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七 近況に掲載した小話
【4/27】側近に求婚する小話
ーーー
「旦那様がお倒れになったようです」
そんな言葉を家令から聞いて、エレアーナは慌てて立ち上がった。
いつ、どこで。
「今は王城の医務塔に」
エレアーナは直ぐに馬車を用意させた。
前夜も抱き合って、身体の怠さはあったが、そんなことを言っている場合でもない。
馬車に乗り込み、手を握る。
今朝、異変もなく屋敷を出たと聞いている。
起きれなかった、見送りできなかったことを、悔いても意味はない。
エレアーナは、心の底から夫イグナーツの無事を祈っていた。
「エレアーナ?」
「イグナーツ…」
王城につくなり、すれ違う貴族への挨拶も目礼だけでやり過ごし、できるだけ早歩きでやって来てみれば、イグナーツは医務塔の一室で寝台に座り、書類を広げていた。
片腕には管が刺され、魔法薬の点滴を受けている。
顔色の悪さはない。
普段通りの夫に、エレアーナは安堵した。
「…こんな時くらいお仕事はやめてくださいませ」
イグナーツの目の前の書類を纏めて、伴ってきた家令に渡す。
「ここに来る前に回復師の先生に会いました。…避妊薬の乱用が原因ではないかと」
「いや、それだけというわけでもなくて」
「イグナーツ」
イグナーツはこの医務塔によく世話になっているらしい。
彼が屋敷に戻らない日は、体調不良で此処にいるのだと、回復師が困ったようにエレアーナに話したのだ。
屋敷に戻らないのではなく、戻れない。
エレアーナはぐっと拳を握る。
「貴方ばかりが避妊薬を使用せずともよいのです。私も服飲すれば良いだけのこと」
エレアーナは王太子から離れてみて、客観的に見た殿下の評価は、確かにイグナーツの言うとおり、彼の治世には不安があると理解している。
だから彼の子をもたないという選択にも納得した。
「私のわがままで貴女に負担をかけるつもりは」
「私達は夫婦ですよ」
互いに支え合うべき。
「次は私が避妊薬を飲みますからね」
「次、を?」
「…」
初めてエレアーナから次の閨を求められた。
イグナーツは手招きをしてエレアーナを呼ぶ。
管を刺している腕とは反対の手が、エレアーナの身体を抱いた。
エレアーナも、夫の身体に手を回す。
「今日は絶対に屋敷に戻ります、だから、いいですよね…?」
「もう少し、身体を労ったほうが良いのでは」
小言を零しつつも、エレアーナなその提案を拒否はしなかった。
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