召喚士リン〜異世界転生した俺は好きなものを守るためにこの類まれなる召喚能力を使います〜

ゴリラ伯爵

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一章

家路を急ぐ

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俺はひたすら霊峰ニルの山道を、頂上に向かって走る。早く帰らないと。

シチューが待っているんだ……

 そして、姉ちゃんのシゴキを何とか回避出来ないだろうか、ずっと考えている。

下手したら母ちゃんまで出張って来たらどうしよう?

そんな考えが浮かぶ度に、気が重くなる。

 無心……
起きていもいない未来を悲観するな!!

大丈夫!!きっと大丈夫!!

……でも怖えー……

いや、大丈夫!!大丈夫なんだ!!

 繰り返す思考にゲンナリしながら、俺はひたすら走る抜ける。

 あ!!そうだ!!
身体強化しとこ!!

 さすが俺!!頭良いよね!!
だってさ、生身のまんま行って、姉ちゃんのパンチや蹴り喰らったら、ひとたまりもないしね!!

 身体強化魔法を最大にかけるなんて、街にお使い行く時もしないけどね……

 「リン!!」
 「うわっ!!」
いきなり低い位置から声をかけられた俺は、華麗なステップを披露し、軽く飛び上がる。

 「ニャにをそんな驚いてるんニャ??」
足元を見ると、綺麗な虎柄の猫が、不思議そうに首を傾げながら、速度マックスで走る俺に並走していた。

 「トラか!!ビックリしたー!!」

 こいつはトラ。トライアキャットって言う魔獣がいるんだけど、その子ども。まあ子どもって言っても、俺と知り合って10年以上経つから、幼獣って訳じゃないけどね。

 知り合った頃はもっと子猫みたいな感じだったなー。それで仲良くなって……

俺の一番の友達なんだよね。

 それからコイツと召喚契約してさ。
普通は召喚する側が主になるんだけど、俺たちは友達だから、五分五分にしたんだ。

 まあ、兄弟分って感じだね。

 「珍しいニャ、そんな真剣ニャ顔して。」

 「おー……大事件なんだよ……」

 「大事件??」

 「母ちゃんと姉ちゃんが……」

 「母ちゃんと姉ちゃんに何かあったんニャ??」

トラは、え??と言う表情を浮かべ、恐る恐る俺に尋ねる。

 「激おこなんだ……」

 「……あー……それは大変ニャ……」

 トラも母ちゃんたちのことをよく知っているもんな。な、分かるよな??この気持ち。

 トライアキャットってのは、ものすごく温厚で頭が良い魔獣。でもブチギレたらバーサクしちゃうくらい、オンオフがすごいんだよ。この山で最強種と言って良いほどの強さを持っているんだ。

でもトラの親ですら、母ちゃんたちには絶対戦いを挑むことはない。あの最強種たちが…だよ??

 ありえねーんだよ、ホントに。
トラもそれをよく知ってるから、故の、この反応な訳。

一緒にイタズラしてお仕置きされたこともあるし、何より俺がご指導を受けているところを何度も見てるから、尚更…ね。

 「大変だニャー……リン、がんば!!」

コイツ……憐れみの顔を向けやがって!!
他人事だと思って!!!!

 あ!!そうだ!!
名案!!名案が浮かんでしまいました!!

 「なぁトラ!!」

 「ん??何ニャ??」

 「飯食った??」

 「いや、まだニャ。」

 ふふっ……

 「今日さ、晩飯、ホロホロ鳥のホワイト煮込みなんだよ!!」

 「おー!!それは良いニャ!!リンの母ちゃんのホワイト煮込みは絶品だからニャー」

 ふふふっ……

 そうだろうそうだろう。トラの大好物であることを俺は知っているんだよ……

 ふふ、はははっ!!

 「なあトラ、うちで一緒に飯食っ……」

 (ブワっ)

 「うぉっ!!」

 俺がトラを誘いかけるや否や、土煙が巻き起こり、辺り一面が見えなくなる。

 「ゲホッゲホッ……」

 あんにゃろー!!
俺の誘いを見抜いて逃げやがった!!

 しかも!!
マックスで目眩しまでしやがって!!!!

 「リーン!!」

 ん??どこだ??
土煙を払いながら、俺は声の聞こえた上方に目を向ける。

 「リーン!!」

 いた!!あんな高い木の上にいやがる!!

 「また明日ニャー!!がんば!!」

 「お、おい!!ちょっと待ちたまえ!!トラ!!トラくん??」

 もういない……
何て逃げ足の速いやつなんだ……

「くっそー、トラのやつめ!!十年来の仲の俺を置いて行きやがって……明日は腰トントンの刑だ……」

 あー、悔し!!
悔しすぎてついついブツブツ言ってしまう。

 おのれー、トラめ。トラは腰トントン嫌がるんだよな。ふふ、覚悟しておけよ。

 「ふぅーっ……」
仕方ない。思い切り息を吐ききり、俺は勇気を出して帰る決意を固める。

 「待ってろ!!俺のホワイト煮込み!!そして……なんだかんだで優しくしてくれるであろう、いつも素敵なお母さまとお姉さま!!」

 聞こえてないかなー、この声……
是非ぜひこれこそ察知してもらいたいものですなぁ。

 そして俺はまた走り出す。
暖かい我が家に向かって。

 身体強化もバッチリです!!
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