかと言われてしまった。ちさきの両親に説明をすれば両手を上げて喜んでくれて、ちさきはちょっと不服そうだったけど亜紀と一緒の高校行くなら頑張るか…っとやる気を出してくれた。


「ここ公式間違ってる」
ちさきの隣に移動して間違えてる箇所を指摘する。ちょっと触れた手が熱を帯びた気がする…

「ん?あ!ほんとだ!ありがとう」
向日葵色の髪を耳にかけてまたノートに視線を向ける。真剣に取り組む彼女の横顔も好きだとちょっとまじまじと見すぎてしまったのか、ちさきが振り返ってきた。

「ほんとありがとね」
「え??」
「いや、進学校に進学したのはいいけどホント授業難しくてさ。でも亜紀のおかげでなんとかついていけてるし、成績は良い方ってわけじゃないけどね」
へへっと自重しながら笑った。

「ううん。私の方こそありがとう。私のせいで今の学校に進学したようなものだし、勉強だってあまり好きじゃないのにいっぱい付き合わせちゃって…」
「いやいや!私だって亜紀と一緒の学校行きたかったし!勉強だってやっておいた方が良いに決まってるんだから!こっちこそ勉強教えてくれてありがとうだよ!」
心からそう思っているのか、ニカッと輝くような笑顔は私をドキッとさせた。

ちさきのキラキラした笑顔は私をドキッとさせるし、ちさきの温もりは私を安心させてくれる。

「?……亜紀?」

私は気づいたらちさきの髪を一房手に掬っていた。

「ちさきの髪色…向日葵みたいで私好きなんだよね。」
「急にどうしたの?」
少し困惑してるのか首をかしげていた。

一房の髪をちさきの耳にかけてあげる。ちさきの耳が現れてそのまま手を耳の輪郭にそって優しく触れていく。ゆっくりと耳朶の方まで下がってきて。

「ん」

くすぐったかったのか、ちさきが声を漏らした。
ちさきが頬を赤くして目は見開きながらこっちを見ていた。その表情はあまり見ない表情で可愛いなって思った。耳に触れていた手をゆっくりと首筋まで移動させていく…さっきまで触っていた耳は赤く染まっていた。

「あ、亜紀!?ど、どうしたの??くく、くすぐったいよ」
徐々に後退していくちさきだけど、すぐ後ろはベッドでこれ以上下がれず、ちさきは目を潤ませながらこっちを見上げてきた。

私はちさきの足にまたがりちさきを見下ろす。首筋からまた少しずつ下に移動して服の上からまた触っていく、ブレザーは脱いでいてワイシャツの薄い生地越しにちさきの体温を感じる。  

「ちさきに触るとね安心するんだ」
「え??」

ちさきを抱きしめた。

首筋に顔を寄せると髪からお日様の匂いと甘い香りがする。背中に回した手からワイシャツ越しでもちさきの温もりは安心する。ドキドキと心臓も高鳴ってもしかしたらちさきに聞こえてるかもしれないけれど、私は力強くちさきを抱きしめた。

「え?え!?あの!…え?亜紀??」
ちさきの戸惑っている声が聞こえるけど、この温もりが離れ難くて無視した。

少しちさきの体温が上がったような気がする。顔を上げてちさきを覗き込むと顔が真っ赤になっていた。
目が大きく見開かれてこっちを見ていて相当驚いているようだった。

「ちさき顔真っ赤だよ?」クスッと笑いながら言うと
「だ、誰のせいだよ!!」と言って肩を押されて離されてしまった。

「きょ、今日はもう帰るから!!」
バタバタと出しっぱなしになっていた教科書とノートを鞄にしまって「またね!」と言って部屋から出ていった。

ちょっと怒らせちゃったかな?

ポンと携帯にメッセージが届いた。
『別に怒ってないからね!』
長い付き合いで私の気持ちをわかってこんなメッセージを送ってくれるちさきは優しいな。
もしかしたら私の『好き』って気持ちも気づかれちゃったかもしれないけど、それはそれで良いかなって思う。

私の気持ちは本当だから

テーブルの横にはちさきの忘れていったノートが一冊残っていた。
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