能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る

基本二度寝

文字の大きさ
17 / 46

十七 結婚後五月 ? 下衆回

しおりを挟む
「本当にいいのかい?執事さんよ」

執事は招き入れた男の変装を解かせた。

使用人の采配は総て家令に一任されている。
出入りの人間は漏れ無く調べられている。
主からの不審人物の問い合わせに答えているのが家令だから、家令が問題なしと伝えれば、それはもう不審者ではなくなるのだ。

使用人の仮採用というていで一人の男を招き入れた。
今夜だけの採用だ。

使用人や護衛の誰かを使うか悩み、事が済んでからその者の奥様への挙動が不審になれば事が公になるやもしれぬと恐れ、家令は人を雇うとこにした。

「ええ。構いません。この家を守るために必要なのです」

「嫁いできた奥様が『純潔証明』を請求するなんてなぁ。離縁する気まんまんじゃねぇか」

くくく、と忍び笑う下品な男は、廃れた酒場にいたところを家令が顔を隠して声をかけた。
報酬と条件を出すと、簡単に男は飛びついてきた。

「…白い結婚など認めさせるわけには参りません」

月に二度、神父が訪れる度に奥様は『純潔証明』を発行させていた。

その行為はまるで家令を挑発し、主を貶しているように見えたのだ。

それに、家令は主からの「クエッカを家にとどめておくように」指示を受けている。

何度も主には屋敷に戻るように働きかけたが、「忙しい」とこの三ヶ月ほどは一度も戻られていない。
三年も純潔を守り『白い結婚』で離縁など、させるわけにはいかないのだ。

代々この家に仕えてきた家令の意地でもあった。


「確認するぞ。は、『奥様の純潔奪う』、でよかったんだな?」

「ええ」

「俺は楽しんでもいいんだよな?」

「…お好きにどうぞ。身体に傷をつけられると旦那様に気づかれる恐れがあるので怪我等は避けてくだされば結構です」

「よっしゃ!言質とったかんな」

ご機嫌な男を家令は冷めた目で見る。
主にとっては想い人かもしれないが、貴族夫人でありながら、わざわざ庭での作業に明け暮れている女。

いくら花が好きとはいえあまりに、だ。

暇だというので、裁縫や読書や楽器を勧めても興味を示さなかった。
夫人の仕事を与えなくていいと主が言うならば従う他ない。
主の望むようにのびのびと生活している。

それのなにが気に入らないのか!

純潔証明だと!白い結婚だと!離縁だと!

そんなもの認めない!!


「あと、執事さんよ。避妊具なんか用意してないぞ」

「構いません」

「えっ?腹が膨れてもいいってのか?」

男は思いの外紳士だなと家令は思う。
いや、紳士はこんな依頼を受けはしない。

「今夜の奥様の食事に避妊薬を混ぜてあるので。どれだけ…為さっても構いませんよ」

家令は笑った。
これは罰だ。家令をあざ笑う女への。

「へぇそれはそれは。周到なことで」

「どれだけ声を出させても構いません。元々そういう為の部屋なので。どれだけ泣いて叫んでも誰にもその声は届きません。…人払いもしていますしね」

夫婦の寝室。
彼女の純潔を奪うのが夫ではないけれど。

下品な男は更に下品に笑う。

「ああ、ただ一つ。情交の痕跡は一目でわかるようにしておいてください。
妙な同情をして行為に及ばなかったなんてことがないように。
純潔を失った、と一目でわかるように」

朝、自分の状態を見たクエッカがどんな顔をするのか。

離縁の為に必至に守って来た純潔が散らされたと知った彼女の絶望。

家令はたまらなくその顔が見たいと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、恋愛3位ありがとうございます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

処理中です...