アナグラムの勇者 ~異世界を書き換えるリライトスキル~

ぎゃもーい

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第二章 「神に愛されなかった者」

#53 ありふれた日常と

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『仰せのままに。大司教様』

 シンシアのその言葉により、争いは呆気無い幕引きとなった。
 まるで白昼夢のようにその出来事は終わりを告げる。

 ナナが出したお願いは三つ。
 一部フィリーの知恵が混ざっているが、簡単に言えば以下の通りだ。

 一つは、どんな人にもやさしくすること。
 一つは、自分自身を大切にすること。
 一つは、大司教の仕事はしたくないのでシンシアに委任するということ。

『分かりました』と。

 その何とも幼稚でアバウトなお願いを、
 シンシアは何のためらいもなく飲んだ。

 そんな訳で、俺たちもマリス教も自警団も争う必要がなくなると、
 当然、全員が全員がこの場にいる意味など無い。

『解散だな』

 大勢いた教徒、団員たちは互いの指揮官の指示の元、そそくさと姿を消した。

 特にシンシアの手際は見事だった。
 ざわつくマリス教への一喝、統制は流石元大司教といったところだ。集団を捌く手腕は見事なものだった。

 そのおかげもあり、大きな混乱といった混乱はなくその場は終結する。
 まだまだやることは山積みだという顔をシンシアはしていたが、やがてナナへと傍から見ても格式高そうなペンダントを渡した。

『マリス教の全権を持つことを示す証です』

 それを渡すとシンシアは、俺たちに詫びをしたいといった。
 ナナはいらなそうな顔をしていたが、せっかくなので俺は何か金品をいただく提案をした。

『それくらいならお安い御用です』

 その約束を取り付けると、続けてシンシアはナナにマリス教の大聖堂に住むことも提案した。
 が、ナナがこれを全力で拒否――いままで通り俺たちと住むことになった。まあ俺も心配だったし。

 だがナナは大司教の仕事はしないものの大司教がいないと色々不味いので、
 一週間に一回は顔を出すということで手を打った。

 で、その際に、

『あなたがいれば護衛を付ける必要はないと思いますが――大司教様に何かありましたら、許しませんよ』

 というありがたいお言葉を頂いた。それに対し、

『弟に何かしたら許さないからな』

 というリンディルの買い言葉が送られて、また色々始まった。
 その両者は喧嘩別れのような感じにはなったが、あの二人には一体何があるんだろうか?

 そんなこんなの二人が去った後、
 最後まで俺たちと一緒にいたフィリーも手をぶらぶらさせながら去っていった。

『中々面白いもの見せてもらったよ~、また近日お邪魔するね』

 そう、フィリーが別れを告げると。
 この場に残るのは、再び三人と一匹になった。

 ……とまあそんな訳で、俺たちはある意味日常を手に入れた。
 一人の少女の変化と共に。


 * * *


 バタバタした朝とは裏腹に、何もない昼を過ごすと景色はもう茜色。
 その夕暮れを見て、どこか感慨深くなった俺は小さく息を吐いた。

『あのひの、ぱんがたべたい!』

 ナナがそう言ったので、俺は夕飯の買い物ついでに街に出ていた。
 ミヤとナナは何かするとのことで宿で留守番をしている。

「さてと、この辺だったよな」

 極力お金を使いたくなかった時に買った、美味しいとは言えないその安いライ麦パン。
 その他にも様々な食品を買い、それを片手に俺はぶらぶらと帰宅する。

 一部の街人からの視線がおかしかったが、
 俺はそれに構わず帰路を進む。

 宿の部屋の前に着くと、
 部屋からそのおかしな声が飛んでいた。

「――やで!」
「?」

 俺は首を傾げながら、ドアをノックして入った。

「帰ったぞ……って、何してたんだ?」
「アキラ、おかえりーな。言葉を教えてたんや」

「ああ、なるほど」

 視界に入るのは、言葉を教わる普通の少女。
 神に愛されなかった者は、そこにはもういない。

 目の前にいるのは、一人の少女だ。
 金色の髪をした、綺麗な翡翠色をした瞳を持つ、エルフの少女。

 言葉も、名前も持つ、何の変哲もない少女。

「おかえり、アキラ!」

 綺麗な鈴の音のような声が響く。

 スキルのせいで少しばかり人よりも幸運になるかもしれないが。
 今までの人生が不幸だったんだから、それくらいご愛敬だ。

 いや、むしろ、今まで分だけ幸せになってほしいと俺は思う。

「買ってきたぞ、パン」

 買ってきたライ麦パンを渡す。
 あの日よりも近く、手渡しで受け取ったそのパンを、少女は大切そうに抱きしめる。

「アキラ……ありがと」

 その柔らかな風のような声が、耳を擽ったような気がした。
 屈託のない表情を浮かべるナナに、俺がほっこりとしていると。

 次に、ナナの口からとんでもない言葉がでてきた。

「……やねん?」

「は?」

 台無しだ。
 エセ関西弁のせいで、台無しだ。

 俺は勢いよく、ミヤへと振り向く。

「こらぁああああああああああミヤぁお前!」
「す、すまんかったアキラ! ここは"やで"やな、ちゃんと言い聞かせるで!」
「違う! おおきに、だろう――って違う! そういうことじゃない!」

 そんなやり取りを不思議そうに見ていたナナ。
 やがて、その光景がおかしかったのか、その顔がどんどん弛んでいく。

 ナナが、笑った。
 それは俺たちに見せた、多分、初めての満開の笑顔。


「アキラ……ありがと!」



第二章「神に愛されなかった者(ナナ編)」
         完





「……やねん?」

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