淑女の仮面を被った悪女は、隣国に渡る

基本二度寝

文字の大きさ
11 / 11

十一

しおりを挟む
「それでは、殿下」
「…あぁ」

第一王子の最後の側近が頭を下げる。
一貴族に下がる王子に側近は不要。

理解はしているが、信頼していた臣下たちがあっさり去られると王子も堪えた。

「最後に一つ聞きたい」
「なんでしょう」

「カブエラのことを知っていたか?」
「…はい。隣国の英雄の伴侶になったのですよね」

側近を含め、他の貴族もこの話が隣国から流れてきた時、第一王子の前では控えた。

カブエラの事になれば癇癪を起こす彼の耳に入れば、八つ当たりを食うと皆、知っていた。
だから、側近の誰もが知ってて口を噤んでいた。

そんなことをおくびにも出さず、側近はしれっと答えた。

報告が上がっていないと、怒り上げることを想定し、先手を打つ。

「英雄の結婚式は盛大で、我が国の日刊紙にも一面で出ておりました。なので、当然ご存知だと考えておりましたが、…なにか?」

プライドの高い第一王子が「知らなかった」とは言い返せず、「そうだな」としか答えなかった。

二年前のその時期は、国王と第二王子夫妻が隣国に渡っていたので留守を預かっていた。
第一王子はその結婚式には呼ばれなかった、いや、王が参加させなかったのかもしれない。

第二王子の妃とカブエラは昔から仲が良く、カブエラが隣国に渡った後もずっと交流していたらしい。
行方不明の娘を探していた公爵も、いつの間にか爵位を返上して、隣国の英雄が賜った領地で経営手腕を振るっているらしいと聞いた。

全部、最近知った。

自分はもっと視野が広い人間だったはずなのに。

少なくともカブエラが婚約者だった時はこんな事にはならなかった。
覚えの悪かったカブエラに何度も指示を出し、反論があれば詳細確認した後に、指示内容の変更を行っていた。
何度も繰り返すカブエラの反論に辟易していたが、その指摘は想定外のことばかりで…即答できないことも多々あった。

まさかな。

認めたくはない。
母上に覚えの良くない女だと散々愚痴を聞かされた。

妃教育を終えるのに十年掛かった女だ。
彼女が自分よりも優秀であるはずなどない。

気づきたくなどない。

王子は覚えの悪い女を知った。
今日覚えたことは明日にはわすれるような女だ。
三年経っても貴族の教育も進んでいない女だ。

自分の隣に立って欲しいと望んだ女だった。


あの時。
カブエラが不貞の証拠を突きつけてきたあの時、リリーシュアを疑い、カブエラに味方すればこんな結果にはならなかったのだろうか。

いや、違う。

魔導令を発動してカブエラを王都から追放する烙印を押した時点で、この未来は決定づけていた。

誰のせいでもない。
自分で選んだ道なのだ。



いつの間にか最後の側近も消えていて、第一王子は一人になった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

夫の不倫劇・危ぶまれる正妻の地位

岡暁舟
恋愛
 とある公爵家の嫡男チャールズと正妻アンナの物語。チャールズの愛を受けながらも、夜の営みが段々減っていくアンナは悶々としていた。そんなアンナの前に名も知らぬ女が現れて…?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

私は人形ではありません

藍田ひびき
恋愛
伯爵令嬢アリシアには誰にも逆らわず、自分の意志を示さない。そのあまりにも大人しい様子から”人形姫”と揶揄され、頭の弱い令嬢と思われていた。 そんな彼女はダンスパーティの場でクライヴ・アシュリー侯爵令息から婚約破棄を告げられる。人形姫のことだ、大人しく従うだろう――そんな予想を裏切るように、彼女は告げる。「その婚約破棄、お受けすることはできません」 ※なろうにも投稿しています。 ※ 3/7 誤字修正しました。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

処理中です...