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第二章 「神に愛されなかった者」
#44 正当防衛と絶えない微笑み
しおりを挟む背中で震える少女。そして、目の前に現れた数多のマリス教団員。
目の前に広がる状況は、どう都合よく解釈したって笑えない。
「はぁ」
絶対に避けたかった光景が視界に映る。
素直にやり合うつもりがない俺は、もちろん逃げに徹する。
「――やってやれるかよ」
逃げようと踵を返すが、後ろの路地裏にもまた白が広がっていた。
路地裏から湧き出るねずみのように、白服の修道士がぞくぞくと増えていく。
……うん、囲まれた。
ナナがいると、囲まれてばっかりだな。
一昨日のことを思い出しながら、俺は深い溜息を吐く。
記憶にあるそれに、今の光景は似ていた。
だが、一つ決定的な違いがある。
目の前にいる敵が、"人"だということだ。
「逃がしませんよ。その邪鬼を、神の元に返すまでは、ね」
静かにゆっくりと言葉を発する、シンシア。
その佇まいからは、上に立つもの貫録、そして上品さが感じられる。
そんな太陽のような存在感を放つ彼女とその周辺。
視界に移るその光景は、刻一刻と状況を悪くなっていることを示唆する。
シンシアの"光"で今まで気づくことができなかった、周りの人物。
彼らにもまた、俺は見覚えがあった。
「――幹部さんも総出かよ」
普通の教団員とは違う服装、そしてフィリーの情報紙で見たことのある顔ぶれ。
最もよく知っているムンク似の顔も、漏れなく発見することができた。
殺意を隠さない、そのオルソンの眼光。
蔑視する視線、虫けらを見るような視線、そんな幹部たちの視線が俺たちに向けられていた。
そんな胸糞悪くなる視線の中。
中心のシンシアだけが柔らかな笑みを浮かべていた。
「そこの方、邪鬼を渡してくれませんか? あなたには別段興味ありませんので、邪鬼さえ渡してくれればあなたは見逃してあげますよ」
安っぽい交渉文句に、俺は小さく苦笑した。
本気で言っているのか、冗談で言っているのかは分からないが、俺はその言葉に返答する。
奴らにとっては、皮肉に聞こえるかもしれない言葉で。
「邪鬼なんてどこにもいません。だから、見逃してくれませんか?」
邪鬼なんて、どこにもいない。
俺の背中にいるのは、ただの少女だ。
「……」
俺のその言葉が、沈黙を呼ぶ。
幹部たちが失笑気味に笑う中、シンシアだけはゆっくりと目を閉じた。
「……そうですか、残念です」
言葉の通りに悲しげに、交渉決裂を残念に思う表情を浮かべるシンシア。
だが、すぐにその表情は余韻を残すこともなく消えると、彼女の表情は微笑みへ戻る。
口角が、ゆっくりと上向いた。
「――だったら、死んでください。名も分からぬ、咎人さん」
鋭利な光の塊が、彼女の後ろに十本、数十本、数百本、と増えていく。
天使の歌声のような詠唱が、光を集約していく。
「――千の光の幾連射」
光の矢の弾丸が、閃光のように瞬き、放たれる。
空気の唸る音。それは地面に届いた瞬間、爆発音に変わる。
轟轟と地割れのように、石畳の地面がめくりあがる。
それが雨のように絶え間なく降り注ぐ光景。
こんな攻撃、普通は避けられるはずない。
恐らく1、2回当たっただけで致命傷、数発当たれば普通は死ぬ。
確実に殺しにきてる、その必殺の攻撃。
「――だったらもう」
"普通"の人なら、即死だ。
教団員たちもそんな思いを抱いていて戦況を見つめていたのだろうが、直ぐにその表情は一変する。
「ここからは正当防衛だな」
決して無傷ではいかないが、俺にとっては"普通"の攻撃。
まだ"普通"に耐えれる範囲だ。
バチバチと音を立てるその攻撃を受けながら、
俺は狙いをしっかりと見据えた。
「――こっちも痛い思いしてるんだから」
だから、少しくらいの痛みは我慢してくれよ。
そう思いながら、俺は地面を蹴った。
ナナを背負いながら、俺は直進する。
下手に避けようとするとナナが危ないと考えた俺は、こちらに向かう攻撃を全て受けた。
流石にこのレベルになると、普通に痛い。
それでもまだ小石が飛んでくるレベルだから、【アナグラム】様様だ。
俺はその断続的な小さな痛みに耐えながら、集団の"頭"への距離をつめる。
「――集団と戦う時は、頭をたたく」
その鉄則を俺は実践する。
こんぼうを俺は右手に構えながら、ムンクの叫びのポーズをするそいつを見据えた。
――まだ感触は覚えている、幹部だったらこれくらいの攻撃で死ぬなよ。
「うら!」
手始めに、ムンクのオルソンにこんぼうの一撃をお見舞いする。
鈍い衝撃を受け取り、響くのは肉の打ち付ける音。そして、甲高い叫び。
前と同じような反応をしてくれたので、
俺はその感触を残したまま他の幹部たちにも流れるように攻撃を行う。
肉音と金属音が交互に入り乱れ、幹部の反応も様々だ。
だが、手ごたえ自体はある。
「――はっ!」
もちろん、攻撃による影響は幹部の各々によって違うらしいが、
少なからずダメージは与えられたようだ。
オルソン他はぐたりと膝を突き、他の数人も苦痛に顔をゆがませている。
「最後はおまえだ」
流れの行きつく先。
ぼんやりと戦況を見ていたシンシアに、最後の一撃を浴びせる。
「ふっ!」
勢いのまま流れたその攻撃は、程度の良い攻撃になったはず。
――だが、その攻撃に感じるのは、違和感。
薄っぺらい紙きれを破ったかのような弱い感触を受け取ると。
刹那、響くのは、ガラスが割れたかのような音。
バリバリバリと、何かが弾けた。
「――なるほど、そうですか」
見えない何かの力で攻撃を防いだらしい、シンシア。
他の幹部たちは異なり、全くの無傷な彼女。
一糸乱れぬ佇まいと表情を崩さない彼女は、
その透き通った青い瞳で俺をじっと見据えていた。
「ふふふ」
微笑みが、満面の笑みに変わる。
ぞくりと。笑みを浮かべた彼女に、無償の不安を覚える俺。
反撃を食らわないための距離よりさらに遠く。
俺は後ろに下がり、距離を取った。
「中々お強いですね、お連れの方」
豆鉄砲を食らった顔をする幹部たちとは裏腹に、
彼女だけはただ笑っていた。
「あなたの全力なら、私は確実に死にましたよ」
大好きなプレゼントを受け取った少女のようなその表情で。
死を目の前にしたはずの彼女は、さも冷静に、客観的に言葉を述べた。
「なのに、甘いんですね」
艶やかなその唇が、ゆっくりと弧を描いた。
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