アナグラムの勇者 ~異世界を書き換えるリライトスキル~

ぎゃもーい

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第一章 「魔物使いとアナグラム遊び」

#12 強くなってる? ~やくそうスライムの恩(仇)返し~

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 ヘルラルラ平原。
 二度目になるその景色を臨みながら、俺は鞄の中からやくそうを取り出した。

「これと同じものか……」

 俺は手元のやくそうをまじまじと眺める。
 色は深緑で大きさは手のひらサイズ。形に特徴があり、鳥の足のように先が3又に分かれていた。

 足元の草々を眺めるが、一言で草と言っても特徴がある物が多い。
 色、形、大きさと千差万別だ。

「これだけ特徴が違えば、間違うってことはほぼ無さそうだな」

 そう俺は確信するが、そいつには当てはまらないらしい。

「アキラ、これがやくそうやない?」

 そう言葉を発するミヤの手にあるのは、紫色の毒々しい草。
 
 違うだろ、と俺は首を振る。
 俺はやくそう探しへと戻る。

「アキラ、今度は間違いないで?」

 またもミヤの声。
 振り返ってミヤの手元にあるその草を見た。
 
 色形は合っていた。
 ただサイズがおかしい。それは俺たちの顔の大きさを軽く超えていた。
 
 違うだろと、俺は首を振る。
 再び俺はやくそう探しへと戻る。

「アキラ、これがやくそうや。間違いないで!」

 俺は再び振り返る。
 ミヤは、トラッキーがくわえてきたそれを指差した。
 
 俺は手元にあるやくそうと、それを見比べる。

 色、形、大きさ、すべてが違った。
 色は青、形はまん丸、大きさも俺たちの顔くらいあるそれ。

 結論から言うと、それはスライムだった。
 まごうこなきスライムだった。
 
 ……ただミヤは真剣だった。

「アキラ、これはやくそうやで!」 

 意地でもそう言い張るミヤ。
 俺は頭が痛くなりそうだった。

 連れてこられたスライムもまた被害者だ。
 
 違う、ぼくはやくそうじゃない!
 その意思を示すかのように、ブルブルと体を震わせるそのスライム。
 
 その様子を見て、ミヤは一言。

「やくそうやん? なぁトラッキーもそう思うやろ~?」

 主の声にこたえるかのように、トラッキーはうなり声をあげる。
 それはまるで脅迫で、誘導尋問のようだった。
 
 その声に一瞬硬直したスライム。
 スライムとしての威厳と己の立場を天秤にかけた後、そのスライムはプライドを捨てた。
 
 ぼくはやくそうです、まちがいないですと言うかのように、全力で縦に体を震わせる。
 スライムがやくそうになった瞬間だった。

「ほら、こうスライムも言っとるで」

 お前がスライムっていったらお終いだろという突っ込むを飲み込んだ俺。
 俺は小さく溜息を吐く。

「……ミヤ」
「なんやアキラ?」
「俺がやくそうを見つけるから、ミヤはスライム狩りに精を出してくれ」
「……しゃーない、適材適所やな」

 少し残念そうな顔を浮かべながら、ミヤはトラッキーに乗り、駆け出して行った。

 残された俺と、やくそうになったスライム。
 そのスライムはしくしくと泣いているように体を震わせる。

「お前も大変だったな。見逃してやるから逃げていいぞ」

 その一言を理解したのか、そのスライムは頭を下げるように何度も体を揺らす。
 そして、嬉しそうにぴょんぴょんとはねながら、俺の視界から消えていった。

 いいことしたなと思う、そんなひと時であった。

* * *


「これで10枚くらいか」

 ミヤが近くのスライムを狩っていたこともあり、俺はスライムと遭遇もなくやくそうの採集することができていた。
 後10枚もそんなに探すのは手間取らないだろう。
 
 そう感じていた時、視界の一端にぴょんと跳ねるスライムの姿が見えた。
 ついにスライムとエンカウントしてしまったらしい。

「おーい。ミヤ」

 俺はミヤにそのスライムの処理を任せようと声を上げるが、辺りにミヤの姿はない。
 遠くの方までいってしまったのだろうか。

「仕方ないか」

 まあ一体なら倒せるだろうと、こんぼうを持つ。

 ――が、よく見ればそのスライムは一体ではなかった。
 それは複数体いた。いや、数十匹はくだらない数だった。

 それは群れだ。
 スライムが群れをなしていた。

「……ええ」

 スライムはいきりたっていた。
 まるでトラッキーに狩られた同胞の恨みを、この弱そうな魔法使いの俺に復讐せんとして、猛り立っているようだった。
 
 いや、それだけではないらしい。

 俺は気付いてしまう、そいつの姿に。
 その群れの最後部で、偉そうにふんぞりかえるそいつ。
 それは俺が見逃した、やくそうになったスライムだった。

 間違いない、頭にやくそうをのせているから間違いない。
 何故やくそうを頭にのせているのかと聞かれれば、そのスライムはおそらくこう答えるだろ。
 
 己の誇りを取り戻すために、
 やくそうになった悔しさを忘れないために、
 わざとやくそうを、のせていると。

 そんな汚名返上に燃えている、やくそうスライムがこいつらの指揮をとっているようだった。
 そこでようやく俺はこの状況の真理を理解する。

「恩を仇で返しやがったなお前!」

 やくそうスライムは何のことか分からないというわざとらしいボディジェスチャーをした後、明らかにこちらを挑発するように体を震わせる。
 少しばかりカチンときた。

「……このやろう」

 俺が怒りの言葉を発した瞬間、やくそうスライムは指示を出したらしい。
 前衛のスライムが俺へ向かってはねた。

 ――かわせない。
 俺はまともにその攻撃を食らってしまう。
 だが。

「……え?」

 その攻撃はまるでゴムボールのように軽い。
 痛みはおろか、衝撃さえ感じない。
 俺は首をかしげながら、こん棒を振りかざす。

 ボンッ!
 その一振りに、そのスライムはあっという間にぺちゃんこになった。

「……まじ?」

 俺こんなに強かったけ?
 
 俺はまた首を傾げる。
 その強さに俺も驚いていたが、スライムたちも驚いているらしい。
 
 スライム群はその一部始終にどよめいて体を震わせていた。
 が、やくそうスライムがまた指示したらしく、すぐに次のスライムが飛んできた。

 そのスライムに俺は首を傾げながら、応戦した。

 ボンッ!

 ――たった一振りで、スライムが倒れていく。
 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!

 ――昨日は何十回攻撃したかわからないほどだったのに。
 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! 

 ――今日は一撃で、スライムが倒れていく。
 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!   

 ――そして、スライム攻撃も痛くない。
 ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ! ボンッ!


 時間にして、ほんの数分。
 数十匹いたであろう、スライムの群れは全滅した。

 ――その一匹を残して。

「随分と苦労させられたなぁ」

 プルプルと震えるそいつ。

「なぁスライムさん?」

 すいませんすいませんと、そいつは土下座するかのように何度も体を揺らす。

「俺は悲しい。恩を仇で返されるなんて……」

 すいません何でもしますからというかのように、やくそうスライムはぺこぺこと体を揺らし続ける。

「でも、俺は心が広いから……お前の誠意次第では許してやらないことはないが」

 おっ! 
 という感じでやくそうスライムをこちらを見た。

「芸をしろ。面白かったら見逃してやる」

 待ってました!
 十八番があるんですよというかのように、手を擦るような仕草をするやくそうスライム。

「よし始めろ」

 その言葉を聞き、やくそうスライムは体をくねらせた。
 どうやら形真似のようだった。
 
 それはあれだ、コ〇コ〇コミックでよく見たあれだ。
 一言で言うならば、とぐろを巻いたあれだった。
 
 やくそうの次はうん○になった、そのスライム。
 プライドも減ったくれもそこには存在しない。

「ハッハッハッ!」

 俺はわざとらしいその笑い声を上げる。
 ウケたと思ったのか、スライムを嬉しそうにぴょんぴょんとはねた。

「アホか」

 刹那、そいつの体は飛び散った。
 俺のこん棒によって。


 * * *


 ほどなくして、トラッキーに乗ったミヤが戻ってきた。

「アキラ~ごめんなぁ~追いかけていったら見失ってしもて。無事だったん?」
「……ああ」

 辺りを見回しながら空返事で答える。

「って、えええ!? これ全部アキラがやったん!?」
「らしい」

 ミヤが信じられないのも当然で、俺もまた自分のやったことに半信半疑だった。
 やくそうスライムへの怒りに我を忘れていたとはいえ、冷静に考えてみると一人でスライム数十匹倒したんだから衝撃だ。

「……あれやな。アキラ、実は秘密の特訓を行ってたんやろ?」

 ミヤが興奮気味に聞いてくる。

「水臭いなぁ! トラッキーが強いだけで、うちは弱いんやからさそってくれても良かったのに!」

 その言葉に空笑いを浮かべるが、俺にとっても分からない。
 
 なんで?
 どうしていきなり強くなった?

 喉に刺さった魚の骨のような違和感のように、その疑問は残る。

 結局のところ、その疑問は解決されないままだったが、無事やくそうを20枚収集に成功した俺たちはヘルラルラ平原を後にした。

 最終的に、俺はスライム30匹。ミヤとトラッキーは160匹討伐した。
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