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第二章 「神に愛されなかった者」
#18 残った依頼と運のいい男
しおりを挟む俺が冒険者ギルドに入ると、外から聞こえていた喧噪が少し弱まった。
そして、纏わりつくような視線を感じる。
「あいつが倒したらしいぜ」「いや嘘だろいくら何でも」「いやでも見た奴もそこそこいるんだぜ」「あんな弱そうなやつなのに」
そして、所々から聞こえるその声々。
どうやら昨日、俺が大王河童ロブスター倒したことが噂になっているらしい。
「……」
注目されるのはどうも好きじゃない。
ましてや、それが自分が対象だったら猶更だ。
こんな視線を物ともなかったミヤはやはり大物なのだろうか。
まるで見世物になったような居心地の悪さを感じながら、俺は冒険者ギルドの受付へと向かう。
「いらっしゃいませアキラさん!」
いつも通りのその営業スマイルの後、ミリアさんは視線を俺の左右に巡らせた。
「……あれ? ミヤさんは今日はご一緒じゃないのですか?」
「ええ、ちょっと疲れてるみたいなんで今日は休みです」
「そうですか……お大事にとお伝えください」
その後のやりとりもミリアさんはいつも通りだった。
まあこの人は多分、ミヤの方が大王河童ロブスターを倒したと思っているからいつも通りの反応なんだろうけど。
「それで今日はどうしますか?」
「そうですね、Fランクの依頼を受けたいんですが……」
少々お待ちくださいとミリアさんは台帳のようなそれを捲り始める。
その作業の途中、後ろで聞こえた声に変化があった。
「Fランク?」「あいつFランクなのか」「FランクがBランク倒せるのか?」「そもそもあいつって誰だ」「噂の出所が確かパールドだろ」「嘘っぽいな」
俺に対しての噂話に懐疑の声が上がっているようだった。
まあこのまま何事もなかったかのように無くなってくれるのが一番だが。
そんなことを考えていると、
「お待たせしました」
とミリアさんの声が上がる。
「現在Fランクが受けられる依頼はこちらになります」
机に上がった紙は一枚。
それは見たことのある依頼だった。
【依頼No】81
【依頼名】リンリンゴ討伐チームの募集
【報 酬】出来高制
【内 容】レアモンスターリンリンゴを倒し、ドロップ品の黄金リンゴを手に入れるための討伐メンバーの募集。腕に自信のある冒険者募集。
「一つだけですか?」
「そうですね、今日は今のところ他にFランクが受けられる依頼はありませんね……」
「うーん」
今日はどちらかというと冒険者ランクのポイントを稼ぎたかったし、
よい依頼があったら受けようと思ったけど……この依頼は前から残っているしどうなんだろう?
「この依頼は前からずっとあるんですか?」
ミリアさんは頬を書きながら、苦笑した。
「そうですね、かれこれ1週間ずっと依頼がありますね。リンリンゴが全然見つからなようないそうで」
「そんなレアモンスターなんですか?」
「滅多には見つからないとはいえ、ここまで見つからないのは珍しいですね~」
そう言いながら、ミリアさんは台帳よりその依頼内容がより詳細に書かれた紙を取り出した。
どうやら興味を持ったと思われたらしい。
「全然見つからないので、報酬がかなり上がっています。黄金リンゴを手に入れることが出来ましたら、今なら金貨10枚ですね」
「金貨10枚!?」
驚きで声をあげる俺だが、冷静になってもそれは間違いなく大金だ。
1ヶ月は何もしなくても困らない生活を送れるだろうその報酬。
すっかりその気になった俺はミリアさんに色々と依頼内容を聞くが、以下のことが分かった。
・依頼内容が達成できなくても1日に一定の報酬とポイントは保証されている
・リンリンゴ自体が弱く、生息している場所のモンスターもFランク冒険者でも十分倒せるくらいなので比較的安全な依頼だということ
「ただ他のランクの方も結構参加されているので、リンリンゴの競合率は若干上がっていますが……」
聞けば十数人の冒険者が参加しているらしく、最高でCランク冒険者がいるらしい。
「ただそれを含めても良い依頼かと思います」
そうミリアさんは締めくくる。
確かに悪くはないな。
仲間が欲しいと思っていた俺にとって、
幾らか交流がありそうな依頼は好都合だし、何より報酬が凄まじいし。
そう思った俺は、この依頼を受けることにした。
依頼を受理するとミリアさんはにっこりと笑みを浮かべながら、ある物を机に置いた。
「では、ここが依頼集合場所になります。詳しくはそこにいる依頼主のクラードさんの指示に従ってください。いけば分かると思いますよ」
お気をつけてと言うミリアさんの言葉に軽く会釈で返した後、
俺は渡された地図を手に冒険者ギルドを後にした。
* * *
地図に描かれた集合場所は、ナルバッツ平原という場所の入り口らしい。
俺は地図をもとにその場所へと向かう。
「……しかし、レアモンスターか」
リンリンゴというそのモンスターを妄想で頭で思い浮かべながら、俺は思う。
「1週間も見つからないんだからかなり見つけにくいんだろうけど……金貨10枚は欲しいよなぁ」
とはいえ、現実世界の俺は特別運が良かったは試しはない。
こういうのは期待しないくらいがちょうどいい……いや待てよ。
「とどのつまり、運だよな」
うん、運だ。
だとすれば……。
俺は人に見つからないように路地裏に入り、ステータスと心の中で唱えた。
【 名 前 】 アキラ
【 職 種 】 魔法使い
【 レベル 】 17
【 経験値 】 6000(次のレベルまで1499)
【 H P 】 960/960
【 M P 】 10/10
【 攻撃力 】 2523
【 防御力 】 640
【 俊敏性 】 113
【 運 】 113
【 スキル 】 なし
【特殊スキル】 アナグラム……【アナグラムで遊べる】
「……運だよな」
俺はある部分を弄り始め、ステータスを変更する。
「とりあえずは特化でいこう」
やりすぎないようにそこのステータスを整える。
「……にしてもステータスを弄れるなんて不思議だな」
なんかいろいろできそうだし、
今日の依頼が終わったら、もう少し調べた方が良さそうだな。
そんな決意を抱きながら、
俺は路地裏から抜け出し、集合場所へと駆け出した。
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