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第三章 「魔王VS姫騎士 ~クラウンプリンセスとアナグラム~」

#58 強制力

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 視界が、瞬く。
 そして、口の中にほんのり広がる鉄の味。

「――っぅ!? 俺、まだ勝負すると……は言ってない……よ、な」

 膝をつきながら、何とか絞り出したその声に。

「先手必勝よ」

 そう答え、リリーナは笑う。
 何をされたが分からないが、攻撃されたらしい。

 リリーナから立った動作や攻撃した気配を感じなかったが、"物理的"に攻撃されたのは分かる。
 感覚では追えないようなデタラメな攻撃。

「……王に必要な力って、わかる?」

 体全身に重力を掛けられているかのように、身体が重い。
 立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
 
 訳も分からない攻撃が、目の前にいる女王の"目に見えない"力が、
 身体を自由にさせてもらえない。

「強制力よ」

 淡々と発したその言葉。
 そして、何事もないかのように涼しげな彼女の佇まい。

 敵う気が、しない。
 そう身体と脳が告げる。

 今、分かる唯一のことは、アナグラムで底上げしたステータスの俺でも彼女には敵わないということ。
 ――桁が違うんじゃない、"格"が違うんだ。

 今この暴力姫に逆らうのは、愚策だ。
 圧倒的な差を見て、俺の思考がそう傾く。

 刹那、リリーナが小さく瞬いた。

「――思ったより利口ね。自分の力量と立ち位置を素早く察知した」

 その言葉の最中に、謎の攻撃は止む。
 体にかかっていた力が無くなると、まるで鉛の重りを外されたかのように、体が軽くなる。

 俺が息を大きく吐きながら、何とか呼吸を整える。
 その動作が納まる頃、リリーナが手を差し伸べてきた。

「悪いようにはしないわ。私を信じなさい」

 女王としては不釣り合いに思える、努力の跡が見えた掌と。
 一転の曇りない、深紅の瞳がそこにはあった。


 * * * * *  


 エルバッツ大通り。
 リリーナを後ろ姿を見ながら、俺はそれについていく。

 いや、城に連行されているっといった方が正しいのだろうか?
 その割には全然拘束も何もないけど……当の姫が前を歩いているほどのゆるゆる連行だが。

 逃げようと思えば逃げれそう。
 いや無理か、この暴力姫から逃げれる気はしない。

 まあ今は従っておくのが無難だな。
 俺だって思慮分別ぐらいはできる、うん。

「姫様が、白昼堂々とこんなところ歩いて大丈夫なのか?」

 タメでいいと言われたので、軽口がてら、俺はそう尋ねた。
 護衛とかつかなくていいのか、と言葉の続きが口から出そうになった瞬間。

「大丈夫よ。私強いから」

 それを身に染みている俺にとって、
 至極真っ当なその答えに苦笑する他ない。

 姫のふるまいを微塵も感じさせない、まるで兵士のような足取りでずんずんと歩いていくリリーナ。
 乗り物ではなく、自分の足で地面を歩くというその姿は、とても王族には見えない。

「――姫様のお通りです!」

 先導するフィリーの掛け声。
 民衆が蜘蛛の子のように散って、道を開けた。

 そして、そのあとに向けられる視線。
 そのどこか負の感情を含んでいるようなそれは、何か薄気味悪さを感じさせる。

 それはどこか憎むような目。

「――気づいた?」

 フィリーの声が耳に届く。

「私嫌われてるのよ?」

 初耳だが、状況を察するにそれは正しいように思える。
 少なくとも民衆の反応を見るに歓迎はされてない。

「なんで?」
「性格じゃない?」
「ああ」

 合点が言ったという俺のなんともなしの言葉。

「そこは納得しないでもらえる?」

 にっこりと笑うリリーナ。
 だがその厚顔の中にある何かを感じると、悪寒が体の中を駆け巡った。

「まあいいわ」

 何事もないかのように、リリーナは歩を進める。

「それにこれから城内で話すことに比べれば、ちっぽけなものよ」
「何を……?」

 この姫はこんなにも強いのに、何で俺の力を求める?
 そして、一体何を考えているんだ?

 様々な疑問が俺の脳裏に渦巻く中、
 リリーナは半分だけ振り返り、その緋色の右目だけがこちらを見据える。

「この国の、"真実"と"まやかし"よ」


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みんなの感想(80件)

八神 風
2018.07.30 八神 風

更新停止からそろそろ1年経ちますよ❗️

解除
apot
2018.02.10 apot

生きてます?

解除
棗 多摩
2017.07.22 棗 多摩

やっと更新キタ―と思い開いたのですが...裏切られました。ショックです。ほんと、良い意味で裏切られ死にそうなほどショッキングでした。

なんですか!?あの可愛い生き物は!?
萌え死にしそう(? ?? ?)


っと、失礼しました。
暑い日が続きますが水分をよく摂って熱中症等体調不良にはお気をつけくださいませ。次回更新楽しみにしております。

ぎゃもーい

解除
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