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1章無色透明な習作
5異世界へ行く条件1
しおりを挟む惟賀正義が管理人へ既に事情を話してあったのか、渡がその名と用件を伝えると件の勇者の部屋の鍵を渡され、すんなりとその中へと入った。
惟賀正義の部屋はここに人間が住んでいたとは思えないくらいに整然としていた。
「キッチリしていたんだな。おい、ちょっと見てくれよ」
私は部屋のデスクの上にある紙を見て渡に声を掛けた。
それは長いリストでこの部屋の主がどのような条件になったらこの世とおさらばするかという条件が長々と書いてあった。以下抜粋すると
1この世の中に興味のある事が無くなった時
2何らかの身体的障害を2か所以上負った時
3高度な知的活動を行えなくなった時(精神障害の兆候を含む)
4不平不満を何らかの手段(違法行為除く)で解消または軽減できないと場合
以下40項目にわたって延々と記述されていたがこれ以上は記述する事自体が胸糞悪くなるのでやめる
少なくともこんな風に自分の生き方を決めていたら息苦しくないだろうか、というのが率直な感想だった。
「ああ、彼の信条だろ?それこそ僕が彼を選んだ理由でもある」
「正気か?普段彼は何をしていたんだ?」
「介護士だといっていた」
「これ程不適当な奴もいないだろう」
「むしろ以前から持っていた考えが強化された、と見るべきだね。彼の言葉を借りれば現実の介護現場というのは相当な地獄と聞くからね」
「しかし、こいつが仮にも勇者として適正だとはとても思えない。一体ガムシャラットという異世界と彼がどうしてマッチングするんだ?」
「まずガムシャラットなる異世界は我々の世界でいう所の中世ヨーロッパ風の異世界だ。これでもう理解できると思うが文明は僕らのより劣っていて住人は貧しく、苦しい生活を強いられている。魔法なんかもあるんだが、どうにも使える人間が少ないので普及していない。だが住人はそんな中でも懸命に生きている。いや、懸命過ぎて視野狭窄と言っていい。とにかく保守的で頑固で自分らのやり方を変えようとしない。連中にとっての未来とは高々3時間後の事だ、といえばそれが誇張で無いとわかるだろう」
「そんな人間達がとても悪神に対抗できるとは・・・いやだからなのか」
「そう。すぐに悪神の姦計に嵌まり現地住民ではまるで対処ができなかった。装備や技術はお粗末だし、加えて考えなしに突っ込んでいっては何度も返り討ちに逢っているのだからね。未来の投資や布石よりも今日明日の食べるものの方がまず第一の連中に長期に渡る不和とか陰謀に対応するなんて事はまず不可能と言っていい。これはもはや住民の気質を変える以外ないが、そんな悠長なことをしている暇はない。そこで彼らにとっての異世界人の救世主が必要という訳だったのだ」
「だけど、それならば別に彼でなくとももっと立派な人物を送ってもよさそうじゃないか」
「フム、例えば?」
私は渡の表情に少なからぬ嘲りがあるのに気づいたが構わず続けた。
「義侠心にあふれ、心優しい思いやりのある人間さ」
「君の言う通りだ。しかしその持論には一つ欠陥がある」
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