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六
しおりを挟む『王が、子をなせない妾にしか身体が反応しないとなれば、跡継ぎをどうするつもりなのですか』
『さぁ?王は元々彼女しか愛さないと公言していましたし。私に先代王弟の子息の公爵当主をあてがって来たくらいですから、王家の血筋の養子でも迎えれば良いのでは?』
『あてがってきたって…』
司書の男は呆然としている。
あまりに突飛で信じられないのだろう。
『それも見越して公爵夫人にもおまじないを実践してもらっていましたから、私の身は守られました。
その後も懲りずに何人もの王家の血筋の貴族当主をつれて来られましたけどね。
少しお痛がすぎる者はこれを機に捕縛させていただきましたが』
『…おと、王はそのような人物なのか』
王立図書館の司書である彼は平民だ。
平民が知る王の像はきっと違ったのだろう。
仕事は出来る。サリーシアと同じく民の事を考えている王であることには違いない。
平民には治世の安定が王の評価なのだ。
『国民に愛される王が出来た人物だと思っていらっしゃったのなら夢を壊して申し訳ありません』
司書の男は、サリーシアのこの計画を反対していた。
サリーシアが婚姻前に一度婚約破棄されたことも、平民まで話は流れていなかったらしい。
婚約者がいながらその友人と恋仲になる男が王だとは。
『あと少し。離縁が認められるまで』
黙った目の前の男は、サリーシアの手元にあった古書をじっと見つめている。
『離縁された後は…どうなさるおつもりですか…』
『そうね。元王妃なんて不良物件はだれも手を出しかねるでしょうから。市井に下るのもよいかと』
貴族らしい貴族のサリーシアの父が出戻りを許すとも思えない。
『…平民は、貴族の方が耐えられる環境ではないですよ。もっと現実的な案を』
真面目に考えろと眉を釣り上げた男に、サリーシアはニコリと笑った。
『そうかしら?私は王立図書館の司書を夫に持つのも良いかと思っておりますけど』
『お戯れを』
『ですが、あり得た未来ではないですか』
司書の男は首を振る。
彼が此処で苛立っているのはサリーシアの将来を案じての事だとわかっている。
サリーシアを厭い拒否されているわけではない…はずだ。
『王が…自身の不能に気づき、私に他の王家の血筋の者と子を作らせようとしたあの時』
目の前の男は古書から目を外し、サリーシアに顔を向けた。
『従弟の公爵よりもっと近い人物がいるのに、と思いました。
その方が現れたのであれば、きっと離縁はできなかったでしょうね』
『…呪いが効いていない相手だから』
『そうです。それに、きっと私は拒まなかったでしょうから』
そうでなかったから全力で拒否した。
『…』
『秘匿された王子。側妃を母に持つ第一王子は、王妃が産んだ第二王子を王にするために、側妃諸共王宮から追い出された悲劇の王子』
ふぅと目の前の司書の男が息を吐く。
『城を出されたのは十になる前の頃でしたか。王に兄の記憶がなかったのは彼がまだ幼かったから?』
『よく…調べましたね。私の存在は抹消されているはずなのに』
司書の男は、肩をすくめ両手をあげて降参の姿勢をとった。
『さぁ?王は元々彼女しか愛さないと公言していましたし。私に先代王弟の子息の公爵当主をあてがって来たくらいですから、王家の血筋の養子でも迎えれば良いのでは?』
『あてがってきたって…』
司書の男は呆然としている。
あまりに突飛で信じられないのだろう。
『それも見越して公爵夫人にもおまじないを実践してもらっていましたから、私の身は守られました。
その後も懲りずに何人もの王家の血筋の貴族当主をつれて来られましたけどね。
少しお痛がすぎる者はこれを機に捕縛させていただきましたが』
『…おと、王はそのような人物なのか』
王立図書館の司書である彼は平民だ。
平民が知る王の像はきっと違ったのだろう。
仕事は出来る。サリーシアと同じく民の事を考えている王であることには違いない。
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『国民に愛される王が出来た人物だと思っていらっしゃったのなら夢を壊して申し訳ありません』
司書の男は、サリーシアのこの計画を反対していた。
サリーシアが婚姻前に一度婚約破棄されたことも、平民まで話は流れていなかったらしい。
婚約者がいながらその友人と恋仲になる男が王だとは。
『あと少し。離縁が認められるまで』
黙った目の前の男は、サリーシアの手元にあった古書をじっと見つめている。
『離縁された後は…どうなさるおつもりですか…』
『そうね。元王妃なんて不良物件はだれも手を出しかねるでしょうから。市井に下るのもよいかと』
貴族らしい貴族のサリーシアの父が出戻りを許すとも思えない。
『…平民は、貴族の方が耐えられる環境ではないですよ。もっと現実的な案を』
真面目に考えろと眉を釣り上げた男に、サリーシアはニコリと笑った。
『そうかしら?私は王立図書館の司書を夫に持つのも良いかと思っておりますけど』
『お戯れを』
『ですが、あり得た未来ではないですか』
司書の男は首を振る。
彼が此処で苛立っているのはサリーシアの将来を案じての事だとわかっている。
サリーシアを厭い拒否されているわけではない…はずだ。
『王が…自身の不能に気づき、私に他の王家の血筋の者と子を作らせようとしたあの時』
目の前の男は古書から目を外し、サリーシアに顔を向けた。
『従弟の公爵よりもっと近い人物がいるのに、と思いました。
その方が現れたのであれば、きっと離縁はできなかったでしょうね』
『…呪いが効いていない相手だから』
『そうです。それに、きっと私は拒まなかったでしょうから』
そうでなかったから全力で拒否した。
『…』
『秘匿された王子。側妃を母に持つ第一王子は、王妃が産んだ第二王子を王にするために、側妃諸共王宮から追い出された悲劇の王子』
ふぅと目の前の司書の男が息を吐く。
『城を出されたのは十になる前の頃でしたか。王に兄の記憶がなかったのは彼がまだ幼かったから?』
『よく…調べましたね。私の存在は抹消されているはずなのに』
司書の男は、肩をすくめ両手をあげて降参の姿勢をとった。
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