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七 ターゼン
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「大公主催の夜会にお前は参加するのか?」
「バーカできるわけ無いだろ」
昔からの悪友達に誘われて出てきてみれば、昼間だというのに酒が入っているようでややテンションが高い二人組が騒いでいた。
婚約解消おめでとうー!と店中に響くくらい大きな声をあげられて参った。
「夜会?お祖父様の?いつだそれは」
夜会ならば新たな令嬢との出会いがあるかもしれない。
「いつって今夜のやつだよ」
「婚約者のいない子女を集めて見合い目的の夜会っというのが建前で、じつはユリエンティ嬢の新しい婚約者を見繕うために大公が開くって噂だけど」
「お祖父様が…?なぜあの女に…」
「何故ってそりゃ恩人の孫だから、大公はユリエンティ嬢に甘いからなぁ」
身内の事なのに、他者から聞かされる事実に目を丸くした。
確かにお祖父様にはよくユリエンティのことを聞かれていたけれど…。何故かなんて気に留めることもなかった。
「ユリエンティ嬢を射止めた者が大公の後を継ぐって噂は本当なのかねぇ」
「それは、ターゼンの時だけだったんじゃないのか?ユリエンティ嬢が全くの他人を選べそうはいかないしな」
「…今なんていった?」
「なにが?」
「大公を継ぐ…?」
「だからそれはターゼンが婚約者だった時の話で」
「大公蹴るほどあの令嬢に入れこんでたとは驚いたけどな。男爵家の長女だっけ。この前デートしてた子。あの子と結婚したかったんだろ?」
婚約解消を知らされ、喜び勇んで会いに行った令嬢のことかと思い当たるが、彼女にユリエンティとの婚約解消を報告すると喜ぶどころか青い顔をして追い立てられてから都合が悪いと会えなくなった。
まさか、大公の後釜が自分だったなんて。
大公…。
大公ならば、侯爵家よりも爵位は上。兄や父を見下せる立場になれる。
「はは…は」
「そうか。そんなに嬉しいのか!よかったなー結婚式には呼んでくれよな」
最早悪友たちの言葉など耳に入って来ない。
兄が話していたのはこの事だったのかと思いあたり、姑息な兄はターゼンには大公の後釜の話をしなかったのだと、他の令嬢と遊び歩くターゼンを強く非難しなかったのだと理解した。
ユリエンティと婚約解消させるために…!
今ならまだ大丈夫だ。
婚約解消してから日も浅い。
まだ、大丈夫だ。
ユリエンティはターゼンを愛しているのだから。
招待状もない大公主催の夜会に無理やり入り込めたのは、幼い頃から出入りしていた屋敷なので抜け道も熟知していたから。
一度も袖を通したことのなかった、お祖父様が用意していたユリエンティの色に合わせた衣装を身に着け、彼女を探す。
あの程度の女なら甘く囁いてやればすぐに復縁を求められるだろうと考えていた。
ユリエンティとダンスを踊ったという男達が、こぞって彼女を褒め称える。
ターゼンは愉悦に浸った。
残念だな。それは俺のものだ。
彼女と一度も踊ったことなどないことも頭になかった。
ざわりと騒ぐ方に目を向けると、一際豪華な衣装に身を包むユリエンティが見えた。
ドレスのスカート部分には光の加減で薄く見える程度に鷲の刺繍がされている。
大公家の家紋にあるその鳥は、父も兄も望んで得られなかったもの。
彼女に駆け寄ろうとして、隣に侍る男に気づいた。
地味で草臥れた軍服で夜会に参上するような馬鹿は一人しか思いつかない。
従兄弟のダナード。
同じ二男でも、あっちは棒を振り回すような粗雑な男。
ユリエンティをエスコートして中庭から会場に戻ってきたようだが、声をかけようとしてターゼンは留まった。
ユリエンティのダナードを見つめる瞳は以前ターゼンに向けられていたものによく似ていた。
ターゼンはユリエンティに間違いなく愛されていた。
だからわかった。
彼女が今、愛情を向けている相手がもう自分ではなくなっている。
お祖父様に急ぎ呼びつけられ、慌てて軍服姿でやってきただろう無様な男を。
ユリエンティは、愛情を込めた瞳で見上げていたのだった。
「バーカできるわけ無いだろ」
昔からの悪友達に誘われて出てきてみれば、昼間だというのに酒が入っているようでややテンションが高い二人組が騒いでいた。
婚約解消おめでとうー!と店中に響くくらい大きな声をあげられて参った。
「夜会?お祖父様の?いつだそれは」
夜会ならば新たな令嬢との出会いがあるかもしれない。
「いつって今夜のやつだよ」
「婚約者のいない子女を集めて見合い目的の夜会っというのが建前で、じつはユリエンティ嬢の新しい婚約者を見繕うために大公が開くって噂だけど」
「お祖父様が…?なぜあの女に…」
「何故ってそりゃ恩人の孫だから、大公はユリエンティ嬢に甘いからなぁ」
身内の事なのに、他者から聞かされる事実に目を丸くした。
確かにお祖父様にはよくユリエンティのことを聞かれていたけれど…。何故かなんて気に留めることもなかった。
「ユリエンティ嬢を射止めた者が大公の後を継ぐって噂は本当なのかねぇ」
「それは、ターゼンの時だけだったんじゃないのか?ユリエンティ嬢が全くの他人を選べそうはいかないしな」
「…今なんていった?」
「なにが?」
「大公を継ぐ…?」
「だからそれはターゼンが婚約者だった時の話で」
「大公蹴るほどあの令嬢に入れこんでたとは驚いたけどな。男爵家の長女だっけ。この前デートしてた子。あの子と結婚したかったんだろ?」
婚約解消を知らされ、喜び勇んで会いに行った令嬢のことかと思い当たるが、彼女にユリエンティとの婚約解消を報告すると喜ぶどころか青い顔をして追い立てられてから都合が悪いと会えなくなった。
まさか、大公の後釜が自分だったなんて。
大公…。
大公ならば、侯爵家よりも爵位は上。兄や父を見下せる立場になれる。
「はは…は」
「そうか。そんなに嬉しいのか!よかったなー結婚式には呼んでくれよな」
最早悪友たちの言葉など耳に入って来ない。
兄が話していたのはこの事だったのかと思いあたり、姑息な兄はターゼンには大公の後釜の話をしなかったのだと、他の令嬢と遊び歩くターゼンを強く非難しなかったのだと理解した。
ユリエンティと婚約解消させるために…!
今ならまだ大丈夫だ。
婚約解消してから日も浅い。
まだ、大丈夫だ。
ユリエンティはターゼンを愛しているのだから。
招待状もない大公主催の夜会に無理やり入り込めたのは、幼い頃から出入りしていた屋敷なので抜け道も熟知していたから。
一度も袖を通したことのなかった、お祖父様が用意していたユリエンティの色に合わせた衣装を身に着け、彼女を探す。
あの程度の女なら甘く囁いてやればすぐに復縁を求められるだろうと考えていた。
ユリエンティとダンスを踊ったという男達が、こぞって彼女を褒め称える。
ターゼンは愉悦に浸った。
残念だな。それは俺のものだ。
彼女と一度も踊ったことなどないことも頭になかった。
ざわりと騒ぐ方に目を向けると、一際豪華な衣装に身を包むユリエンティが見えた。
ドレスのスカート部分には光の加減で薄く見える程度に鷲の刺繍がされている。
大公家の家紋にあるその鳥は、父も兄も望んで得られなかったもの。
彼女に駆け寄ろうとして、隣に侍る男に気づいた。
地味で草臥れた軍服で夜会に参上するような馬鹿は一人しか思いつかない。
従兄弟のダナード。
同じ二男でも、あっちは棒を振り回すような粗雑な男。
ユリエンティをエスコートして中庭から会場に戻ってきたようだが、声をかけようとしてターゼンは留まった。
ユリエンティのダナードを見つめる瞳は以前ターゼンに向けられていたものによく似ていた。
ターゼンはユリエンティに間違いなく愛されていた。
だからわかった。
彼女が今、愛情を向けている相手がもう自分ではなくなっている。
お祖父様に急ぎ呼びつけられ、慌てて軍服姿でやってきただろう無様な男を。
ユリエンティは、愛情を込めた瞳で見上げていたのだった。
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