48 / 63
第二章 「神に愛されなかった者」
#46 立ち位置
しおりを挟む「トラッキー、ホーリーフレイムやで! 火力抑え目でな!」
声の方向から地面を伝うように広がる、神々しい光の炎。
視界が眩しさでちかちかと点滅する中、そいつはまるで白馬の乗った王子のように颯爽と現れた。
「うち、参上!」
トラッキーにまたがり、大げさに自分の存在を主張をするそいつ。
ホーリーフレイムの炎が立ち昇り、マリス教の包囲網の一部がそう崩れになる姿を見て俺は苦笑する。
「見事に炎上してるけどな、火消し屋」
そんな軽口が叩けるほど、そいつの登場は俺にとって大きかった。
その言葉を受けるとミヤは気持ちの良い笑顔を浮べたが、直ぐに真顔に戻る。
「そんなことを言ってる暇ないで、さっさとずらかるで!」
その言葉に、俺は頷く。
素直に付き合う必要なんてない。最初から俺の一手はずっと、逃げられたら"逃げ"だ。
トラッキーの攻撃が切り開いた道。
そこへ向けて、俺たちは走り始めた。
「――逃げる、という選択肢は与えなかったはずですけどね」
突然の事態と攻撃に、慌てふためき騒然となる、マリス教の面々。
そんな収拾がつかないその中でも、シンシアだけは微笑みを絶やさずにこちらを見ていた。
* * *
ミヤとトラッキーを先頭に、俺たちは街外れを目指す。
この街にいる限り、マリス教の魔の手からは逃れられないだろう。
そんな逃走の最中、俺はミヤに率直な疑問をぶつけた。
「そういえば、なんであそこにいたんだ?」
「え、はへ? そ、そんなん、あんな大層な攻撃があったら誰でも気づくやろ」
「……まあ、そうかもな」
何か釈然としない返答だったが、こればかりは今、気にしてもしょうがない。
ミヤに救われた事実と幸運に感謝し、俺は小さく礼を言った。
「まあええってことや、"もちは胃でもたれつ"っていうしな」
持ちつ待たれつと言いたいんだろう、と俺は何となく察した。
そんなこんなやりとりもそこそこに、ミヤは小さく息を吐いた。
「……にしても、中々しつこい奴らやな」
後ろに視線を向け、うんざりといった顔をするミヤ。
ホーリーフレイムで随時足止めを図るものの、追ってくる教団員の数は一向に減らない。
ていうか、むしろ増えている。
その理由は簡単だ。
「またやね」
前方に立ちふさがるのは、普通の一般人。
――最初の頃、俺たちは何の疑いもせずにそう思っていた。
「――邪鬼、覚悟!」
だが、それはあくまで修道着を着ていないだけのマリス教徒。
一般人に扮した、マリス教団員が道行く先で俺たちを待ち構えていた。
「ああ、もううっとうしいわ!」
ミヤの攻撃と、トラッキーの加減した攻撃で何とか道を開くが。
正直キリがなかった。先ほどからこういった事象が顕著に見られ、後ろについてくる教団員が増えていくという負のスパイラル状態だった。
『マリス教の最大の強みは、圧倒的な数の多さ。それはエルバッツの三大勢力でも群を抜いている』
フィリーの言葉が脳内に響く。
『正式な修道着を包んだ教団員よりも、一般人の立場として教徒の方が圧倒的に数は多いよ。それに、そういった一般人の彼らはどこにでもいる。このエルバッツにいる限り、いつでも、どこにでも、彼らは存在すると考えた方がいい』
その言葉通りの事象が、そのまま繰り返されていた。
湧き出る源泉のようにとめどなく、教団員が増えていく。
「邪鬼、覚悟!」
「もう、これ何回目やねん」
そんな事象が続くと、必然的にすべてがすべて疑わしく見えてくる。
逃走中に目に入る、本当の住民の全てがマリス教に見えるほど。
「え、何々何があったの?」「マリス教が動いてるらしいよ」
……だが、それはあながち間違っていないかもしれない。
"普通の住民"は、マリス教の味方だった。
「神に愛されなかった者らしいよ!」「不吉ね」
俺らに対して彼らから向けられるのは、蔑むような視線。
頻繁に飛んでくる石やガラクタは、悪意を孕んだ小さな攻撃。
「×××いいのに」「×××××なのにね」
そして、雑音は全て、心無い言葉だ。
全て俺らが悪として扱われる罵倒の言葉が、耳にこびり付き木霊する。
『仮に君とマリス教が相対した時、世間は間違いなくマリス教の味方になる』
分かっていたことだが、心にくるものがある。
もっとも、一番それを感じているのは背中にいる少女だろう。
「……」
震えは小さく、時に大きく。
無言の泣き声が、耳にひどく刺さる。
「優しくあらへんな、ここは」
「……ああ」
そんな街の中を駆けること、数分。
街外れまでもう少しというところで、前方にそれは見えた。
吐き気を催す、純白の白が。
「「「マリス教万歳!! マリス教万歳!!」」」
その集団は存在を隠すことなく、道をふさぎ、大合唱を行っている。
そして、こちらが一定の距離に近づいた瞬間、その合唱は何やら呪文に変わった。
――転移魔法、ユペル。
先ほどまでの教団員は、合唱の余韻のみを残し、全て霧のように消える。
そして、その変わりに地面から生え出る様に現れた、一つの集団。
見覚えのある、面々。
「――こんにちは邪鬼さん、そしてお連れの方」
中心にいる、その人は虫唾が走るほど美しい。
柔らかな微笑みは目を細めるのを通り越して、視界から消え去ってほしいくらい。
「マリス教大司教シンシアと申します。二度目のご挨拶になりますね」
また。
目の前に、天使みたいな悪魔が現れた。
1
あなたにおすすめの小説
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!!
2巻2月9日電子版解禁です!!
紙は9日に配送開始、12日ごろに発売となります。
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる