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二十三 結婚後七月離縁申入済 C
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「上手く離縁に漕ぎ着けられました!先生!ありがとうございます」
いつもの屋敷の庭にやって来て、笑顔で感謝を伝えるクエッカにアレンは複雑そうに頬をかく。
クエッカは屋敷を出る用意を整えた。
離縁の申請は夫に任せることにした。
もし、一月経っても離縁が成立していなかったら、問答無用で王城の宰相宛に『初夜義務違反』と『純潔証明』を送りつけるつもりだ。強制的に離縁を認めさせてやるのだ。
「…どういたしまして…?俺はなにもやってねぇけど」
「ふふ!なので先生。私はもうすぐフリーです。帰るところもない可哀想な女なのです。先生のお手伝いもできます。お買い得ですよ!如何ですか」
グイグイといつになくクエッカはアレンに売り込みをする。
そしていつも通りにアレンはあしらう。
「はぁ…だからこんな爺じゃなくてもっと若い奴狙えよ。顔は良いんだからすぐに見つかるぞ」
「え?それは先生の目から見て私は可愛いと?」
「言ってねぇ」
「そうですか。…ならあの人に貰ってもらうしか」
ぽそりとつぶやくクエッカの言葉を拾ってしまったアレンは咳払いをする。
「なんだ、他に良い奴でもいるのか?」
「聞いてくれますか!すごい私好みの方が居まして!」
「…へぇ」
アレンの声のトーンが下がったのにも気づかずにクエッカは楽しげに続ける。
剪定中だったアレンの手にあった枝が大きな音を立てた。
「最初は怖い感じを醸し出していたんですけどね。でもちょこちょこ人の良さが出てしまっていて…」
ふふ、と笑うクエッカに面白くなさそうに気のない相槌が上から降ってくる。
「『逃げられねぇんだよ』なんて言いつつ、『大丈夫か?』なんて気遣いもあって」
パキパキっと短い枝が落ちてくる。
落とすべきでない枝まで落としていることに庭師は気づいていない。
「キスをされた時も、心地よさについ『もっと』なんてはしたなくねだってしまい、でも『お望みならいくらでもどーぞ』なんてっ!きゃあ」
「キスまでしたのか!」
アレンはクエッカの肩を掴んで揺さぶる。
「え、あ、はい」
「っ、誰でも簡単に許すなよ!ったくクエ、奥様は隙だらけだからな」
「いや、他の方には許しませんよ?」
クエッカはじぃっとアレンを見つめる。
「その方は『大事なハジメテを俺みたいな糞野郎に散らされて可哀想な女だ』とおっしゃって」
アレンは、はっとして…ごくりと唾を飲み込んだ。
「『痛いか。悪いな。もう少しだ』って、演じている人物の性格設定のブレが激しくてそれがまた愛しすぎて」
「…」
「『俺の子が欲しいか?孕ませてやろうか?』と耳元で」
「止めろ。わかった。もういい」
「『ああ…このまま拐っていきたい』と」
「ない。それはない」
「『俺の嫁にしたい』と」
「言ってない。絶対に言ってない」
「『ああこのまま快楽の海で泳ぎたい』と」
「なんだよそのポエムは」
「『クエッカ、愛してる』と」
「…」
アレンは背を向けて、枝の剪定を再開した。
「まぁ、家令さんが彼の連絡先が持っていたみたいで、お腹を擦りながらこの子を父親に会わせてと泣き落としたら渡してくれました」
「その薄い腹には何もないだろ?安酒好きの医者がちょくちょく診察してたし、そもそも旦那様に『子ができた』って言ったのもここで受粉作業してた花の実のことじゃねぇかよ…。
それに…その住所にはもう、誰も居ないと、思うなァ」
「行ってみたらわかります」
一歩も引かないクエッカに、天を仰いで、…アレンは折れた。
「今日の仕事はきちんと済ませるかんな」
「お手伝いします」
クエッカは別の剪定鋏をさっと差し出した。
アレンが植物によって変える鋏をクエッカは覚えている。
助手としての彼女は有能なのは知っている。
にこにこと笑うクエッカに、「不味ったなぁ」とアレンが呟いた。
いつもの屋敷の庭にやって来て、笑顔で感謝を伝えるクエッカにアレンは複雑そうに頬をかく。
クエッカは屋敷を出る用意を整えた。
離縁の申請は夫に任せることにした。
もし、一月経っても離縁が成立していなかったら、問答無用で王城の宰相宛に『初夜義務違反』と『純潔証明』を送りつけるつもりだ。強制的に離縁を認めさせてやるのだ。
「…どういたしまして…?俺はなにもやってねぇけど」
「ふふ!なので先生。私はもうすぐフリーです。帰るところもない可哀想な女なのです。先生のお手伝いもできます。お買い得ですよ!如何ですか」
グイグイといつになくクエッカはアレンに売り込みをする。
そしていつも通りにアレンはあしらう。
「はぁ…だからこんな爺じゃなくてもっと若い奴狙えよ。顔は良いんだからすぐに見つかるぞ」
「え?それは先生の目から見て私は可愛いと?」
「言ってねぇ」
「そうですか。…ならあの人に貰ってもらうしか」
ぽそりとつぶやくクエッカの言葉を拾ってしまったアレンは咳払いをする。
「なんだ、他に良い奴でもいるのか?」
「聞いてくれますか!すごい私好みの方が居まして!」
「…へぇ」
アレンの声のトーンが下がったのにも気づかずにクエッカは楽しげに続ける。
剪定中だったアレンの手にあった枝が大きな音を立てた。
「最初は怖い感じを醸し出していたんですけどね。でもちょこちょこ人の良さが出てしまっていて…」
ふふ、と笑うクエッカに面白くなさそうに気のない相槌が上から降ってくる。
「『逃げられねぇんだよ』なんて言いつつ、『大丈夫か?』なんて気遣いもあって」
パキパキっと短い枝が落ちてくる。
落とすべきでない枝まで落としていることに庭師は気づいていない。
「キスをされた時も、心地よさについ『もっと』なんてはしたなくねだってしまい、でも『お望みならいくらでもどーぞ』なんてっ!きゃあ」
「キスまでしたのか!」
アレンはクエッカの肩を掴んで揺さぶる。
「え、あ、はい」
「っ、誰でも簡単に許すなよ!ったくクエ、奥様は隙だらけだからな」
「いや、他の方には許しませんよ?」
クエッカはじぃっとアレンを見つめる。
「その方は『大事なハジメテを俺みたいな糞野郎に散らされて可哀想な女だ』とおっしゃって」
アレンは、はっとして…ごくりと唾を飲み込んだ。
「『痛いか。悪いな。もう少しだ』って、演じている人物の性格設定のブレが激しくてそれがまた愛しすぎて」
「…」
「『俺の子が欲しいか?孕ませてやろうか?』と耳元で」
「止めろ。わかった。もういい」
「『ああ…このまま拐っていきたい』と」
「ない。それはない」
「『俺の嫁にしたい』と」
「言ってない。絶対に言ってない」
「『ああこのまま快楽の海で泳ぎたい』と」
「なんだよそのポエムは」
「『クエッカ、愛してる』と」
「…」
アレンは背を向けて、枝の剪定を再開した。
「まぁ、家令さんが彼の連絡先が持っていたみたいで、お腹を擦りながらこの子を父親に会わせてと泣き落としたら渡してくれました」
「その薄い腹には何もないだろ?安酒好きの医者がちょくちょく診察してたし、そもそも旦那様に『子ができた』って言ったのもここで受粉作業してた花の実のことじゃねぇかよ…。
それに…その住所にはもう、誰も居ないと、思うなァ」
「行ってみたらわかります」
一歩も引かないクエッカに、天を仰いで、…アレンは折れた。
「今日の仕事はきちんと済ませるかんな」
「お手伝いします」
クエッカは別の剪定鋏をさっと差し出した。
アレンが植物によって変える鋏をクエッカは覚えている。
助手としての彼女は有能なのは知っている。
にこにこと笑うクエッカに、「不味ったなぁ」とアレンが呟いた。
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