どさくさに紛れて触ってくる百合

シャクガン

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10月15日(朝)

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幼馴染の亜紀はどさくさに紛れて触ってくる……

いや、紛れてないな…
あたしは自室のベッドの上で漫画を読みながら昼間あった事を思い出していた。

『ギュッてしてもいい?』

『ギュッてしたらもっと痛みなくなるんだよ』

ギュッてしたら痛みがなくなる?どういう事だよ…そんな訳ないだろ…それに授業中なのにギュッなんてできるか!みんながいるのに…いや、2人きりならいいのかって言われるとそうじゃないけどさ!

前に亜紀の家でギュッてされて今まであんな風に抱き合ったことなんてなかったから…あたしの心臓はあの日いつも以上に働いていたと思う。お疲れあたしの心臓…帰ってきてからも思い出しては心臓がいっぱい働いていたよ…ありがとな

あの時あんな風にギュッとされて、もしかしたら亜紀はあたしの事が好きなんじゃないかって思うようになった。あの日以降亜紀はよくあたしに触れてくるようになったと思う。どさくさに紛れて触ってくるだけだと思ってたのにあんな堂々と触ってこようとするなんて……安心するって言ってたけど…人肌に触れると安心するだけであたしじゃなくても同じなんじゃとは考えたけど…亜紀のあたしを見つめる瞳が…瞳の奥が…熱を持っていたような気がするんだ。

亜紀の好意は友達に対するものじゃなくて恋愛的な意味で…

だったらあたしは?あたしは亜紀の事どう思ってる?亜紀のことは好き。同じ学校通いたいから勉強を頑張るくらいには…一緒にいたいとも思うけど…これは友達に対する気持ちと同じ気がする……

「ねよ…」

あたしは持っていた恋愛漫画をベッドの横に放り投げて思考を放棄した。



「おはよ」

あくびを噛み殺しながらいつものオブジェクトの前に待つ亜紀に挨拶する。

昨日は結局なかなか寝付けずに気付けば日付が変わってしまっていた。なんとか朝は起きたけど授業中起きていられるかわからないな…こういう時待ち合わせしていると起きなきゃいけない気分になるから遅刻とかしなくて済むのはありがたいけどね。

「おはようちさき」

持っていた文庫本を鞄にしまいながら嬉しそうに挨拶してくる。

亜紀はいつもちゃんとしてて偉いなぁなんて眺めていると「眠そうだけど大丈夫?」と心配されてしまった。

主に亜紀のせいでこうなっているなんて言えるはずもなく…

「大丈夫。ちょっと漫画に夢中になりすぎて寝るのが遅くなっちゃっただけだから」
「そう?」

改札に向かいいつものちょっと混み出した電車に乗り込めば、腰に手を回された。

「着くまで支えてるから寝ててもいいよ?」

急に近くなった距離に驚いて亜紀を見ると朱色に染めた頬を上げて微笑んでくる。

「あ、いや…流石にそこまでしなくても大丈夫だから…」
「授業中寝たらダメだよ?」
「………がんばるね」

あたしは亜紀から離れて扉に背をつけた。

学校の最寄り駅に着くまであたし達の間にこれ以上の会話はなかった。


眠いながらもなんとか教室に辿り着くとあたしの席の後ろに座る凪沙がもう来ていた。
あたし達を見つけると笑顔になって挨拶をしてくる。

「ちさきちゃん亜紀ちゃんおはよぉ」
「おはよう凪沙~」「おはよう凪沙さん」

さすが学校1の可愛さなだけある。癒されるわ
亜紀は挨拶をして自分の席に向かって行った。

「おぉ!?どうしたのちさきちゃん」

あたしは凪沙の後ろからしなだれかかった。凪沙の茶色がかったサラサラな髪がくすぐったい。

「ちょっと寝不足で授業中寝ちゃいそうだから寝ちゃったら起こして……」
「寝不足なの?じゃぁ、寝ちゃわないようにたまにちょっかいかけるね!」

クスッとイタズラっぽい笑顔を浮かべてる。何をしようとしてるんだ!
あたしは凪沙の後頭部を自分の頭でグリグリして抗議を示す。

あれ?凪沙ってすごく良い匂いがするんだな…さすが女子力高い女の子なだけある匂いも女子力高めだ。スンスンと後頭部からうなじの方まで匂いを嗅いでいると

「ちょ!ちょっと匂い嗅いでるの!?」

凪沙が暴れ出した。

「めっちゃ良い匂いするんだけど…シャンプー何使ってんの?」スンスン
「だ!だから匂い嗅がないでって!」

ガシっ
「うぉっ!」

急に首筋を引っ張られて凪沙から引き離された。
振り返ると亜紀が無表情でこちらを見ていた。なんだか怖い…

「凪沙さん嫌がってるでしょ…あと、話があるからちょっと来て」
「え?えっ!?」

あたしは捕まった猫のようになす術なく亜紀にそのまま引っ張られて教室から連れ出された。
凪沙は笑顔でいってらっしゃいと手を振っていた。助けて…


連れてこられたのは廊下の端にある空き教室…2人っきりで話すなら絶好の場所ですね!

あたしは静かに扉を閉めている亜紀の方を見る。振り返った亜紀は無表情で幼馴染歴の長い私は亜紀がちょっと怒ってることを悟った。

「凪沙さんの匂い嗅いで何してたの?」
「い、良い匂いでちょっと癒されてたっていうか…凪沙が授業中ちょっかいかける宣言してたからイタズラしてたっていうか…」
「………はぁ」

ちょっと凪沙と距離が近かったかもしれないけど、女の子同士だしセーフだとあたしは思うんだけどな!?ってあたし達は別に付き合ってる訳じゃないからカップルみたいな言い訳も心の中だけにとどめておく。

亜紀が感情を抑えるようにため息を吐いた。そのまま口を開いてあたしに視線を向けた。

「そんなに癒されたいならしてあげるから」
「え?ちょっ!!何言ってんの!?」

そのまま一歩一歩近づいてくる。近づいてくる亜紀にあたしは後退りをするけどすぐに机にぶつかった。

「だから癒されたいんでしょ?」
「え!?え!!」

亜紀はあたしの方に手を伸ばしてきてそのまま…………

あたしを後ろから抱きしめてきた。ん?

スンスン

あたしの後頭部の匂いを嗅いでいる音がする。そのままうなじの方まで嗅がれていく。あたしの心臓が活発に働き始めた。

あたしは思った。

――これ逆じゃね??

凪沙の匂いを嗅いでたはずなのに何故か亜紀があたしの匂いを嗅いでいる。

「ちょっと亜紀!?」
「もうちょっと……」

更に腕の力を強めて抱きしめて匂いを嗅いでくる。くすぐったいなぁ!



結局チャイムが鳴るまであたしは亜紀にされるがまま匂いを嗅がれまくった。

癒し効果はあったのかどうかは…まぁ、亜紀に抱きつかれて心穏やかって訳にはいかなかったけど…悪くないとは思ったよ?亜紀には言わないけどね!

その日一日あたしの心臓の活躍により眠気はすっかり消えていた。
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