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第二章 「神に愛されなかった者」
#32 探し求めた人物 / アナグラムの活用と制限その1
しおりを挟む興味深いものを見た。
そして彼が、私の探し求めていた人物なのかもしれないと思った。
彼の名はアキラ、というらしい。
手加減しても達人級の攻撃力で、底しれないその能力。
さらには、神に愛されなかった者を助けるという普通では考えられない行動をするその彼。
私の常識からすれば、ありえない存在。
まったくもってイレギュラーだ。
「一体、何者なんだろうね?」
彼が何者かは分からない。
だが、私が探し求めていた人物として、今までで一番の存在であることには間違いはない。
もっとも、まだ情報が足りないが。
「……もう少し本質が見たいところだけど」
能力は申し分ない。
だが恐らく、彼には実績も覚悟もないだろう。
彼がどういった人物か判断するには、先の行動だけでは不十分だ。
「だからこそ、これからの展開が楽しみ」
彼は神に愛されなかった者を助けた。
そして、成り行きとはいえマリス教の教徒に手を出した。
そんなことをされて、マリス教が黙っていないだろう。
それほど遠くない未来、マリス教が動く――あの少女を殺しに。
「うん、大変だね」
正直、これからどうなるか想像もつかない。
唯一分かるのは、この事件は簡単にはいかないということだけだ。
「でも、もしこれで」
彼がこの事態を乗り越えることができたなら。
素晴らしい結末を迎えることができたなら。
あの我儘なあの方に伝えよう。
探していた人物が見つかった、と。
「……様」
できるなら、あの方を支えてくれる存在に。
そして、理想を言えば、並ぶ存在になってほしい。
エルバッツの未来は、
もしかしたら、彼にかかっているのかもしれない。
「期待してるよ」
勇者候補の、アキラ君。
* * *
翌朝。
眩しい光を瞼に感じると、俺は寝ぼけ眼をゆっくりと擦った。
もやもやとすっきりしない頭に欠伸で空気を流し入れる。
「……あんま寝れなかったな」
理由は言わずもながらだが、当の本人はまだスヤスヤと眠っている。
規則正しい寝息を立てながら、可愛らしい寝顔を浮かべるナナ。
そのどこかのどかな光景を見ながら、もう一度大きく欠伸をしようとした瞬間。
「アキラー起きとるかー!」
朝の寝起きの脳にガンガン響く大声。
それと同時に、勢いよく部屋の扉が開けられた。
「今日からうちとトラッキー復活やで! 昨日休んだから元気が有り余っとるし、早速行こうや!」
いつもならこの時間は眠そうな顔をしているミヤだが、言葉通り元気が有り余っているらしくぶんぶんと身体を動かしていた。
「……ああ、分かった」
寝不足で調子は優れないが、もう起きる時間だろうと俺は立ち上げる。
勢いよく身体を伸ばした後、俺は身支度を始める。
と、そんなことをしていると、ある昨日の考えがぽつりと浮かんだ。
「……そういえば、アナグラムだ」
アナグラムの実験。
昨日、ステータスを入れ替えた時に思ったそれ。
昨日の夜は色々あって試せなかったが、ここで一つアナグラムの実験でもしてみるか。
人の目につく外ではできないし、いい機会、時間だろう。
「ミヤ、ステータスを見せてもらっていいか?」
「……ん? 別にええけど?」
【 名 前 】 ミヤ
【 職 種 】 魔物使い
【 レベル 】 9
【 経験値 】 777(次のレベルまで233)
【 H P 】 75/75
【 M P 】 10/10
【 攻撃力 】 43
【 防御力 】 32
【 俊敏性 】 13
【 運 】 10
【 スキル 】 虎A使い……【Aランクまでの虎系モンスターをペットにすることができる】
【 ペット 】 トラッキー《ユニコーンタイガー LV50》
「ちょっと弄るぞ」
「はへ?」
すっと俺がミヤのステータスに手を伸ばし指で触れると、ミヤの経験値の数字であった【7】が指と連動する。
そして俺はその【7】を俊敏性の末端に置いた。
【 名 前 】 ミヤ
【 職 種 】 魔物使い
【 レベル 】 9
【 経験値 】 77(次のレベルまで233)
【 H P 】 75/75
【 M P 】 10/10
【 攻撃力 】 43
【 防御力 】 32
【 俊敏性 】 137
【 運 】 10
【 スキル 】 虎A使い……【Aランクまでの虎系モンスターをペットにすることができる】
【 ペット 】 トラッキー《ユニコーンタイガー LV50》
「どうだ?」
「何か体が軽くなった気がするわ……。後、初めて使うところ見たけど、変な能力やね」
「そこに関しては、異論はない」
ここでアナグラムが他者にも使用可能だということが分かった。
他者のステータスも弄れるとなると、ステータスを開示させることさえできれば色々できそうだな。
「後、試したいことは……」
他者同士のステータスを入れ替えや譲渡ができるのかどうか。
とりあえず俺のステータスとミヤのステータスで試してみよう。
早速俺は自分のステータスから【0】の数字を指と連動させた。
そしてその【0】をミヤのステータスへと持っていこうとするが……それは弾かれるようにミヤのステータスから離れた。
「あれ?」
貼り付けられない?
ん? 何で?
その後も色々試行錯誤するが、
ミヤのステータスに俺のステータスの数字が張り付くことはなかった。
「……う~ん、アナグラムの意味的な制限なのかこれ?」
俺の記憶にある、アナグラムの意味。
単語または文の中の文字をいくつか入れ替えることによって、全く別の意味にさせる遊び。
ここでいう文の意味が"一つのステータス"を指すならば、"他者のステータス"は別の文ということになる。
それぞれが別物なので、アナグラムの意味にはそぐわないということなのだろうか。
「多分、そんな感じか?」
とりあえず、この事象から以下のようなことが分かった。
他者同士のステータスの文字を入れ替え、譲渡はできない。
もっとも、先の仮定は未だ想像の域を超えないので、"条件"を満たしていないからできないのか、それともそういう"仕様"なのかはまだ謎だ。
ここも色々実験の余地はありそうだな。
「で次は、考えられる最後の実験だな」
文字の入れ替え。
この入れ替えができるかどうか。
「とりあえず俺の文字を適当に入れ替えてみるか」
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