アナグラムの勇者 ~異世界を書き換えるリライトスキル~

ぎゃもーい

文字の大きさ
47 / 63
第二章 「神に愛されなかった者」

#45 ピンチと希望と、時々、火消し屋

しおりを挟む
 ……甘さ。

 甘い、と言われればそれまでだろう。
 先ほどの攻撃に、殺す気なんてない。

 人殺しは悪。してはいけない。
 そう遺伝子レベルで刻み込まれているのに、たかが数日で殺しの価値観など変わるはずがない。

 ――だが。

「次の攻撃は容赦はしない」

 少なからず覚悟はしている。
 背中の少女を護るために、血塗れられる覚悟は。

「――浅い覚悟ですね」

 それの言葉を受けてもまだ、シンシアは笑う。
 まるで、俺の言葉が偽りだと言うように。

「殺さなくていいなら殺さない方法を選んだ――そんなあなたの言葉ですから、軽いです」

 先ほどの攻撃のことを言っているのだろう。
 もちろん、先ほどの攻撃で圧倒的な力の差で相手が怯んで、諦めてくれるのが一番だった。

 だがその俺の力を見ても、シンシアはその微笑みを崩さなかった。
 彼女は既に生に執着していないかもしれない。それとも、恐怖という感情がないのか。

「でも、そうですね」

 そんな不変の彼女だが、一つだけ明らかな変化はあった。
 それは、言葉だ。

「そんな甘いあなたに、よいことをお教えします」

 正攻法の攻撃よりも、言葉を発することを選んだ彼女の真意。
 嫌な、胸騒ぎがした。

「大司教の命令は、私が死んでも一生残り続けます」

 心臓の鼓動と共に。
 小さな不協和音は、次第に大きくなる。

「――そもそも、邪鬼は始末するのはマリス教の絶対使命です。例え私が死んでも、マリス教が一人になってもその邪鬼は狙われ続けます。それにマリス教がいなくなっても、その邪鬼は虐げられます」

 その言葉は剣よりも重く、鋭利だ。
 そして、救いのない事実は、何よりも重い。

「あなたがもし、その邪鬼を本当に救いたいのであれば、私たちを皆殺しにしてください。そうでもしない限り、私たちは一生その子を殺しにいきます」

 単純に、彼女はこういっている。
 選べ、と。

 ナナを助けるために皆殺しにするか、ナナを見捨てるか。
 その選択しかお前には与えられていないと。

「そうでなくては、一生戦禍は終わりません」

 背中の後ろにいる、少女の荒い息遣いが、俺の鼓動と重なる。
 強く噛みしめた口の中に、薄らと血の味が広がる。

 ――なんで、この少女をこんなにも苦しめるんだ?

「なんで、そこまで、こいつを苦しめるんだ?」

 息をしている、心臓が動いている、生きている。
 ただの少女を、なんでそこまで虐げる。

「こいつが、お前らに何をしたんだよ?」

 俺の言葉に、シンシアは間髪を入れず答える。

「"神に愛されなかった者"だからです」

 人は何故死ぬのかという質問をされたかのように、シンシアは答える。

「それ以外の理由はありません」

 抑揚のない言葉が、全く同じ間隔が流れた。

 言葉を発した直後の一瞬、そのシンシアの笑みが崩れた気がしたが。
 すぐにその表情は、微笑みへと戻った。

「それでは、おしゃべりは終わりにしましょうか?」

 シンシアが、両手をあげる。
 多分、攻撃が始まろうとしている。

 そんな中、俺の心に芽生えた火種。
 釈然としない、納得できない思いが徐々に強くなる。

 ――この世界は、理不尽だ。

「総員」

 シンシアが、俺たちに手を向ける。

 ――この背中にいる少女に対して、あまりにも理不尽だ。

「逆方円の陣」

 ――世界の全てが、理不尽だ。

「光の矢」

 ――ルール。常識。決まり。全てが全て、理不尽だ。

「攻撃準備」

 ――そう、あの元凶スキルも含めて、全て。
 ――そんな理不尽なもの、全てを。




 ――× × × × て し ま え ば い い の に。





「――え?」

 俺は今、何を考えた?
 何を? どう考えた?

 必死にそれを思い起こそうとするが、それはすぐに霧散した。
 何かを考えたはずなのに。そして、何かが見えたはずなのに、それは消えた。

 一瞬だけ、見えた気がした。
 希望の、救いの、奇跡の、答えのヒントが。

 だが、それは消えた。

 あともう少しで、届きそうな気がしたそれが。
 その"答え"が、するりと俺の手から逃げていった。

「――っ!」

 その熱っぽい思考の後に残ったのは、もどかしさとどうしようもない現実。
 視界に映る、分厚い包囲網で完全にマリス教に囲まれた光景。

「さあ選んでくださいね、あなたの答えを」

 どこから突破しようとしても、無事では済まないだろう。
 さらに運の悪いことに、その包囲網のほとんどが"普通"の教団員で構成されている。

 彼女に攻撃を見せたのは、最大のミスだったらしい。
 加減ができないという弱点を見抜かれている。

「――全員、一斉攻撃準備」

 俺の甘さに付け込む、そのシンシアの策。
 俺の"本当の覚悟"を試すように、彼女は笑う。

「さあ、血まみれになりましょう」

 ――覚悟は、できている。
 ――一人や二人くらい。

 護るために、覚悟の拳を握り締めた俺。
 噛みしめた唇がぷちりと切れた瞬間、血の味が広がった。

「……」

 静寂は、嵐の前の静けさ。
 その攻撃の予兆が最高に高まった瞬間。


 場違いな、
 それは聞こえた。


「――ピンチの時に、現れる」


 その聞き慣れた、甲高い声は。


「それが火消しリリーフエースやで!」


 救いの鐘のように、俺の心臓を鳴らした。
しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日ごろに発売となります。 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...