8 / 11
八
「何かございましたか?王太子殿下」
ソラスは王太子殿下に呼ばれ、執務室にやって来た。
「…貴様、裏切っていたのか」
憎々しげにソラスを睨む王太子に、はて?と首を傾げた。
一体どの件だろうか…?
思い当たるふしが多すぎてソラスには、王太子の不機嫌の理由がどれなのか皆目検討がつかない。
「なんの事でしょうか」
「私は、二度と愚かなことをせぬようカブエラを穢せと命じたはずだっ!そうしたらは、お前は『ならず者に売りつける』と言っていたではないか!」
「…あぁ~カブエラ様のことですか」
手を打って、思い出した。
それももう、三年も前のことだけれど。
「命令違反には処罰を与える」
「正規の命令ではないので、それは難しいのでは」
「私刑なので問題ない」
「問題しかないですけどねぇ…」
やれやれとソラスはため息を吐く。
どうやら随分ご立腹のようなので、対応が面倒くさい。
「なにか誤解をされているようですが、命令違反とはなんのことです」
「白を切るつもりか。カブエラが隣国に渡っていた!しかも、隣国の英雄と名高い将校の妻に収まっていた!
隣国に招待を受け、参加した舞踏会で紹介された時の私の気持ちがわかるか!
アレではまるで、私が道化のようで…!
貴様は私の命令に従っているように見せて、カブエラを密かに逃したな!」
ここまで怒りを表に出す王太子も久しぶりだ。
比較的柔和な王太子が、カブエラに対してだけ沸点が異常に低くなる。
それを考慮してもここ迄機嫌が悪いのは、優秀と言われる教師を付けてもリリーシュアの教育の進捗が芳しくないせいなのかもしれない。
…全然進んでいないといっても差し支えはない。
「濡れ衣ですよ。私はきちんと確認しましたよ。『知り合いの荒くれ男に渡して好きにさせる』と」
「ならず者ではないではないか!」
「…ならず者なんて一度も言ってないですよ。荒くれ者だとは言いましたが」
「英雄を荒くれ者だと言うつもりかっ!」
「荒くれ者じゃないですか…魔物が出れば先頭切って突っ込んで、悪党がいれば部下放ったらかして単独行動。作戦も無視、自分が指揮官だって自覚もないコミュ症糞野郎ですよ」
ソラスの吐き捨てるような言葉に、ざわつくのは王太子だけではなく王太子の後ろに控える護衛の騎士もだった。
彼の英雄伝はこの国には憧れの対象として語られている。
「その言いよう、無礼にも程があるだろう」
「別にいいじゃないですか。身内だからボロカスに言えるんですよ。それに事実ですし」
「身内…、?」
「カブエラ様を引き渡した荒くれ者は従兄なんです。嫁がほしいと常々駄々をこねていましたので」
大げさに肩をすくめる。
武勇伝は男には憧れでも、女受けはあまり良くなかった。
それ故、従兄の婚約相手はずっと不在のままだった。
見た目が良いわけでもない。野獣のような男に嫁ぎたい奇特な令嬢は、現れなかった。
「それに、命令違反はしてないですよ。カブエラ様を従兄と引き合わせたその日にあの糞野郎は寝室に連れ込みやがったので」
とは言っても、カブエラ様には面会前に事情をお伝えしていたし、初対面でカブエラ様に惚れた荒くれ従兄は阿呆みたいに求婚の言葉しか口にせず、承諾を貰えるまで床に這いつくばっていた。
英雄として人気の、上官としては不人気の、敵にとっては悪魔のような従兄が、カブエラ様の足元に額を擦りつけていた。
その光景は、酒の席で未だに笑い話になっている。
「荒くれ男はカブエラ様を穢し妻にした。貴方の命には背いてないですよ?」
王太子殿下は手元の資料を握りつぶし、ソラスに投げつけた。
ソラスは王太子殿下に呼ばれ、執務室にやって来た。
「…貴様、裏切っていたのか」
憎々しげにソラスを睨む王太子に、はて?と首を傾げた。
一体どの件だろうか…?
思い当たるふしが多すぎてソラスには、王太子の不機嫌の理由がどれなのか皆目検討がつかない。
「なんの事でしょうか」
「私は、二度と愚かなことをせぬようカブエラを穢せと命じたはずだっ!そうしたらは、お前は『ならず者に売りつける』と言っていたではないか!」
「…あぁ~カブエラ様のことですか」
手を打って、思い出した。
それももう、三年も前のことだけれど。
「命令違反には処罰を与える」
「正規の命令ではないので、それは難しいのでは」
「私刑なので問題ない」
「問題しかないですけどねぇ…」
やれやれとソラスはため息を吐く。
どうやら随分ご立腹のようなので、対応が面倒くさい。
「なにか誤解をされているようですが、命令違反とはなんのことです」
「白を切るつもりか。カブエラが隣国に渡っていた!しかも、隣国の英雄と名高い将校の妻に収まっていた!
隣国に招待を受け、参加した舞踏会で紹介された時の私の気持ちがわかるか!
アレではまるで、私が道化のようで…!
貴様は私の命令に従っているように見せて、カブエラを密かに逃したな!」
ここまで怒りを表に出す王太子も久しぶりだ。
比較的柔和な王太子が、カブエラに対してだけ沸点が異常に低くなる。
それを考慮してもここ迄機嫌が悪いのは、優秀と言われる教師を付けてもリリーシュアの教育の進捗が芳しくないせいなのかもしれない。
…全然進んでいないといっても差し支えはない。
「濡れ衣ですよ。私はきちんと確認しましたよ。『知り合いの荒くれ男に渡して好きにさせる』と」
「ならず者ではないではないか!」
「…ならず者なんて一度も言ってないですよ。荒くれ者だとは言いましたが」
「英雄を荒くれ者だと言うつもりかっ!」
「荒くれ者じゃないですか…魔物が出れば先頭切って突っ込んで、悪党がいれば部下放ったらかして単独行動。作戦も無視、自分が指揮官だって自覚もないコミュ症糞野郎ですよ」
ソラスの吐き捨てるような言葉に、ざわつくのは王太子だけではなく王太子の後ろに控える護衛の騎士もだった。
彼の英雄伝はこの国には憧れの対象として語られている。
「その言いよう、無礼にも程があるだろう」
「別にいいじゃないですか。身内だからボロカスに言えるんですよ。それに事実ですし」
「身内…、?」
「カブエラ様を引き渡した荒くれ者は従兄なんです。嫁がほしいと常々駄々をこねていましたので」
大げさに肩をすくめる。
武勇伝は男には憧れでも、女受けはあまり良くなかった。
それ故、従兄の婚約相手はずっと不在のままだった。
見た目が良いわけでもない。野獣のような男に嫁ぎたい奇特な令嬢は、現れなかった。
「それに、命令違反はしてないですよ。カブエラ様を従兄と引き合わせたその日にあの糞野郎は寝室に連れ込みやがったので」
とは言っても、カブエラ様には面会前に事情をお伝えしていたし、初対面でカブエラ様に惚れた荒くれ従兄は阿呆みたいに求婚の言葉しか口にせず、承諾を貰えるまで床に這いつくばっていた。
英雄として人気の、上官としては不人気の、敵にとっては悪魔のような従兄が、カブエラ様の足元に額を擦りつけていた。
その光景は、酒の席で未だに笑い話になっている。
「荒くれ男はカブエラ様を穢し妻にした。貴方の命には背いてないですよ?」
王太子殿下は手元の資料を握りつぶし、ソラスに投げつけた。
あなたにおすすめの小説
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私
白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
知らぬが花
鳥柄ささみ
恋愛
「ライラ・アーデ嬢。申し訳ないが、キミとの婚約は破棄させてもらう」
もう何度目かわからないやりとりにライラはショックを受けるも、その場では大人しく受け入れる。
これでもう婚約破棄と婚約解消あわせて十回目。
ライラは自分に非があるのではと自分を責めるも、「お義姉様は何も悪くありません。相手の見る目がないのです」と義弟であるディークハルトにいつも慰められ、支えられていた。
いつもライラに親身になって肯定し、そばにいてくれるディークハルト。
けれど、ある日突然ディークハルトの訃報が入ってくる。
大切な義弟を失い、泣き崩れて塞ぎ込むライラ。
そんなライラがやっと立ち直ってきて一年後、とある人物から縁談の話がやってくるのだった。
とある婚約破棄の事情
あかし瑞穂
恋愛
「そんな卑怯な女を王妃にする訳にはいかない。お前との婚約はこの場で破棄する!」
平民の女子生徒に嫌がらせをしたとして、婚約者のディラン王子から婚約破棄されたディーナ=ラインハルト伯爵令嬢。ここまでは、よくある婚約破棄だけど……?
悪役令嬢婚約破棄のちょっとした裏事情。
*小説家になろうでも公開しています。
エメラインの結婚紋
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――