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一
「王太子殿下。私にはその『酷い仕打ち』の心当たりがないのですが」
公爵令嬢カブエラは場違いに微笑みながら尋ねた。
王太子から婚約破棄を宣言され、悲しむか怒りを訴えるべき場面で。
「なるほどな。私の最愛の彼女を苛めたという自覚がないと」
「苛める…などそんな可愛らしい表現をされても、覚えがありませんわ」
くすくすと口元を隠してカブエラは笑った。
まるで目の前で子犬がじゃれ合っているのを微笑ましく見守っているような、そんか邪気の無い笑い方をする。
「殿下…」
「大丈夫。私はリリーシュアを信じているよ」
しがない男爵令嬢が無礼にも高貴な王太子殿下にすがり付く。
それを周りの人間は誰も咎めようとしない。
王太子殿下の側近も護衛も、対峙するカブエラへ厳しい目を向けている。
彼らはひ弱な男爵家の子女を悪から守っているつもりなのだ。
「私が『悪さ』をした証明でもあるのですか?」
「…そんなものは不要だ。リリーシュアの言葉が全てだ」
王太子は表情を変えなかったが、側近はぐっと拳を握った。
どれだけ奔走しても苛めの証明はできなかった。
カブエラは、実に巧妙に仕事をこなしたのだ。
おそらく協力者がいる。だが、カブエラに取り巻きはなく、特定できなかった。
「そうですか。現場を直接見たでもない。たった一人の証言を鵜呑みにする、と」
「リリーの怪我は確認している」
「怪我と私にどのような因果関係が?」
「貴様…」
カブエラは優秀だった。
それは厳しい妃教育から、陛下にも王妃にも認められている。
カブエラがこれほど強気なのは、抜かりはないという自信からだろう。
面に感情を出さなかった王太子がようやく態度を変えた。
眉を釣り上げ、瞳に怒りを映す。
「公爵令嬢カブエラ。貴様は王都からの追放を命じる。登城も二度と認めない。決定事項だ、これは絶対に覆らない。『我が名の元に』」
王太子は魔力を発し、魔導令を発生させた。
言葉に魔力を乗せる魔導令は、発言者が死ぬまで効力を発揮する。
しかし、一人では完成しない。独裁を可能にするこの力は、同意する者が必要となる。
この場にいる側近たちは見届け人、証人としてそれに魔力を流した。
「っ、!」
カブエラは思わず背中を丸めた。
彼女の背中に魔導令による烙印が押されたのだ。
「殿下…!?」
リリーシュアが悲鳴を上げた。
心優しい彼女は王太子がここまでするとは思っていなかったのだろう。
取り消してあげて、と必死に王太子に取り縋った。
「…そんなことしたら、妃の公務を…やってもらえな…」
リリーシュアの呟きは、周囲の側近たちの笑い声でかき消された。
公爵令嬢カブエラは場違いに微笑みながら尋ねた。
王太子から婚約破棄を宣言され、悲しむか怒りを訴えるべき場面で。
「なるほどな。私の最愛の彼女を苛めたという自覚がないと」
「苛める…などそんな可愛らしい表現をされても、覚えがありませんわ」
くすくすと口元を隠してカブエラは笑った。
まるで目の前で子犬がじゃれ合っているのを微笑ましく見守っているような、そんか邪気の無い笑い方をする。
「殿下…」
「大丈夫。私はリリーシュアを信じているよ」
しがない男爵令嬢が無礼にも高貴な王太子殿下にすがり付く。
それを周りの人間は誰も咎めようとしない。
王太子殿下の側近も護衛も、対峙するカブエラへ厳しい目を向けている。
彼らはひ弱な男爵家の子女を悪から守っているつもりなのだ。
「私が『悪さ』をした証明でもあるのですか?」
「…そんなものは不要だ。リリーシュアの言葉が全てだ」
王太子は表情を変えなかったが、側近はぐっと拳を握った。
どれだけ奔走しても苛めの証明はできなかった。
カブエラは、実に巧妙に仕事をこなしたのだ。
おそらく協力者がいる。だが、カブエラに取り巻きはなく、特定できなかった。
「そうですか。現場を直接見たでもない。たった一人の証言を鵜呑みにする、と」
「リリーの怪我は確認している」
「怪我と私にどのような因果関係が?」
「貴様…」
カブエラは優秀だった。
それは厳しい妃教育から、陛下にも王妃にも認められている。
カブエラがこれほど強気なのは、抜かりはないという自信からだろう。
面に感情を出さなかった王太子がようやく態度を変えた。
眉を釣り上げ、瞳に怒りを映す。
「公爵令嬢カブエラ。貴様は王都からの追放を命じる。登城も二度と認めない。決定事項だ、これは絶対に覆らない。『我が名の元に』」
王太子は魔力を発し、魔導令を発生させた。
言葉に魔力を乗せる魔導令は、発言者が死ぬまで効力を発揮する。
しかし、一人では完成しない。独裁を可能にするこの力は、同意する者が必要となる。
この場にいる側近たちは見届け人、証人としてそれに魔力を流した。
「っ、!」
カブエラは思わず背中を丸めた。
彼女の背中に魔導令による烙印が押されたのだ。
「殿下…!?」
リリーシュアが悲鳴を上げた。
心優しい彼女は王太子がここまでするとは思っていなかったのだろう。
取り消してあげて、と必死に王太子に取り縋った。
「…そんなことしたら、妃の公務を…やってもらえな…」
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