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二 ○

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「お嬢様、婚約者様がいらっしゃってます」

起き抜けに侍女から言われた言葉に飛び起きた。

「えっ…何も聞いてないのだけど…。お約束してたかしら、」

侍女は笑っている。
何がおかしいのだろうか。
なんだか、いつもの侍女の雰囲気ではない。

「あの方が約束なんて取り付けるわけ無いではないですか」

そう、だったのかしら…?

ターゼンがやってくるのは主に父親に用事のある時。
ついでにと婚約者同士のお茶の場を設けるけれど、出されたお茶を一杯だけ飲むと即座に帰ってしまう。

いつも彼がやって来る日は父が教えてくれていたので事前に知り得ていたのだ。

「すぐに着替えないと」
「あら?今日はお会いになるんですか?」

揶揄うような侍女の言葉にユリエンティは目を丸くする。

「当たり前でしょう?婚約者なのだから」

嫌われていても、やはり会えるのならば会いたい。

おや?と首を傾げる侍女を急かしてユリエンティは最速で着替えた。



「俺のユーリ!おはよう」

ユリエンティはサロンの扉を開けて、面食らった。
目の前に壁があって、身体を拘束された。

頭の方から、チュッチュっと鳥のさえずるような音もする。

「え、…と」

ユリエンティは頭が上手く働かず、状況の処理に時間を要した。

「?ユーリ。どうした?今日は。やけに大人しいな」

目の前に男の顔が現れて、ようやく目の前の壁が人の身体だと、身体の拘束は目の前の男に抱きつかれているのだと理解した。

「…っ誰!?」

「…なるほど…今日はそうきたか」

拘束から逃れようと身じろいでも、男の腕は緩むことはなく、膝裏に腕を通されて、易易と抱き上げられてしまう。

「俺はユーリの婚約者。ダナード。
いつもみたいな、馬鹿だの糞だの元気な挨拶じゃなくて初対面ごっこかな」

ダナード…。
その名前で思い当たる人物は、公爵家の令息。
たしか、ターゼンの従兄弟にあたる方だったように思うけれど…。


婚約者ってどういうこと!?

公爵令息に抱き上げられている事実に理解能力の許容範囲を超えたユリエンティは気を失った。

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