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第二章 「神に愛されなかった者」
#46 立ち位置
しおりを挟む「トラッキー、ホーリーフレイムやで! 火力抑え目でな!」
声の方向から地面を伝うように広がる、神々しい光の炎。
視界が眩しさでちかちかと点滅する中、そいつはまるで白馬の乗った王子のように颯爽と現れた。
「うち、参上!」
トラッキーにまたがり、大げさに自分の存在を主張をするそいつ。
ホーリーフレイムの炎が立ち昇り、マリス教の包囲網の一部がそう崩れになる姿を見て俺は苦笑する。
「見事に炎上してるけどな、火消し屋」
そんな軽口が叩けるほど、そいつの登場は俺にとって大きかった。
その言葉を受けるとミヤは気持ちの良い笑顔を浮べたが、直ぐに真顔に戻る。
「そんなことを言ってる暇ないで、さっさとずらかるで!」
その言葉に、俺は頷く。
素直に付き合う必要なんてない。最初から俺の一手はずっと、逃げられたら"逃げ"だ。
トラッキーの攻撃が切り開いた道。
そこへ向けて、俺たちは走り始めた。
「――逃げる、という選択肢は与えなかったはずですけどね」
突然の事態と攻撃に、慌てふためき騒然となる、マリス教の面々。
そんな収拾がつかないその中でも、シンシアだけは微笑みを絶やさずにこちらを見ていた。
* * *
ミヤとトラッキーを先頭に、俺たちは街外れを目指す。
この街にいる限り、マリス教の魔の手からは逃れられないだろう。
そんな逃走の最中、俺はミヤに率直な疑問をぶつけた。
「そういえば、なんであそこにいたんだ?」
「え、はへ? そ、そんなん、あんな大層な攻撃があったら誰でも気づくやろ」
「……まあ、そうかもな」
何か釈然としない返答だったが、こればかりは今、気にしてもしょうがない。
ミヤに救われた事実と幸運に感謝し、俺は小さく礼を言った。
「まあええってことや、"もちは胃でもたれつ"っていうしな」
持ちつ待たれつと言いたいんだろう、と俺は何となく察した。
そんなこんなやりとりもそこそこに、ミヤは小さく息を吐いた。
「……にしても、中々しつこい奴らやな」
後ろに視線を向け、うんざりといった顔をするミヤ。
ホーリーフレイムで随時足止めを図るものの、追ってくる教団員の数は一向に減らない。
ていうか、むしろ増えている。
その理由は簡単だ。
「またやね」
前方に立ちふさがるのは、普通の一般人。
――最初の頃、俺たちは何の疑いもせずにそう思っていた。
「――邪鬼、覚悟!」
だが、それはあくまで修道着を着ていないだけのマリス教徒。
一般人に扮した、マリス教団員が道行く先で俺たちを待ち構えていた。
「ああ、もううっとうしいわ!」
ミヤの攻撃と、トラッキーの加減した攻撃で何とか道を開くが。
正直キリがなかった。先ほどからこういった事象が顕著に見られ、後ろについてくる教団員が増えていくという負のスパイラル状態だった。
『マリス教の最大の強みは、圧倒的な数の多さ。それはエルバッツの三大勢力でも群を抜いている』
フィリーの言葉が脳内に響く。
『正式な修道着を包んだ教団員よりも、一般人の立場として教徒の方が圧倒的に数は多いよ。それに、そういった一般人の彼らはどこにでもいる。このエルバッツにいる限り、いつでも、どこにでも、彼らは存在すると考えた方がいい』
その言葉通りの事象が、そのまま繰り返されていた。
湧き出る源泉のようにとめどなく、教団員が増えていく。
「邪鬼、覚悟!」
「もう、これ何回目やねん」
そんな事象が続くと、必然的にすべてがすべて疑わしく見えてくる。
逃走中に目に入る、本当の住民の全てがマリス教に見えるほど。
「え、何々何があったの?」「マリス教が動いてるらしいよ」
……だが、それはあながち間違っていないかもしれない。
"普通の住民"は、マリス教の味方だった。
「神に愛されなかった者らしいよ!」「不吉ね」
俺らに対して彼らから向けられるのは、蔑むような視線。
頻繁に飛んでくる石やガラクタは、悪意を孕んだ小さな攻撃。
「×××いいのに」「×××××なのにね」
そして、雑音は全て、心無い言葉だ。
全て俺らが悪として扱われる罵倒の言葉が、耳にこびり付き木霊する。
『仮に君とマリス教が相対した時、世間は間違いなくマリス教の味方になる』
分かっていたことだが、心にくるものがある。
もっとも、一番それを感じているのは背中にいる少女だろう。
「……」
震えは小さく、時に大きく。
無言の泣き声が、耳にひどく刺さる。
「優しくあらへんな、ここは」
「……ああ」
そんな街の中を駆けること、数分。
街外れまでもう少しというところで、前方にそれは見えた。
吐き気を催す、純白の白が。
「「「マリス教万歳!! マリス教万歳!!」」」
その集団は存在を隠すことなく、道をふさぎ、大合唱を行っている。
そして、こちらが一定の距離に近づいた瞬間、その合唱は何やら呪文に変わった。
――転移魔法、ユペル。
先ほどまでの教団員は、合唱の余韻のみを残し、全て霧のように消える。
そして、その変わりに地面から生え出る様に現れた、一つの集団。
見覚えのある、面々。
「――こんにちは邪鬼さん、そしてお連れの方」
中心にいる、その人は虫唾が走るほど美しい。
柔らかな微笑みは目を細めるのを通り越して、視界から消え去ってほしいくらい。
「マリス教大司教シンシアと申します。二度目のご挨拶になりますね」
また。
目の前に、天使みたいな悪魔が現れた。
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